旅立の前に
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夜、なんとなく暁の会合に混ざる気になれずに、ウーシャンを残してセラフィーは町に出る。表通りにあるお洒落な酒場で一杯やろうという魂胆である。カルヴァインはセラフィーが心のバランスを整える必要があると判断してそれを許した。
セラフィーが見つけたのは木造の黒い壁にガラス窓が付いた二階建ての建物の二階部分にある酒場だ。暖色の灯りが漏れてお洒落な雰囲気を醸し出している。浄化魔法をかけて服に回復をかけ、鎧は外してぴしりとしたスタイルで階段を上っていく。ドワーフなのでいい酒の匂いには敏感だった。
「いらっしゃいませ~」
「一人」
「はぁい、カウンター席へどうぞ~」
素っ気なく挨拶を済ませるといそいそとカウンターに座る。隣を見てびくり、となった。
「あら、ドワーフさん……セラさんね」
「あう、あぁあ……ファンです!」
そこに座っていたのはお昼に広場で心の震えるような歌を歌っていたハイエルフ、エリさんだった。セラフィーは限界突破した。
「ご注文は」
「もぐらの宝石があれば」
「ショットで一杯、八百グリンになりますが」
「……ボトルで」
「かしこまりました」
「お金持ち~!」
セラフィーは森暮らしの中でたっぷり稼いだが、森の中ではお金が使えないのでそのままほとんどを貯めこんでいる。レッサードラゴンどころかコモンドラゴンも狩りまくったので、すごい大金持ちだったりする。ちなみに一グリンは約三十円である。ドラゴン一頭辺り二十万グリンを超える。
「もぐらの里の生き残り、血塗れ聖女様ね」
「あ、あぅあ、その、それは」
「ああ、ごめんごめん、自分も二つ名で苦しんだのに。あ、いつもの話し方でいいかな?」
「大丈夫です」
「セラさんも普通に」
「無理無理無理とととと、とんでもないですよ!!」
酒が入らないと無理そうである。カウンターに既に並べられている突き出しのピーナッツ菓子をかじる。こういうのダンジョンで採れるらしい。なんでもあるなダンジョン。
「お待たせしました」
「有り難う」
かしゅり、とキャップを開ける。思えばこれも魔道具で封してあるのだ。とくとくとく、とグラスに赤みがかった透明な液体を注ぐ。香りを吸い込んで、固まる。……里の香りだ。口に含み、転がせる。ああ、と、ため息を吐いた。
「美味しそうなブランデーだね。私もこれと同じのを」
「あ、どうぞこれ」
「ああ、いいのに。有り難う」
自分のボトルから一杯注ぐ。どうやらエリの素はセラフィーのいつもの話し方に近い気がする。クールだ。
「私の話をしようか。実は私は五百歳超えている」
「うぐっ!」
「ふふ、吹き出すんじゃなくて飲み込んでむせるのがドワーフらしいね」
ドワーフは酒をこぼさない。酒をこぼしたら床でも下手したら土でもなめるのがドワーフだ。酒をこぼすのは禁忌である。いや、そこまでではないのだが、いわゆるドワーフジョークだ。
「こんないい酒こぼせませんからね。ああ、旨い」
「さすがにうまそうに飲む」
いつもの態度は営業なのはわかるが、かなり態度が違うので戸惑う。だが五百歳ならそれくらい使い分けるか。ここは気にするまい。少し酒を進めることにする。
「……ん、いい……この香り」
「うん、東でもなかなか会えない酒だな」
「東?」
「東の大陸から来ている」
「あ~」
五百年前に大戦が起こり、祖神様が旅立つきっかけになった、その東大陸か。この世界の海を渡れるのか。
「なにか聞きたいことがあれば答えるよ」
「ん、ん~」
少し考える。五百年前に大戦が起こった東から来た五百歳を超えるハイエルフ。つまり大戦当時を知る人なんだ。聞きたいことはたくさんある。
「では……」
「ふんふん」
ここでセラフィーはエリからたくさんの情報を得ることになった。彼女が転生者であることやシステム改編ですべてのスキルを失って一から積み上げ直したこと、人種すべての寿命が変わったり、その結果大陸が再び荒れたこと、鎮圧されるまでに起こったもうひとつの大戦。
そしてシステムと今の地上の神々の関係。
その他にも世界の根幹に関わるような話からかなり危ない話までいろいろな話を聞いて、閉店まで二人で飲んだ。四万グリンほど飛んだ(約百二十万円。もぐらの宝石のボトルが高いので)。まあ今のセラフィーなら余裕で支払えるのだが。
朝方まで公園で話して、そのまま朝帰りである。
その明け方のこと、まだ暗い道を一人のエルフが歩く。茶色いボブカット、目元には細長い偏光グラス、初心者冒険者のようなシャツの上にボロボロの革の胸当てをつけ、持っている武器は杖である。いかにも貧相な見た目は悪人でも襲うのを遠慮しそうだが、物好きはいるものだ。
どう見ても素面ではない男が五人ほど、騒ぎながら対面から歩いてきた。
「よう、姉ちゃん、べっぴんさんじゃねぇか」
「ぎゃはは、誰がお前みたいな太ったオッサン相手にするんだよぉ?」
「うっせー、女なんてもんはな、強引にやっちまえばおとなしくなんだよお!」
「ぎゃはははは!!」
「姉ちゃん可哀想に震えてるじゃねえか!」
エルフは品がない男たちの話に眉を潜めているだけである。それが気に食わなかったのか男はエルフの腕を掴んだ。
「いいからこいっつの!!」
「はぁ」
男は調子にのってグイグイと女を引っ張る。他の四人もそれを後押しするように背中を押し、一人は尻まで撫でようとしていた。なにか光る壁に防がれたが。
ここで男たちが素面なら気づいたはずだ。屈強な男五人が押そうが引こうが、そのひ弱なエルフは一歩も動かないどころか、小揺るぎもしない、その異常さに。そこでエルフが口を開く。
「おいたはいけませんよぉ? 斬撃エルフさんは優しくないですからねぇ」
「は?」
「あれ? 重い?」
「う、動かねぇ~!?」
「……斬る」
彼女が手元の杖、……仕込み杖を抜き、男たちの間を滑らせるように振る。いや、誰一人その軌道は目ですら追えていないのだが。
次の瞬間、男たちの服は弾け飛び、全員が意識を失った。
……無傷のままで。
ここまで書くともはや隠しようがないんですが、この物語は「メイド剣士は氷の女王」の続編です。
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