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さしのみ。カルヴァイン

 この章の終わりですね。



「この店だよ、良い酒出すんだ」


「ヘエ、雰囲気良いな」


 セラフィーはレハナ伯爵領の平和な夜にカルヴァインをお気に入りの酒屋に連れてきた。セラフィーはカルヴァインにひかれているが理由もなく食いつくのもいやだった。イケメンだけどどこか抜けてる、隙の多い青年がセラフィーの心を疼かせる。まるで、彼のよう。


「もぐらの宝石は?」


「すみません、切らしております」


「まあ元が失くなったからな。ブランデーで良いのあったら一瓶。三万グリン(九十万円)なら出すから」


「毎度有り難う御座います。こちらは東方、ドワーフ王国のブランデーで御座います。遥か遠き赤月」


「お、良さそう」


「セラが金持ちなのは知ってるが良いのか?」


「なに、カルヴァイン団長との会談だ、小銭はけちってはいられないだろう」


「そんなに御大層なもんかね」


 それだ。なんとも貴族らしくない、自分を卑下しつつ、努力を一切惜しまない。それが好きなんだ。


 セラフィーは元より、良いものを見抜く感性には長けている。ネーミングセンスだけなぜか壊滅的だが。


 カルさんは、いいな。そう思ったのである。セラフィーは人間が大好きだ。そんなことは既に暁団員みんな分かってる。セラフィーが意識しようがしまいが。


 暁の星の人たちはもうセラフィーを家族と認めているのだ。


 さて、サシ飲みの話に戻る。


「レハナは海が近いから鮮魚の刺身とか出てきて良いな」


「それは分かる。私もレハナの魚介を買い占めてインベントリに入れてるから、アウスローナでも期待すると良い」


「今の暁で一番怖いのがメシマズだよ。お前レベルの食材、ドラゴンとかこの先絶対味わえないし」


「ドワーフ万能説ぅ?!」


 なんか蚊の仲間がいたので虫かごに送った。ドラゴン狩れば、とセラフィーが言えばそれもそうだな、と、カルヴァインも思考する。


 一見セラフィーの料理は果物を焼き肉ソースに加えたり、料理を知らない層から見るとキテレツなのだが、確実に上手い。味覚の理論を知り尽くしていた。


 まさしくドワーフ万能。


「いやな、器用なドワーフの中で料理マニアがガチで料理振る舞ってたんだぞ? 私程度で満足してたら絶対に損するからな?」


 ドワーフの里は美食の里説が確立された瞬間である。ドワーフ万能。いや、そもそも暁の料理人パーバルの料理も美味いしあちらの方が技術は上だ。セラフィーが自慢するのは失礼というものだろう。


「まあそれはおいとこう」


「ドワーフの万能さは結構自分でも酷いなと思い始めたんだ」


 そもそもセラフィーがえげつないレベルで万能なので、それがドワーフの普通と置いたら泣くドワーフが量産される景色しか想像できない。セラフィーがちょっとできすぎなのである。里の人たちがそれぞれの分野を極めていたのをセラフィーは学んだので、全部普通よりはできるだけだ。村長の娘は愛されていた。


「まあ飲もう。この酒も良い酒だが今日は私のストックからもぐらの宝石も出すからね」


「普通に三万グリン(九十万円)超えるお酒出されたら引くが?」


「今なら四万で出しても売れると思う。良いから飲めよ」


 セラフィーは強引である。まあこの大陸で一番大量にもぐらの宝石を保持しているのはセラフィーである。別に無理はしていない。好きな人に好きな酒を振る舞う。何も問題がない。


「ドワーフ王国の酒か。……普通にうまいんだよなこの酒も」


「まあな、ドワーフが好きな酒だぞ。この世に類する酒はそうそうあり得ないからな」


 良い酒を飲んで、そろそろ自分の歴史を語り始める。酒を飲めば心が開かれるのだ。カルヴァインもそろそろ言いづらいことも話し始めた。


「俺の彼女、婚約が決まったらしい」


「はい? 彼女じゃなかったってこと?」


「貴族の娘だから政略結婚は仕方ない……」


「世知辛いな~」


 貴族は権力やお金を持っているが自由は少なく義務が多い。セラフィーは少なくともそんな身分は嫌だ。カルヴァインもそれが嫌で傭兵しているのだが。


「まあその話は置いておこう」


「嫡男以外の貴族ってなんか悲しいな」


「まあその話は置いておこう」


「二回言ったな」


 嫡男以外の男性貴族は騎士になるか婿入りするくらいか、それこそ傭兵で身を立てるしかないが、それも上位貴族から席が埋まっていくわけで伯爵家でも三男となるとほとんど席が残っていない。商家とか男爵家に入るくらいなら傭兵などで身を立てた方がマシなのかも知れない。暁の星はランクの高い傭兵団だし貴族の従士になるくらいでは旨味がないのは分かる。帯には短いしたすきには長かった。


「せっかくセラとサシ飲みだから魔術理論とか聞きたいんだけど」


「魔法じゃなくて魔術ね」


「セラの魔術って今のところ基礎しかないんだろ?」


「魔法改変も威圧系の魔術も基礎は基礎だな。そもそも私の師匠のイェフタンは魔法に近いものを魔術で構築できていたから神にも匹敵するし」


 魔術を積み上げて魔法を構築することは理論上可能だが、とてつもない魔術センスがないと不可能だ。計算や理屈でどうにかなるレベルにない。それも経験を積み上げればなんとかなるのかも知れないが相手は二百才超えである。本人に言ったら殴られるが経験値の差は揺るがない。わずか十五才でエルダードラゴンを仕留めたセラフィーは天才の部類であろう。


「原初の機神を倒すのか」


「いやあ、神の実力が分からないし負ける気もないから準備をまだ続けるつもり。当分は暁と一緒に行くよ」


 暁の星傭兵団は強いが寡兵なのは否めない。それこそどこかの国の貴族になって軍隊を率いるくらいでないと神と戦争などできないだろう。


 ただ、戦いのみに生きるよりもこうして友と語らっている時間も悪くない。いずれ死地に赴くなら、こういう時間を大事にしたかった。


「ま、一献」


「ああ、すまない」


「次はアウスローナとしてこの先はどう動く?」


「魔王国、人神国、星王国と渡るつもりだ」


「ずいぶん先まで考えてるんだな」


「ああ、でもそこまで一年以内には行きたい」


「それは急ぎ足になるな」


 その三ヶ国は大国だ。端を縫うように通ればひと月で回れなくはないがおそらくは魔王国には入るだろう。そこでダンジョンアタックはするはずだ。


「魔王国には少し用事があるのと人神国はうちのメンバーのほとんどがそこの辺境出身だから里帰り、そして本拠点の星王国に向かう」


「あー、暁の星ってそこから来てるのか」


 そうだよ、とにやけながらカルヴァインはショットグラスを傾ける。妙に色っぽかった。


「楽しみだ。なかなかの大冒険だな」


「期待してる」


「期待はするな」


「そうだな、無理するな」


「しない」


 その夜は、カルヴァインが潰れるまで飲んだ。セラフィーはその後も一人で酒を空けていたが。


 まだセラフィーの傷が癒えるには、早すぎる。







 ご馳走を嫌な顔で食べる人いないよね。



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