14.新生クマゼミと誤爆
無骨な岩に囲まれたドーム状の空間――。
人間よりいくらか大きい白い骸骨がロングソードを振り下ろす。
「っ……!」
動きやすいように鎧は採用されていない騎士風の衣装に身を包んだ金髪の男が応戦している。
パーティ〝クマゼミ〟の剣聖のセラが白い骸骨が持つものと同様のロングソードで受け止め、金属がぶつかり合う音が洞窟内に響く。更に黒い骸骨がロングアックスを振り下ろす。
「っっ」
セラはそれをなんとか回避する。
A級モンスター〝ツイン・スケルトン〟。
白と黒の二体のスケルトンがセラに激しい攻撃を仕掛ける。
「っ……、サイオン、やはり私が前に出る」
その光景を後方で歯痒そうに見ていた聖女のユリアが新しく加入した神官にしてヒーラーを務めるサイオンにそのように言う。
「いや、それは愚策だ」
「っ……」
「セオリーどおり、ヒーラーである僕を守ってくれないと」
サイオンはユリアの発案を却下する。事実、パーティにおいて最後まで失ってはならないのは回復特化のヒーラー。これは最も基本的なセオリーであった。
「で、でも……」
「ぐぁああ!」
「「っ……!」」
前線で戦うセラの叫び声が聞こえる。スケルトンの攻撃を受け、脇腹から血が出ている。
「いけない……治癒!」
サイオンの治癒魔法により、セラの傷は即座に塞がる。
【流石、サイオンさん】
【これだけ離れていても凄い修復速度】
【S級パーティのルユージョンの弟子というだけあるなぁ】
サイオンを讃えるようなコメントがつく。
【うーん……】
【なんかちょっと間延びしてる感じ?】
一方で多少、違和感を訴えるようなコメントもついていた。
「っ……聖なる騎士!」
ユリアがセラを援護すべく、離れた位置から魔法を放つ。騎士を象ったような光がスケルトンを襲う。しかし、簡単に避けられてしまう。
「あぁ……ドンマイドンマイ……」
「っ……」
サイオンに励まされたユリアは眉間にしわを寄せる。
「ユリア!」
それに気づいた付与術師のミカリがユリアの名を呼ぶ。
ミカリは淡い桃色のジャケットにへそ出しのショートパンツ。オレンジのボリュームのある髪を両サイドで結った少々、派手なスタイルであるが、垂れ目気味の優しそうな女性である。
ミカリがユリアの名を呼んだのは〝冷静になろう〟の意であった。
「……わかってる」
「あー、ミカリさん、そろそろ付与切れそうだから、お願いします」
「っ……まずは前線のセラに……」
「え? それは愚策だよ。まずはセオリーどおり、ヒーラーである僕を守ってくれないと……」
【サイオンさんはいつでも冷静だなぁ】
【これだからここまでノリで来たパーティは……】
「皆、僕を応援するのは有り難いけど、パーティを貶すのはやめてくれ」
サイオンは苦笑い気味に言う。
「ユリアさん、ミカリさん……大丈夫……これから少しずつ成長していけばいいんです」
【お前も愚策とか言って、ユリアやミカリを貶してるやろ】
【は? サイオンさんが言ってることが間違ってるっていうの?】
【貶してるんじゃなくて指導でしょ笑】
【新参が……】
【はっ? 古参アピ? だっさ。老害帰れよ】
【サイオンさんがこのパーティ入ってくれただけでも有り難く思えよ】
コメントも殺伐としてくる。
「…………わかりました」
結局、ミカリはサイオンに防衛強化の付与魔法をかける。
「っ……」
セラは相も変わらず、前線にて孤軍奮闘していた。
***
「なんかこの聖女、私と戦った時はもう少し強かったけどなー」
配信を観ていたアリシアがユリアを指差してそんなことを言う。
「……そうかもな」
「あ、そうだ。ねぇねぇ、クガ、これってコメントとかってできるの?」
「え、そうだな。できるけど」
「私も応援してみたくなったぞ(スケルトンを)」
「お、おう」
なんで……? とクガは思う。
「で、どうやれば、コメントできるんだ?」
「えーと、直接、声を届けることもできるし、文字を音声に起こして送ることもできたはず」
クガは自身でコメントをしたことがなかったので、うろ覚えであった。
「なるほど、じゃあ、文字起こしでっと」
アリシアはパネルを操作して、コメントを入力していく。この時、クガはすっかり忘れていた。コメントには発信者の名前がつくことを。
【クガ:がんばえー】
あ……やべ……誤爆った。
***
「「「っ……!」」」
「ねぇ……ミカリ」
「うん……」
ユリアとミカリはアイコンタクトをする。
【クガ来てるやん】
【クガさん……】
【誰、クガって】
【追放された奴じゃね?】
【魔物と配信してるやべえ奴じゃん】
「ごめん……ミカリ……私、やっぱり……」
ユリアは俯きながら僅かに震えた声で呟く。
「ユリア……?」
「うぉおおおおおおおおおお!」
「「っ……!?」」
ユリアとミカリの二人は驚く。突然、セラが叫び声を上げながら、スケルトンに突撃していったからだ。
「舐めんなよ、畜生! 骨兄弟がぁああああ!」
***
「あー、スケルトンがぁ」
アリシアが肩を落とす。
アリシアの応援により、突如、リスクを取った立ち回りに切り替えたセラがスケルトンをなんとか撃破したのであった。
しかし、今回のクマゼミの苦戦はクガにとっても、予想外なのであった。




