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聖女様ってなんですか? 2

 地獄の猛特訓の果てに手に入れたのは異常なまでの順応力と呼べる力だった。敵がなんであれ、戦場がなんであれ、全てを読み取らなければ超戦闘力の世界では戦えなかった。


「いい子は真似すんなー」


「できないからな」


「できないねえ」


「できねぇだ」


「できませんわね」


「できませんねぇー」


「あ、あの、私気づいたことがあります!」


「ん?」


 突然メイドさんが挙手した。手にはなぜか雑巾を持っている。


「このバフ状態だと力を入れなくても汚れが落ちます!」


「あー、それな」


「どういう原理だ?」


「そもそもバフっていうのは身体の外から差し込める数少ない魔法のひとつなんだが、普通の魔法は体表面の魔力で弾かれるんだ。それをすんなり受け入れさせる過程でその人の魔力の波長を持った魔法を行使するなどする必要がある」


 魔力は人体に入った瞬間その人間の魔力紋という術式を得ている。その魔力紋に合わない魔力の侵入を許さないためだ。


「もしそれが可能なら離れた位置から敵の体内で攻撃魔法乱射できるからな」


「それは怖い」


「体の中で炎とか雷とか……」


「確かにそんなことできるとは聞いたことが有りませんわねぇ」


「それだと魔法使いは無敵でしたね」


「回復魔法なら体内の臓器まで治せますけどもぉ……」


「フムフムでございます」


 そこでバフはその人間の魔力紋に合わせなければならない。もしくは無属性、回復属性を与えて受け入れさせて自分で変質させる。その結果起こるのは、


「本人が意識しないまま魔力含めあらゆる身体能力が強化され、結果としてゆっくりと無意識で順応性が高まり自分の望む、進んだことができるようになるんだな」


「……宮廷メイドにバフを使う神官さんとか流行りそうですねぇ」


「便利ですね、今度からやらせてみようかしら」


「王宮の魔導師でも魔力大変そうだけどね……」


 そういうわけでセラフィーは本気を出せないのだ。全員一撃でもつまんなそうにしていても当然なのである。


「まあこんな凶悪なことを日夜考えてやってるヤツが聖女だなんて冗談だろって思うだろ?」


「それはそれですわ」


「私を救ってくださる聖女様です」


「だからやめろと。私はたぶん一万人以上殺してるぞ? そんな聖女いないだろ」


「ん~まあ、団員の間ではステータスの気まぐれってことになってるからなぁ」


 しかしそれを聞いているエルニアはムッとする。そして滔々と喋りだした。


「いいですか、そもそもその一万人の影でたくさんの人が助かっているのです。戦争で一番泣くのは民です。確かに戦場に出た家族が亡くなれば悲しいでしょう、しかしですね、セラ様、戦争は本当は何日くらいかかるかご存じですか?」


「数ヵ月から数年繰り返しってこともあるな」


「その結果どうなるでしょう」


 そこでカルヴァンたちはハッとする。


「戦争が長引けば敗走した兵士により略奪の波は広がり、治安は荒れ、徴兵されれば畑は耕せずに民は餓え、餓死者と共に病も広がるでしょう。その結果人口が半分になるなんて歴史では当たり前に起こってきたことです。ところがセラ様はそのほとんどを一日で終わらせる。被害者一万人でしたか、その程度で南部国家群の人口は一割も減りませんわ。その結果救われた人はどれ程でしょう。想定に過ぎませんが数十万人は救われたと思いますわよ!」


「う、うん……まあそういう側面は考えてなかったわけじゃないが……」


 まさかそれで聖女の称号が剥がれないんだろうか。ほとんど虐殺者とかにした方がよさそうな殺し方してるけど。セラフィーはエルニアがやはり苦手だと思った。


「そういうわけで! セラ様は聖女なのです!」


「そういう考えもあるか」


「少なくとも救われた私たちには聖女様ですね」


「うんうん、偉業だなぁ、わたしぃにはむりだぁ」


「おっと、そう言えば聖女様、今宵は夕食会の準備が調っておりますので今しばらくお待ちください」


 突然メイドは夕飯の予定を伝えてきた。特に帰る用事はないが……。


「ドワーフ王国産の高級ワインも取り揃えておりますので」


「世話になる」


「酒で釣れるのか……」


 ドワーフに酒を出したらピラニアのごとく食いつくに決まっている。ちなみにピラニアは臆病な魚である。カルヴァインは良い酒を用意することに決めた。


 エルニアたちが騒いでいると王女の部屋に訪れる者があった。


「聖女殿か、初めましてだな」


「……国王陛下?」


 王女の私室に入れる成人男性はカルヴァインのような特別な場合を除けば王族のみだろう。一番見た目と年が近そうなのが王だ。彼は四十代くらいなので他に考えられるとしても王弟くらいのものだ。慌ててカルヴァインは姿勢を正すが彼はそれを止める。


「聖女の前に貴賤はない、国際法上それは守られている。セラフィー殿もマウ殿も気にしてはおられないだろう? 王より神に近い聖女の方が当然地位は高いのだ」


「わ、私自身はしがない傭兵に過ぎませんので……」


「それでもだ、まあ私自身傭兵に友がいるし気にすることはない」


「お父様が昔たまたま通りがかった傭兵団に命を救われた時の傭兵団長の方ですね」


「ああ、サーラさんか」


 サーラの傭兵団とは一緒に移動してきたので少しそういう話もしたことがあった。


「彼女は元気かね」


「大会に出て予選で運悪く潰されてしまったな」


「それは残念だね」


「魔法使いには混戦はキツいからな」


「致し方ない。そうだ、優勝者がここにいる。話を聞かなくてはな!」


 若々しくも友好的な王である。セラフィーはあんまりこの国をかきまわしたくもないな、と、思い始めていた。……しかし、片付けねばならないものがある。スヴァルトとウーシャンによる捜査で、いろいろと厄介なものが見つかりつつあった。






 虐殺がいいことと言うわけではないです。スピーディーに戦争を終わらせられるならいいでしょう。対等な力をぶつけあえば共倒れしますから。千人殺したら英雄というのはこういうことではないかと。


 この章はもう少し続きます。




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