表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された器用貧乏、隠しボスと配信始めたら徐々に万能とバレ始める~闇堕ち勇者の背信配信~(WEB版)  作者: 広路なゆる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/99

20.蜘蛛の巣に掛かるセミ

 人狼の館での出来事から数日後――。


 アリシアの仮住まいにて。


 その日は、クマゼミの配信の通知が来ていた。アリシアが観たいというので、再びクマゼミの配信を観ることにした。


「今日は何をするんだろうなー、クガの元仲間」


「そうだな……」


 前回の配信で不調だったクマゼミのメンバーのことがクガも少し気になっていた。


 ◇


 地下37層――。

 その日、クマゼミは地下37層の結晶の洞窟に、鉱石の採掘に来ていた。

 新メンバーである神官のサイオンの杖の強化に必要な素材を入手するのが目的である。


「今日は採掘中心なので、あまり戦闘になるようなことはないかと思いますが、前回の配信では、少々、連携に難がありましたので、メンバー内でしっかり意識統一をして参りました」


 サイオンがリスナーに向けて、そんなことを言う。


「メンバー達もしっかり僕の指導を受けてくれて、及第点には達していますので、安心してご覧ください」


【サイオンさん、流石~】

【それなら安心して観られるね】

【なんだかなー】

【うーん……】


 その後方で、剣聖のセラと聖女のユリアがピッケルを振り回している。

 採掘担当のセラとユリア、見張り担当のミカリとサイオンというように分担しているようだ。

 セラとユリアは言葉を発することなく、黙々と作業している。


「ミカリさん、僕が加わってから今日、初めて観に来てくれた方もいるでしょうし、せっかくだから、改めてリスナーの皆さんに僕のことを紹介してくれないかい?」


「あ、そうですね。えーと、新メンバーでジョブ:神官のサイオンさんです。パーティでも重要な役割であるヒーラーを担当してもらっています」


 ミカリはニコニコしながら紹介する。


「うんうん……それから……?」


「それから? あ、えーと……サイオンさんはメンバー斡旋所に相談させてもらって、運……よく、斡旋してもらえました」


 ミカリはニコニコしている。


「うんうん……それからそれから……?」


「それから? ……えーと、サイオンさんはかの有名なS級パーティ第一位のルユージョンさんが相談役を務めている探索者育成スクールのヒーラー部門でS級相当の評価を得ている非常に優秀なヒーラーのスペシャリストになります」


 ミカリはニコニコしている。


「うんうん……ミカリさん、ありがとう。来てくれている方も多いからすでに御存じかもしれないけど、前のパーティではボス戦で僕だけが生き残ってしまうという不本意な結果になってしまった」


 サイオンは自分語りをする時の癖なのか、後ろに手を組んで、歩き回るようにしながら語る。


【そうだね……あれは残念だったね】

【他のメンバーには悪いけど、サイオンさんだけ実力が突出してたんだよ】

【そういう意味ではこのパーティもちょっと心配だけど……】


「皆、僕を応援するのは有り難いけど、パーティを貶すのはやめてくれ。元のパーティも今のパーティもだ」


【サイオンさんは人徳者だなぁ】

【決して人のせいにしないの聖人だよなぁ】


「いやいや、そんなことはないよ。いずれにしてもこのパーティをS級に押し上げるのが僕の使命だと思っている」


「……」


 ミカリはニコニコしていたが目が全く笑っていなかった。


【ミカリン、ちょっと怖いよ……】


 古参のリスナーはミカリの不穏な気配を感じとっているが、サイオンは気にする様子なく続ける。


「さぁ、リスナーの皆、ますますの応援よろしくお願いします!」


【サイオンさんならできる!】

【どんなパーティにいたって応援してるよ】


「応援ありがとう……!」


 サイオンは声援に応えるべく足を止め、ドローンに向かって右手を振り上げる。と……。


「ん……?」


 サイオンの振り上げた右手に何やら粘々したものが付着する。


「これは……蜘蛛の……っう、うわっ」


 右手についた蜘蛛の巣が全身に拡がりサイオンの身体を包み込む。


「な、なんなんだこれはぁああ……!?」


【え? どうしたの? サイオンさん……?】

【異変発生】

【緊急事態発生!!】

【エマージェンシー!】


「うわ、どうしたんですか? サイオンさん」


 ミカリもサイオンの身体に蜘蛛の巣が絡みついていることに気づく。


「こ、これって……まさか……転移網罠ワープネット……!?」


「ワープ……!? う、うわぁあ…………」


 サイオンの身体の周りに、円状の輪っかが上昇するようなワープエフェクトが発生し始め、それと共にサイオンの姿が消滅する。


「どうした!? サイオンは!?」


 採掘をしていたセラとユリアも何事かが起き、サイオンの姿がないことに気がつく。


「サイオンさんが転移網罠ワープネットに……」


転移網罠ワープネット!? それってつまり……」


【マジか……】

【アラクネ……か……】

【S級ボスの……】


 転移網罠ワープネットに捕えられると、S級ボス〝アラクネ〟の巣に転送される。これまで同様の罠で数名が犠牲になっており、サイオンもおそらく巣に転送されたのであろう。


【なにやってんの?】

【早くサイオンさんを助けに行きなさいよ!】


「……っ……行くぞ」


 セラがそう言うと、ミカリは頷く。

 セラ、ミカリ……そしてユリアが右手を蜘蛛の巣に手を突っ込む。

 三人は自らワープエフェクトに包まれ、姿を消す。


 ◇


「ここがアラクネの巣か……」


 三人が降り立つと、そこは洋風の館の内部であった。

 どうやら玄関から入ってすぐのホールのようであったが、玄関は蜘蛛の糸のようなもので塞がれ、少なくとも玄関からの退場は難しそうだ。


「あ……」


 先にワープしていたサイオンは三人の姿を見て、ほっとしたような表情を見せる。

 地下45層、S級ボスのアラクネの館――。

 クマゼミの四人はそこにいた。そして何者かの声がホールに響き渡る。


「四匹も来てくれたか……豊作豊作……」


「っ……!」


 四人が見上げた先、左右脇から上階へと伸びる段上には、上半身が人間の女のような姿、下半身が蜘蛛のような姿の魔物が邪悪な笑みを浮かべている。


 アラクネだ。


 本来の蜘蛛と異なる点として、下半身の脚は六本である。人型の両腕の二本と合わせて、八本となっている。女性の姿をした上半身は背中まで伸びた紫色の髪で覆われていた。

 そのアラクネが飛び跳ねるようにして、階下のホールに降り立つ。


「っ……」


 アラクネを目の前にして、クマゼミの四人は緊張した面持ちである。

 S級ボス……今まで五パーティしか撃退を成し遂げていない探索者にとっての〝壁〟である。クガが人狼を眷属化したのは例外中の例外だ。

クマゼミは、それ程までに強いS級ボスに準備なしで対峙せざるを得ない状況に陥ったのだ。


【S級、マジか……】

【今日がクマゼミ最後の日になるかもしれないのか……】

【長く配信を観ているが、終わるときはいつも唐突だ】

【いやいや、負けが決まったわけじゃないっしょ!】

【サイオンさんがいるからきっと大丈夫】

【よかったな、サイオン。早速、パーティをS級に押し上げる機会が来たじゃないか】

【がんばえー】

【ちょ、それクガ笑】


 リスナー達もそれぞれの反応を示す。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【作者新作】

<新作のリンク>

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ