北に行きたいんだけど
ストックあと十話くらいですね。
魔人族の起こしたスタンピードは収めたのだが、ガムマイハートが不機嫌になった。
「魔人族が人族に敵対する理由などなかろう!!」
「まあねー。ドワーフが人族に敵対するみたいな話だしね」
個人の怨恨で種族まるごと悪人にされたらたまったもんじゃない。セラフィーの人嫌いとは意味が違う。セラフィーはガムマイハートがイケメンだから悪いことしなさそうとか思っている。本人に言ったら泣きそうな顔をしたが。評価そこかよと。
ガムマイハートみたいな真面目くんがテロに荷担することなどないのは暁メンバー全員が知っている。
「魔人族は情が深いので間違ったことをするものもいるが」
魔物を眷属とする魔人族もおおくて、その魔物を、ようするにペットを殺されて怒り狂い人に襲いかかる魔人も多いそうなのだ。それを一概に罪と呼ぶのも憚られる。
人間を襲えばそれは罪だし裁かれることになるのだが。
「魔人族全てが犯罪者のように思われるのも辛い」
「ガムマイさんが犯罪者だと思うメンバーもいなさそうだけど?」
「魔人族基準では情がないと思われるかも知れんが人の法は犯してないぞ」
「いや、そんなメンバー入れてないからね?」
カルヴァイン基準で犯罪者は入れてないらしい。傭兵団ってわりと犯罪者上がりも多いからな。セラフィーもそこは心配していない。みんないい人である。
さて、そろそろエリさんのライブが始まりそうである。セラフィーは姿勢を正してからグラスのブランデーを一口なめた。
「いきまーす、絶望日和」
情熱を 薪にくべて 心底に 思いを燃やし
自由だ正義だ愛だ思いだと 僕らは声を 張り上げ唄う
正義とは言えない現実の主張 正しいと信じた幻想はそこに広がっていく 地雷源にも似た
愛とか忠誠とか言っておけば真実だって言えるの?
破壊が全てを包んでいく 絶望日和
生き足掻くものを擂り潰して
正義とが真実とか
どうか私を助けてよ!
ただひとつ 光明の中 叫んでみよう
地獄だ天国だって僕らは見たことないんだ
際限なく足掻いてみても人はいつか死ぬ
いつだって僕らにチャンスは来ない 自由なんて開けぬ夢だ
本気で 正常ではいられない
明日が来るって歌っていても本気で思っちゃいないだろ
だけど 救いは来るって ここにあるって僕らは 信じて
君をアイシテル……
ぬおわー! エリさんの歌の中でも一番ダーク! かっこいい!
セラフィーは案の定限界を突破した。エリさん引き出し多いな~と。
セラフィーは他のメンバーやお客とアンコールするだけである。
「今日は気分がいいんで~、新曲二曲目いきまーす。もいちど!」
うおおおお! セラフィーも含めて観客は歓喜した。
必然だって 歌う君は もいちど もいちど 苦心の果てに 正解はそこにあるとして
ただひたすら ひたすら 足掻いていくのよ 限界も超えてそこに 夢があるもの
もいちど努力を重ねて 果てない夢を超えて いつまでも 悪あがき続けるのよ
現実味がないとか 虚飾でしかないとか
いい加減な評価を置き去りにして
今正しいと思うことを 私は追い続けるの 正義も悪も ここにはないわ
正しいことを貫くことが 生きる術だった記憶もなし
今間違っていたっていいんだ 前に進むしか答えはない! もいちど!
ローテーション 止まることも なく世界を駆け巡る 地雷源さえ飛び越え僕らは夢を掴んで!
あー もいちど 止めどない思い 宝石が僕らに降り注ぐとして そんなものいらない ただ一人 君を 抱き締めていたい……
ぬおおおお! セラフィーは椅子から転げ落ちた。エリさんすごい。かっこいい。かわいい。
そのエリは微笑みながらセラフィーに近寄ってきた。ん?
「次は聖女セラフィーちゃんが歌ってくれま~す!」
「なんですとぉ~?!」
心地よくエリの歌を聞いているだけのつもりが、セラフィーが歌わされるようである。実は影でエリが秘密特訓させていた。
「遠慮しないで~」
「遠慮とかじゃなくて! 私無理ですって!」
ステージに乗せられてしまったので歌うしかなくなった。セラフィーは絶望した。
「まあ歌ってね」
「逃げ場がない! じゃあ歌います! なぜ!」
セラフィーも歌うしかなかった。
月夜に 君の横顔が 綺麗って思ったの覚えている
愛とかそういうのわかんないけど 君とひとつに なれたらいいな
自由とか希望とか 僕らは求めて暴力にも染まる
必然かもしれない 明るい未来なんて結局妄想
なぜ 君は僕を追いかける
僕には希望なんてもうないのに
なぜ 君は僕を見つめるの
その思いに答える術 探してる
愛、そんなの重いのとても遠い 私には似合わない
夢 そんなの手の中には入らない 希望はとても大きいの
自由 たぶん一番似合ってる なんにも縛られないってことだから
でも たったひとつあなただけ 縛られてみたいと 思うの
なぜ
セラフィーは歌った。かなり息切れしたが。
レハナ伯爵領を旅立つまで、あと数週間。
「ビューテホー! 美声! 聖女様美声!」
「ドワーフ万能! ドワーフ万能!」
「や、やめてくださーい! むしかごー!」
セラフィーはエリに追い詰められていた。あー、エリさんの歌を聞けるのもあとわずかかな~? と、セラフィーは少し泣いた。ちなみにルシアにはアイアンクロー、ウーシャンは定番の虫かご送りである。ちなみに暁の星メンバーは全員目を丸くしていた。セラフィーの歌が上手すぎたのである。ドワーフ万能。
「ちなみに私も暁の星と一緒に旅立つことにしました~」
「なんですと~?!」
どうやら護衛任務として暁の星が帯同するようである。護衛いらないと言うか護衛セラフィー含めて全員よりエリが強いのは置いておく。
ちなみにイェフタンとその弟子もついてくるのだがセラフィーがそれを知るのはもう少し後の事だった。
セラは歌も上手いです。なんでもそこそここなします。百点以上出せるのは戦闘だけ。




