22.解放
「ら゙ぁあ!」
クガは大剣をぶん回し、アラクネに斬りかかる。
「っ……! どういうこと……? 人間のパーティは四人が最大では?」
アラクネは自身の有する知識との不一致で多少、困惑している。
実際、そのとおりである。
ダンジョンの不可思議な制約により、四人以上で構成すると、四を超えたメンバーが行動不能となるのだ。
「……」
そうだな……まさかこの特性を使うことになるとは思わなかった。
クガは心の中で思う。
【救世か……】
【あの勇者のクソ特性のおかげか……!】
[特性:〝救世〟]
四人のパーティに対し、戦闘中に入れ替わりで、乱入できる。
つまるところ、クガはサイオンと入れ替わりで戦闘に乱入していた。
合理性を考えれば、すでに行動停止に陥っていたユリアかミカリと交代で入った方が良かったのかもしれないが、咄嗟のことであることもあったが、クガは交代相手にサイオンを選んだ。
「……」
文字どおり蚊帳の外となったサイオンは思う。
だったら、僕を外に出してから扉を閉めてほしかった……と。
「アリシア! もう一つだけ頼みがある!!」
アラクネと対峙しながら、クガが普段よりかなり大きい声で叫ぶ。クガの後方ではアリシアも待機していた。
「ぬ……? なんだ? クガ」
「そいつをアラクネの攻撃の流れ弾から保護してくれ!」
そいつとはサイオンのことであった。
「気は進まぬが、了承した。まぁ、アラクネとは面識もなく、果たさねばならぬ義理もないからな」
【吸血鬼さん、来てたんだー】
【今日は協力してくれないのー?】
「残念だが、私にはこの戦いへの参加資格はないようだ」
【魔物も四人縛りが適用されるのか?】
【新発見だな】
「と、とんだ災難だ……こんな半端者が来たところで……」
サイオンは怒り、混乱、そしてリスナーの期待が自身からクガへ移ったことへの妬みからかそんなことを口走る。が……。
「おい、腰抜けヒーラー……」
「っ……!」
サイオンにそのような罵声を浴びせたのは負傷した剣聖、セラであった。
「俺らを見下すのはまだ理解できる……だが、俺達を残して逃亡を図ったお前ごときがクガを見下すことは許容できない」
「っ……!」
奴を無慈悲に追放したのはお前だろ……?
サイオンはセラが何を言っているのかさっぱり理解できなかった。
【え? サイオンさん、逃亡図ったの?】
「ちがっ……」
【サイオンさんがそんなことするわけ……】
「そぅ……」
【でも一瞬、不自然にブラックアウトした】
【確かに】
【そういえば前のパーティが全滅した時もそうだった】
「っっ……!」
【あー、これは黒、確定ですわぁ】
【見損なったわ、サイオン……】
【だっさ……】
「っっっ」
サイオンは完全に言葉を失う。
一方、クガは単騎、アラクネと対峙していた。
「っ……」
「な、なんなのこいつ……」
クガはリーチの長い大剣でもって、力ずくで押し込んでいく。
「このっ……!」
状況を整えたいアラクネは棘により牽制を図る。
しかし、クガはそれを避けることなく、突っ込んでいく。
クガは棘を受けながら、大剣を叩き下ろす。
「っ……」
アラクネは咄嗟に二本の蜘蛛の脚で防ごうとする。
が、その二本の脚は一刀両断され、さらには上半身へと刃が届く。
「きゃぁああ!」
アラクネは上半身の右腕をも喪失する。
【え……? S級相手にタイマンで優勢……?】
【いや、確かに吸血鬼さんとやってた時も善戦してるなぁとは思ったけども】
【クガってこんなに強かったの?】
コメントはS級ボス相手にクガがタイマンで善戦するという異常事態にざわつく。
しかし、その状況にさして疑問を抱かぬ者も数名いた。
〝そうだ……これが本来のクガの力だ……〟
剣聖:セラがその代表であった。
◇
「クガにはクマゼミを辞めてもらう」
「「え……?」」
一月ほど前の話――。
セラがその話を持ち出した時、ユリアとミカリの二人は当然、驚き、そして困惑の表情を見せた。
断腸の想いだった。
気づかないフリをしていたのかもしれないが、ずっと気づいていた。
クガは器用貧乏などではない。
勇者のジョブは器用貧乏、それ自体は定説であり、事実であった。
しかし、クガ自身は違う。
単なる勇者を超越していた。
攻撃、防御、補助、治癒、全ての能力が一流であった。
要するにクガは、ただの万能だった。
その実力はソロでS級ボスに匹敵するほど。
クガには天賦の才能があった。それに加えて、クマゼミを守るためという何とも無欲な目的からは想像もつかないほど、陰ながらの努力を重ねたことで、その隠された才能が開花した。
それなのにクマゼミにヒーラーがいないことで、ヒーラーとタンクの役割を担い、俺達を死なせないためにその才能を浪費していた。クガは自分達のような凡人とは違う領域にいる。このままではいつか実力の吊りあわない凡人を守るために、リタイアすることになるだろう。
だから、俺達という足枷から解放してやらなければならない。
「……そ、それはわか……ってはいたけど……」
「……」
「でも、わざわざそんなやり方にしなくてもいいんじゃない? ちゃんと説明すれば……」
ミカリはセラが話したクガをパーティから〝解放〟する方法に反論する。
「普通に説明すれば、あいつは必ず固辞する」
「……!」
「クガは自己評価が低い上に、頑固なほどに義理堅すぎる。親友……といっても思ってるのは俺だけかもしれないが……少なくともかれこれ七年の付き合いの俺が言っているんだ、間違いない」
「「……」」
二人は反論できない。彼女らも長い付き合いなのは同じだ。だから彼が義理堅いことは知っている。しかしもっとも親密なのはやはりセラだった。
「クガはおそらく独りで隠しボスの〝吸血鬼〟を討伐……までは至れなかったとしても善戦し、その名を知らしめるだろう。あいつの実力はソロS級の〝あいうえ王〟か、唯一のSS級のパーティ〝サムライ〟に匹敵するはずだ……いや、それ以上のポテンシャルすらあると俺は思っている」
そうして彼らはクガへの脱退宣告と吸血鬼との対峙を行わせた。もしもの時は、自身らも隠し部屋に突入できるようにクガの配信を確認しながら、付近で待機していた。方向性は予想の斜め上であったが、結果として、セラの想定どおり、クガを助ける必要はなかった。
◇
「治癒」
クガは自身への棘によるダメージを修復する。
「っ……」
アラクネは唇を噛み、焦燥の表情を見せる。




