生命のダンジョン
三話目です。
そのあと魚や蟹を塩焼きにした。
ただの塩焼きと言う人もいるが、むしろシンプルな塩焼きという料理は料理人の腕が試される。塩加減、火加減、熟成などの肉の扱いなど、変化をつけられる要素が少ないからこそ腕が出るのだ。セラフィーはドワーフの母から仕込まれているのでもちろん凄腕だった。森で取れたベリーや柑橘で作ったソースは絶品だ。
「しあわせ~」
「もふっ、もふっ(生きてて良かった)」
「まあ素材がいいからなぁ。誰でも作れるだろ」
セラフィーに自覚はない。母親の料理が美味かったので自分は平凡だと思っている。食堂や旅館で出てきてもおかしくないレベルだった。そもそも器用なドワーフ、技術系のスキルは突出している。
「外だと火加減が難しいんだよなぁ。風が吹くだけでフライパンや鍋の温度は下がるから仕上がりにムラが出たりするんだ」
「どこの料理研究家?!」
「もぅーん(美味しいからいいや)」
「いや、ドワーフなら普通?」
「ドワーフ万能説」
ドワーフにもできないことはある。水に浮かばないとか小さいとか身長のわりに重いとか。セラフィーは柔軟しているけれど基本的に体も固いし頭も固い。職人としては柔らかいのだが。
とにかくスヴァルトのストレス解消にはなったようだ。エサのオーク肉も火を通そうとセラフィーは決めた。胡椒と塩だけでもわりと美味しいオーク肉である。そればっかりは飽きるが。
犬に塩とか良くないけどスヴァルトは大きいから平気かも知れない。犬猫は腎臓が小さいから塩が良くないので、生き物が生きるには必ず塩は必要だ。スヴァルトは魔物だし回復もあるし大丈夫だろう。たぶん。スヴァルトも調理したものの方が好きなようだし。別に変な肉じゃないし。
ともかくなぜか美食旅になりつつあったが、セラフィー好みの戦闘ももちろん増えてきた。そもそもこのダンジョンはレベルアップ向けな難解なダンジョンなのである。ダンジョンが仕掛けてくる罠などはなかったがとにかく敵が狡猾で強かった。野生の動物的な罠には苦しめられることになった。
まず苦戦したのがレッサーリザードマンの群れである。人種としての蜥蜴獣人と違い魔物だ。お肉は鶏肉っぽくて美味しかったが戦術を組み立てて罠を仕掛けてくる、狡猾な敵だった。セラフィーも気持ちよく戦えないのでムカついて閃光系の魔法で一斉に駆逐したりするレベルである。軍隊というか集団戦闘に特化していて、気がつけば敵に囲まれている展開が多かった。その場合力押しの中央突破をするしかなかったが、逆に罠を警戒するようになったので良し悪しといったところか。
力押しでどうにかなるのが異常ではあるのだが、ともかくこれは戦闘経験を積むのに良かった。セラフィーは落とし穴やスパイクボールなどの罠を食らいつつ囲まれたり誘い込まれたりといった戦術の理解を深めていったので、ある意味助かった。罠は死角から来ると学んだことは戦場で生きる上では絶対にためになっただろう。
ムカついたので駆逐しまくったが。力押しなら全く問題はなかった。それでは駄目だけど、まあ下手な戦術は力で砕けると知ったのも一つの収穫か。
一番厄介だったのはゴリラである。奴らは賢くて腕力も強すぎる。とにかくでかい、強い、賢いとかなり厄介な敵だったのである。
初めはオーク程度の戦力かと思ったが、ゴリラの腕力、スピードはオークを上回っていた上に、ゴリラの頭はオークより優れていたらしく、変な罠が随所に仕掛けられていた。例えば触れるとかぶれる山芋のような粘液が降ってきたり足元にトゲが仕込んであったり見えない糸で首を吊られたりした。なんともいやらしい罠ばかり仕掛けてくる上にゴリラたちは豪腕、スピーディー、森での戦闘に慣れているなど、本当に厄介だった。ゴリラシャーマンが魔法攻撃してきた日には温厚なセラフィーもキレた。……温厚なセラフィーなんていなかったのだ。
ゴリラは厄介だった。とにかく膂力も優れているのに知恵が働く。罠に嵌められた上に利器で殴られるのだ。スヴァルトなどはこれに嵌められた。唐突に落とし穴に落ちて投石攻撃されてセラフィーは命からがら救いだしたり、なんとかウーシャンが敵を追い払うも直後にスヴァルトがまた落とし穴に落ちてゴリラに投石されたり、そんなことを繰り返しているうちについにキレたウーシャンが魔力切れになるまで魔法を放ちクモの巣(ゴリラの罠)に捕まって危うく焼かれかけたのをセラフィーが救ったり、セラフィーにひたすら変な躍りを見せて挑発したらセラフィーが変な躍りを躍り返してゴリラたちが逆に挑発されてセラフィーの停止を使った魔法罠で逆襲を受けてゴリラ肉が溜まりすぎてスヴァルトがゴリラ肉消費係と名前を変えられそうになったりした。セラフィーは猿肉は食べなかった。
敵が狡猾だったりレベルが高かったりダンジョン特有の罠で満たされていたりして、このダンジョンでの経験は明らかにセラフィーの実力を積み上げた。ただ、かなりセラフィーの性格が悪くなったが。
付き合わされたスヴァルトとウーシャンの苦労は推して知るべしである。めちゃくちゃ罠にはまったので二人も狡猾になった。
疲れたら脱出してヤミンの町まで戻り、冒険者ギルドへ行く。
冒険者ギルドとは傭兵や冒険者の雇用を支える役所のようなもので、いろいろな仕事を斡旋したり魔物が落とす素材やドロップカードを買い取ってくれる。
仕事をこなせば腕前を示すランクが上がる。ランクは一番下がFで、E、D、C、B、Aと続き、一番上がSだ。
セラフィーは素材を売っていくうちに冒険者ギルドのランクがCになったが、それ以上は試験が必要なのでスルーしている。
手に入れたお金で調味料を仕入れたり投げナイフを仕入れたり酒を仕入れる。飲まないので貯まっているが、まあいずれ十五になったら飲むつもりで貯めている。気が滅入るとつい一口飲んでしまうけれど。
そしてダンジョンへ、テレポートで帰る。さらにダンジョンには五階層ごとにテレポートできる水晶が設置してある。サッカーボールくらいの水晶が空中に浮いているのはシュールだ。水晶の手前の空中に浮いている透明なパネルのようなものにタッチして、浮かび上がったメッセージを追って下に出てきたパネルから階層を選び、再び戦場へ向かう。疲れればまた町に帰る。普段はテレポートだから気にならないが町からダンジョンはセラフィーが往復して三日ほどの距離。目立たないようにしているがレッサードラゴンなどを狩り始めたら多少は名前も売れてくる。すぐにまたダンジョンに引きこもる。
そんな生活を三年ほど続けた。記念すべき十五才、ダンジョン生活で強くなりすぎたドワーフはエルダードラゴンと対峙する。
ダンジョン探索で鍛えまくり、ついに国をも滅ぼすエルダードラゴンとの死闘が始まります。
ブックマークと評価をよろしくお願いします!




