10.眷属を従えるぞ!
「眷属を従えるぞ!」
「あ、はい……」
ユリア襲来の翌朝、アリシアの仮住まいにて――。
アリシアは溌剌とした表情でそんなことを言う。
クガは昨日、ユリアがなぜ単独でアリシアを倒しに来たのか、未だ咀嚼し切れていなかったが、元々、物事を深く考えるタイプでもなかったため、それほど悩んでもいなかった。一応、ユリアには、無事に帰れたかだけはメッセージで確認し、「うん」とだけ帰ってきていた。
アリシアも根掘り葉掘り聞いてくるようなことはなく、気を取り直してSS級ボスになるための計画を進めることにしたのであった。その条件の一つが先程、アリシアが嬉々と宣言した〝眷属を従える〟である。
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【SS級ボスになるには】
【済】侵略者を三〇人狩る
【済】A級パーティを狩る
・S級パーティを狩る
・眷属を従える(S級ボス) ← これ
・ボスの城を構える
・SS級ボスの枠を空ける
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「それはいいのだが、(S級ボス)とあるが、これはS級ボスを眷属に従える必要があるってことであってるか?」
「あっている!」
「なるほど……となると、ミノタウロスなどを眷属にするということだよな?」
「とんでもない! ミノちゃんは友達だ。眷属になどできるわけなかろう」
「そうか……となると、ミノタウロス以外のどれかということだな」
S級ボスは八体いる。
実のところ、最初は〝邪鬼〟と呼ばれる一体だけであったのだが、邪鬼が倒されたら、なぜか八体に増えた。それ以降、一体倒すと新たに別種が一体追加されるようになった。そのため、基本的に常に八体のS級ボスがいる。
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【現在のS級ボスリスト】
・バジリスク ・アラクネ ・人狼 ・ミノタウロス(却下)
・スライム ・アンデッド ・妖狐 ・機械兵
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S級ボスの打破は、人間側のS級パーティへの昇格条件でもあり、A級だったクガにとっても未知の領域であった。
「ちなみに眷属ってどうやって従わせるんだ?」
「基本的には自由意思だ。要するに精神的に服従の意思を示してもらうということだ」
「なるほど……」
「ちなみに私の場合はもう一つ、方法がある」
「直接、血を吸うことか?」
「そうだ。だけど、私はそれをあまりやりたくないのだ」
「意外と義理堅いのだな……」
「いや、あまり好みでない血を口にしたくなくてな……」
なんだそれ……とクガは思うが、口に出すのは止めておく。
確かにここ何回かの戦闘においてアリシアは触手に付着した血は触手に吸収させ、クガのものを除いて、自身の口から摂取することはなかった。
アリシアがクガの血を好むのは血液型がO型であるからだろうかとクガは考察する。それは、どこかでO型の血がよく吸われると聞いたことがあったからだ。要するに、クガはとある昆虫が好む血液型の情報と混同していた。
「で、アリシア、今日のターゲットは?」
「ふふふ……実はもう決めているのだよ」
アリシアはいつもどおりだが、自信ありげに微笑んでいた。
◇
クガはアリシアに連れられ、ダンジョン地下32層に来ていた。
日本ダンジョンは地上から上空に向かう上層と、地上から地下へ向かう下層に分かれていた。上層と下層の階層の難易度はニアリーイコールとなる。例えば上層15層と下層15層の難易度は概ね同じというわけだ。その特徴から〝双頭ダンジョン〟の異名も持っていた。
階層によるが、基本的に高い階層ほど、フロアが広くなる傾向にある。また、一の位がゼロのフロア内部には魔物は出現しない。そのため、10、20、30、40層は人間がキャンプを形成している。特に、10、20層はそれなりの規模の人間の街が存在する。ちなみにアリシアの隠し部屋は地下43層にあるが、現在は主の長期不在により、閉鎖されている。
S級ボスは上下層45層以上に配置されている。
なお49層は特殊であり、上層三区画、下層三区画に分かれており、そのそれぞれに六体のSS級ボスのうち一体が待ち構えているのだが、上層中央区画のみは撃破済みにつき、空席となっている。SS級ボスは人間に撃破された場合、新たに補充されることはないようであった。
「……それで、どこに向かっているんだ?」
地下32層はごつごつした岩肌の続く、典型的な地下ダンジョンであった。
【地下32層といえばあいつらじゃないか?】
【ですな】
【コボルト!】
リスナー達はダンジョンの地理に非常に詳しい。
「そうだ! 今日はコボルトのコロニーに突撃して、一網打尽にするぞ!」
アリシアはいつもどおりだが、嬉しそうに言い放つ。
アリシア曰く、〝コボルトのコロニーを攻め落として、コロニーまるごと眷属にする〟という計画であるという。
クガとしては〝計画〟とはもう少しステップを踏んで綿密に立てるものなのではないだろうかと感じたが、ここ二日でアリシアは本能で動き、それでも何とかしてしまう程のパワーを持っていることは理解できていた。と……。
「おい、クガ……」
アリシアがクガに声をかける。
「ん……?」
「なんか人間の女がいるぞ……」
コボルトのコロニーへ向かう道すがら、確かに探索者らしき女性がいた。




