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魔女の弟子たち

 ストックもう十話くらいです。



「とにかくあの人定住しないのがね」


「弟子も無駄に多いわよ」


「魔術オタクよね~」


 今日は珍しくイェフタンの弟子、セラフィー、セリナ、サーラ団長の三人が酒場で出会ってしまった。この中ではサーラが一番姉弟子と言うことになる。


「私たちなんでみんなサ行なのかしら……」


「イェフタン師匠のことだからサ行の音良いよね、そろえちゃろ、とか思ってそう」


「意味の分からないこだわりすることあるわよね~。天才だからかしら~」


「私が資格があるとか言われたのそれでじゃないわよね?」


「あり得るんだよなあの人。「今日のラッキースターは竜王星だから反対に魔王星に向かって魔術を放ってみる」とか意味が分からんこと言ってたことがある。あと資格があるとか私も言われたな」


「……やっぱり意味がないけどそろえてみたのかしら~」


 イェフタンの奇行は今さらではある。だいたい酔っているし。そして弟子が戸惑うことも大好きだ。


「氷魔法得意なのか聞いたら「火とか風とかお肌の敵だろ」とか言われたわ……」


「ポーションくれたと思ったら度数の強い酒だったことあるな。そのまま飲んだら悔しそうな顔をしていたが」


「反撃すると不機嫌な顔をするんだけどトレーニング厳しくなるんじゃなく途中で一人飲み会始めたり~」


 あ~、といちいち三人の相づちがそろう。イェフタンの奇行集を作ったら売れそうである。あの人はあれでも二百才を超えるエルフだ。エルフよりドワーフの方が容姿が可愛くて良いな、とか言ってるので実はそっちの人だとセラフィーは思ってる。


「無意味に体触られたりとかは?」


「……あるわね」


「可愛い子の体は良いつまみになるとかは言ってたわね~。そして触られる~」


「サ、サーラ先輩の傭兵団が女性ばかりなのはまさかそれでですの……?」


「いや~、普通に混成すると野郎がウザいだけよ~? そういう趣味の子もいる、というか多いけど確かに~」


 セラフィーとセリナは白い目をサーラに向けた。まあ多少間違いはありそうだ、百合の園というほどではないが。そういえばイェフタンの弟子は全員女性だ。セラフィーとセリナの背筋が少し寒くなる。


「ま、まあ魔術に関しては天才ですから」


「私は基礎魔術しか教わってないな」


「応用まで行くと神のシステムのレベルに踏み込むからね~。基礎から応用までのレベルが開きすぎてるのはあるかな~」


「なんだ、魔術の話を始めるのか。もっとこうキャッキャウフフ続けろ酒がうまい」


「おうわっ!?」


「ひいっ!?」


「師匠は相変わらず神出鬼没ねぇ~」


 イェフタンである。当然のように酒臭い。デカい瓢箪は下げているが今日はグラスでハイボールを飲んでいる。


「今日はサワーにしとくか」


「なんだセラウォッカストレート行け。どうせ酔わないだろ」


「私もシードルで良いですわ」


「なんだよセリナ飲もうぜ~。お前もそんなに酔わないだろ~」


「師匠~、弟子の選定基準に酒の強さとかありそう~」


「いや、弱い娘に飲ませて潰すのも面白いんだけどな。付き合い悪くなるんだよな~」


 三人は同時に、これは外側はエルフに見えるが血液はドワーフなのでは、と思ったが、今さらか、とも思った。イェフタンは浅く酔ってから長く飲むタイプなので絡み方がウザい。


「お前ら北に向かうのか~?」


「戦争した北は一応避けて穏健派の伯爵が治める北東に向かうつもりですわ」


「北の街道とか穴だらけだしな」


「セラちゃんがやったんだけどね~」


「サーラ先輩、悪いのは北の領主たちだ」


「責めてはないけど~。妹弟子にどんどん抜かれるわ~」


「まあサーラは理論派だからな。魔術理論自体は一番理解してるんだからレベルを上げればいい。逆にセラの方は基礎理論だけしか理解していない。僧侶系魔法種とレベルごり押しの魔法も見ていて面白いが」


「本当に魔術オタクの師匠ですわ」


「師匠は治癒術を使えるんですか?」


「使えるが、人体ってのは一番面倒でな。術式の複雑さもさることながらその総量も多い。魔力ロスが大きい魔術でしか再現できん。システムはこの星の全てを数百年に渡り記録してるんだからその総計算量にはどんな生物も及ぶことはないのだが」


 そこがどんなことをしても魔術が魔法に及ばない部分だ。魔法の一番の得点はシステムによる計算の代替である。


「まあ抜け道はあるんだ。システムに干渉して計算能力だけ引っ張り出したりな」


「師匠~、それは神の領域~」


「まあな、実際に神と名乗れるのはシステム干渉権限保持者に限定される。賢者に見える神なら尚更だが、馬鹿に見える神もその権限を持っている以上並の魔法では打ち破れん」


「師匠なら勝てると聞きましたわ」


「勝てるかどうかならそりゃ勝てる。セラでも勝てる。勝率は知らん。高くはないだろ」


「セラでもって言われると自信無くすわ」


「まあセラは魔法改変が上手いから他の魔術にわざわざ手を出すよりそっちを伸ばす方が効率的だから実戦的な戦術感みたいなものの方を仕込んだんだ。実際に合っているだろ」


「まあな」


「……もぐらの里のことは間に合わなくて悪かったから昔の可愛いセラに戻れ」


「あー、無理だな」


「この気だるげなのもまあそれはそれで美味しいが」


「か、体触るのやめて師匠」


「おー、相変わらず芯があるのに柔らかい不思議な手触りしてるなお前は~」


「こ、こらぁ、お店の迷惑ぅ!」


 ごちん、という音でイェフタンは停止した。ただの酔っぱらいによるセクハラである。触るのは腕とか腹ばかりなので強く反発できないが。同性だし。


「計算高い上に強いとか反則ねぇ~」


「師匠はギリギリ、からかいのレベルで抑えてきますわね。逆にイヤらしいですわ。魔術理論の話は面白いんですが長いですわね」


「魔術師じゃないと興味ないだろうけど戦闘職の魔法にもなぜか通じてるのよね~。だから騎士団とかにも良く呼ばれてるし~」


「戦闘系は筋力強化からインパクト系回避系防御系感覚強化に至るまでわりと幅広いのが面白いですわ。魔術で展開しやすいですし。セラの場合僧侶系バフと本人の戦闘センスでそこを埋めている感じよね」


「は、離せ~、二人も放置はやめろ~」


「よいではないかよいではないか」


 完全に悪代官である。二人も魔術理論の話をすればイェフタンが釣れると思ったので助け船を出しているのだ。たぶんそう。助かってないが。


 その夜は魔術の話と三人の嬌声とそれを肴に飲む変態たちの群れで酒場の夜は更けていった。売り上げは上がったらしい。なにも言われなかった。


「ぐえへへへ」


「ヤメロぉ~!」


 ひとしきりドワーフの感触を楽しんだあと、イェフタンは続ける。


「そうそう、魔術以外にも神の領域に入れるスキルがあるぞ」


 三人とも少し驚いたように師匠を見る。セラフィーの息が若干荒いが。


 神の領域に至るということは、地上の神と同じくシステムに干渉して星に、この世界に影響力を持つということだ。そんな力がいくつもあればそれは驚異である。イェフタンは三人の気を十分に引き付けてから、喉を濡らすように手元のグラスを一度傾けてから、呟く。


「錬金術だ」






 イェフタンは神に匹敵していますが神になるつもりはないようです。



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