王族の脅し方
ぶっちゃけた話をしよう。セラフィーはこの国を滅ぼすか、立ち直れないダメージを与えるくらいはできる、トランクケースの水爆だ。
最近になってようやくテロリストには屈しないという不文律が馴染みつつあるが、まあここは異世界だし、外交というのはまた違ったやり口があるものである。つまり、「危険な兵器を使わない、使えない理由をどこまで削れるのか」というような、デスゲームとはまた違う駆け引きの話があるのだ。とはいえセラフィーも専門家ではない。どうカードを出すか、これは面白い話である。
今はもぐらの宝石を確かめ合う。私を知ってもらおう。
もちろんのこと最初から喧嘩する馬鹿はいない。お互いのことを知るところから始まるのだ。話し合いというものは。それこそカートが言っていたように「話さなきゃ分からない」のだ。それは当然なことなんだ、だけど話し合いというのは手順がある。なんで良くも知らない相手と話し合えるのか。まずはゲームでもするか飯でも食うか、狩りでもするか。交わらなければ話には進まないのだ。
「ところで美人のドワーフさん」
「なにかな?」
ここでドワーフに「可愛い」じゃなく「美人」と持っていく辺り手馴れてる。仕掛けてきたな。さて、これはこちらのことを「誰であるか」までは知って話しかけてきてる。逆に言えばこの人高位貴族確定。
「今夜は寂しく感じていたんだ。話し相手になってくれる?」
「もちろん、王子様」
「んふふ」
お互いの立場を理解した。ここからだな。貴族の話し方というか腹の探りあい疲れるわぁ。
「最近この国は戦争だー、武闘祭だー、魔人の犯罪だー、王位継承権だー、第一王女が病気だー、紛争だー、と、まあ実に慌ただしくてね」
「この上スタンピードだあ、も、あるな」
「うえ、待って、え、それもあり得るのか。うへぇ~」
素が出てるぞ王子様。しかたないな、これは。どれだけよどんでるのよこの国。
「ああ、自己紹介まだか、私はセラだ」
「んん、ぼくはオーリで」
ピキッ、と額に血管が走ったのが分かる。分かるが、
「それは、私の、故郷の、愛しい人の、名前だから、別の、名前が、いいなぁ」
みしりと音がした。気がついたらカウンターの十センチくらいの板を握力で半分に潰してた。
「ちがっ、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだ! あ、アレク、オレはアレクだ! すまん、知らなくて!」
「あ、ぐ、ん、うん……、こっちも、ごめん。……知らないの当たり前だから。あ、バーテンさん、補修費三万グリンでいい?」
「い、いえ……失礼ながらなにか記念になりそうなので構いません」
まあな。これはなにが起こったのかで話題にはなりそうだ。我ながらヤバいなこの力。
はぁー、うう、知らなかったじゃすまない。私の中にこんな爆弾があったのか。……ライターケースの水爆よりヤバそうなんだが。自分が。着火したら国が滅ぶ。
自分の内面を徹底的に整理しないといつ爆発するか自分でも分からないなんて、私が一番困るんだよ。
ただ、怪我の功名、この人はアレク第一王子だ。会えたなー。一発か。
その結果バーの中の人全員ドン引き……、あれ? ご婦人方の何割か鼻息が荒いの気のせいですかねえ?!
「ごめんね、本当に不意に来たから、いや、分かりっこないからね、気にしないでね」
「あ、ああ」
「んふー、飲みなおそ。一献」
「そだな」
やっぱりなれてるな。空気をすごく読める。……オーリが私の特大の地雷だなんて暁のメンバーどころかスヴァルトやウーシャンでも知らないんだ。これは完全に偶然。恐ろしいな。ゆっくり時間をかけて飲みなおそう。
つきだしのピーナッツをかじる。カリカリと。
「ねえマスター。お漬け物ってある?」
「沢庵なんかどうですか」
「うん、ふふふ、裏技的」
「いけそう」
洋酒に和食材のつまみはもっと研究するが良いぞ。私は逆に焼酎にチョコレートとかフルーツとかやる。下手物? 知らないだけでしょ。知ろうともしない研究者なんかつまはじきものだ。なんの話だったか。
ああ、この国の現状の話か。……腹を割って話さないと駄目じゃないか?
「ねえ、王子様」
「……なんだい、聖女様」
この人はマウちゃんの恋人の第一王子だから、じゃなくて、これでもう一歩踏み出せるか。
「個室で少しお話しませんか」
「……もちろん」
だよな。この国の問題の多さもビックリだけど実はまだあると思うし、みっちり話し合わなきゃいかんぞ、これ。あー、カルさんとか呼びたいが今日じゃないな、うむむ、城に乗り込むのも下策な気がする。
とにかく個室で現状把握と作戦を練らなきゃ。ハプニングとは言ってもお互いが詰め寄れたのはいい結果だ。
ありがとう、オーリ。
その後、二人でまずは後日の話し合いを決めた。滞在日数一ヶ月で足りるんか、これ。
セラフィーがめっちゃ一人称になってしまいました。こういう自分すら予期しない地雷ってたまにありますよね。




