ヤミン男爵
このお話はセラフィーが心を溶かす物語です。
二話目もよろしくお願いします!
エリさんといいお酒を飲んだ。ちょっと恥ずかしい思いもしたがいろいろ情報も入ったし、素晴らしい夜だった、と、セラフィーは日が登るまで公園で浸っていた。明日は旅に出る予定だし、今日はヤミン男爵と話もしなければならないのだが。
魔法で眠気や酒を抜く。疲れも抜いて、体力も足しておこう。魔力はすぐに回復する。
スキルが全部無くなり、魔法が使えなくなるとしたら、そんな風にセラフィーは考えてしまった。大変なんてものではなさそうだ。エリさんはその大変を、乗り越えた。尊敬すべき人だった。それに歌も素敵だ。
メロディから歌詞から、なにか郷愁を誘う。ドワーフの里では聞いたことがないはずだから、前世から来る感覚なのだろう。また聞きたいな。
そのまま広場でぼんやりしていると、商店の人たちが起き出して忙しく動き始める。まだ薄暗く、空気も冷たい。表通りを行き交う人々。馬車や荷車はほとんど見ない。カードとかインベントリ、アイテム保存ボードなどが主流の世の中だ。流通もそれらに支配されている。ただ、魔物も多いためロストするアイテムも多かったりするけれど。
貴重品をロストした場合、神官の魔法で取り戻す方法もある。セラフィーも使えるが対象アイテムが具体的で誰のどの時点での所有物であったか明確でないと取り戻せない。かなり高難度の魔法だった。
(お父ちゃんの武器とかお母ちゃんの裁縫セットとかは村に残ってたんだよね。ばあちゃんのお店にあったものは具体的に指定するのが難しいし……)
考えていると、カルヴァインが宿から出てくる。一人か。
「お帰りセラ」
「おはよう、朝帰り~」
「夕べはお楽しみでした?」
「楽しかったよ」
セラフィーは「ただいま」とは言ってくれなかった。そんなにすぐには心を開いてはくれまい。だが、なにかいい変化をカルヴァインは感じとった。明るくなっている気がする。
「お店でたまたまエリさんが隣になってね」
「え、うらやましい。俺も飲みに行けばよかったなぁ」
「そういえばカルさんていくつだっけ」
「二十三だが」
「うわっ、おっとな~。エリさんとは年が違いすぎるね」
「彼女は若そうだもんなぁ」
年が違うのは事実である。どちらが上とは言ってない。セラフィーは心の中でニヤリと笑った。
「さあ、今日はヤミン男爵に会いに行くぞ。準備はできてるか?」
「全部インベントリに入ってるよ。おーるおーけー」
そのまま約束の時間が来るまでセラフィーとカルヴァインはエリさんについて話し続けたのであった。
「では行こうか、セラ、カル」
「ガムマイさんおはよう」
「おはよう、朝帰り聖女」
「グフッ」
辛辣だが事実だった。ガムマイハートもセラフィーが明るくなっていると気づく。よほどいい酒を飲んできたようだ。
今回はセラフィー、カルヴァイン、ガムマイハート、ウィーの四人で男爵家を訪れてもぐらの里の現状を報告することになっている。
男爵の屋敷はエリが歌っていた中央公園からさほど離れていなかった。衛兵にカルヴァインが名前を告げ、ギルドカードと首から下げている冒険者タグを見せると、あっさりと通される。インベントリがあるのでボディチェックは無駄だった。収納スキルの阻害は魔道具でできるらしいが。
執事のセバスチャンさん(本当に実名がセバスチャンだった)に案内されるまま、執務室へ。セバスさんがノックをすると声が返ってくる。
「入れ」
「失礼いたしますぞ。旦那様、カルヴァイン様でございます」
「おお、待っていた。通せ」
カルヴァインに続き、ガムマイハート、ウィーと続く。最後にセラフィーが扉をくぐり、男爵らしき人物に会釈した。
意外と若い。髭も生やしておらず清潔感のあるいかにも紳士な青年だ。
「ようこそ、暁の。報告を……、ん、その娘はドワーフか?」
「セラフィー、里の生き残りです」
質問にはカルヴァインが返した。すると男爵はクワリ、と目を見開く。
「おおおおおおおおッ!!」
セラフィーはビクリ、と体を跳ねさせた。いきなり男爵が滝のように涙を流しながら大声で叫んだのだから仕方ない。ドラゴンのブレスなら驚かないのだが。
そして唐突に抱きしめて頭の上でグリグリと頬擦りされる。殴ったらまずいよなぁ、とちらり考えてしまうセラフィー、だが耐えろ。カルヴァインの瞳がそう語っていた。ガムマイハートの目は必死に詫びていたので許そう。禿げそう。セラフィーはガムマイハートの毛根を心配した。
「すまんかったあああ~っ、なにもしてやれず五年、すまんかったあああ~」
「い、いえ、私は元気ですので」
セラフィーもわりとテンパっていた。しかしここまで心配されていたとは思わなかった。
落ち着きなされ、と、セバスさんのチョップが出るまでヤミン男爵は止まらなかった。抜け毛が気になる。
「今年な、やっと今年だ。私が爵位を継いで傭兵に召集をかけられたのだ……」
「そうでしたか」
「男爵、そのことで報告が」
五年も経ってから動いたのは代替わりがあったからか。なるほど納得した。まあ男爵の長男くらいでは傭兵団を動かすお金を出すのは辛そうだ。汚職してるとか商売してるとかならできそうだが。
カルヴァインはセラフィーがすでに里に乗り込み機人兵をほぼ殲滅していたことやトンネルを一応セラフィーが開通したことなどを報告、大いに喜ばれた。
戦いに生きるセラフィーの周りには助けになってくれる人たちがいます。
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