止められない
三回戦、セラフィーと対峙したのは剣聖ハモンである、が。
(いやいやいやいや、全く隙が見えないんだが?)
セラフィーは隙だらけの雰囲気を出している。しかし逆に恐ろしい。普通に素人が構えてもそこまで隙が見えるはずがないのだ。全ての隙が誘いと見るのが妥当であろう。ハモンは剣聖と呼ばれる実力があるがゆえ、それが見えてしまった。どこにも打ち込めない。しかし攻撃しなければセラフィーはジリジリと歩み寄ってくる。間合いに入ったら終わる。止められない。
全身から滝のように汗が流れた。セラフィーは殺気すら放っていない。それさえあれば攻撃の軌道くらいは剣聖ハモンなのだ、読めるはずであった。しかし殺気がない。
ひたすらに恐ろしい時間が過ぎていく。おそらく一分にも満たないがハモンは四十年ほど年老いた気持ちになった。ぶっちゃけ剣の道を捨てても逃げ出したい。
そこでセラフィーがほんの少し筋肉の硬直を見せた。誘いであろうが無かろうがハモンが突ける隙がそこにしか無かったのである。
「きええええいッ!!」
「おらあっ!!」
二回戦をなぞるように剣聖ハモンは綺麗にゴム毬のように跳ねて結界に激突した。あっさり場外負けである。
「お~っと、セラフィー選手またもや無慈悲な一撃勝利! 剣聖さえも形無しであります!」
「ちょっと魅せる試合しろセラー。つまんないぞー」
それはカルヴァインに言って欲しい。約束通りの一撃勝利を繰り返しているだけである。技術もレベルも問答無用で高すぎるので本気を出したらこうなる。一撃もらったところでダメージも無いだろうし。
止められない。
(うーん、ちょっと打ち合って見せた方がいいのかなぁ……。自分でもつまらない気がするし。でも手を抜くのも失礼な気がする)
次は準決勝、順当に行くとレベル二百の男、アウスローナ騎士団長マイネルスとの試合なので打ち合える可能性はある。
セラフィーはとりあえず他の試合を観戦することにした。ここまで来るとさすがに暁の星団員同士の潰しあいが始まる。ウィーギネストスやガムマイハートはカルヴァインに破れたが、カートは組み合わせが良かったのか残る。しかし次の相手はパール姐さんで負け確定である。カルヴァイン対パールは面白い試合になりそうだ。ちなみにセリナもパールに負けた。
セラフィーはマイネルスと向かい合いながら次の試合のことを考えていた。
「……さすがにここまで力の差がある相手と戦うのは初めてだ」
「そうかい? レベル二百超えたら五十くらいのレベル差は跳ね返せそうなものだけど」
「レベルだけならそうかも知れんな……」
レベルだけなら勝てる範囲ではあるが、セラフィーは未だにバフを使っていない。本気で来られたら止められる気がしなかった。
まあセラフィーはここまで来てもバフを使うつもりはなかった。地の精霊は使っているが使わないと黒銀が振るえないので仕方がない。まあ手を抜かないと決めているので他の技は使っている。
「対峙するだけで震えるのは幼少の時師匠と打ち合って以来かな……。自分の修行不足が情けなくなる……」
「公職につきながらレベル二百ってすごいと思うけど」
「ふふ、ほめられているのかな?」
「ほめてるよ。そこまでよくぞ練り上げた」
ここでセラフィーは誘いの隙を残さず消した。完全に隙がなくなる。ほんの少し筋肉のバランスを崩すだけで大きな隙と捉えられそうなくらい完璧なまでの隙の無さ、マイネルスは背筋が凍る思いである。
レベル二百まで鍛え込んだのだ。マイネルスは技術だって並みではない。しかし目の前の相手が、僧侶が、聖女が、自分よりはるかに大きく見える。恐ろしすぎた。よって極めて技術の高い騎士団長もあり得ないミスを犯す。ただ一歩、足を引きずるように前に出てしまった。
そこで動けなくなる。セラフィーは自分の眼前に時間停止を使った催眠の罠を無数に仕掛けていたのだ。普通にやりあっても勝てないのにこれは反則気味である。
「おらあっ!!」
定番の一撃で騎士団長も毬のように跳ねた。観客は、ああっ、とため息を吐くのみである。しかしさすがにレベル二百の騎士団長を一撃でどう仕留めるのだろう、という期待感があったようで、やはり一撃で終わったものの観客は盛り上がっていた。
準決勝、パール対カルヴァインが始まるまで観客のざわめきは収まらなかった。
「セラは派手すぎるよなぁ」
「俺たちの戦いは魅せられると良いんだけど」
「魅せるさ」
「パール姐さんがここまで残ったのは順当だな」
セラフィーは他の試合を見ていなかったがパールはかなり健闘したようだ。怪我だらけだが勝ったのだから問題なかろう。カートが意外と健闘してパールに傷を負わせていた。しかし次は強者カルヴァイン団長である。パールがどこまでやるのかセラフィーはワクワクして見ていた。
「よっしゃこい団長!」
「本気で行かせてもらう」
次回、犬獣人パールの大剣が唸る。
魔法全部使うと無詠唱なのでもっと早く終わりそう。




