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カートの修行

 人は強くなれるのです。



 カートはのんびりしたところがある。病で村が滅び、姉とともに逃げ出したあとも人神国ボーミングリットの亜人狩りに追われ、ほうほうの体で逃げ出した。その割に不幸を感じさせない。


 星王国レイアシスタに逃げ出した時には兄弟揃って痩せ細り、明日にも死ぬか犯罪を犯さねば生きていけぬというほどだった。


 救ったのは傭兵団、暁の星、団長のカルヴァインだった。


 彼は獣人やエルフ、小人たちを救い、傭兵団にいれる形で保護していた。傭兵団なので荒事は多い。亡くなったメンバーも数えきれないほどいる。カートはアイリスを守っていればよかった。後ろで控える形にはなったし、それで安全が確保されてもいたが、それが目的でないことも皆が分かってくれた。


 唯一残った肉親を失いたくない。その思いは強かった。誰もそれを責めたりはしない。とても居心地がよかった。


 もちろんそれに胡座をかいていたりはしないが、やはり若いこともあってか戦いがつたなく、レベルも上がらなかった。パワーレベリングは行わない。セラフィーの強さを見れば分かる。自力のレベリングはレベルの外側の強さ、実戦経験を養うのにこれ以上ないことだった。


 のんきに構えていたカートも本格的に強くならねば、と、ローネルシアに来てからはひたすらに経験効率の良い戦闘経験を積み上げやすい生物系のダンジョンの深くに姉と数人の仲間と潜った。


「アンさんやパーバルさんやハルさんって輜重隊員ばっかりなんだが」


「私、結界師」


「料理人も戦えるって」


「商人は運送能力アップ系のスキルが多いのでダンジョンに潜るときには一人はいた方が長期に潜れますからお得ですよ。エリさんのコンサートの時は帰りますが」


「頼もしいです。二人だとさすがに不安ですからね」


「前衛もう一人欲しいな……」


「ラングが筋トレしてたよ。連れてくるかねぇ」


 しばらくしてパーバルにラングが引っ張ってこられた。鎧込みで二百キロくらいありそうなのに首を捕まれて引きずられている。料理人ってなんだっけ。パーバルが言うには一人で要塞に料理人として潜入して中から落とすこともあるスパイ職らしい。この世界のシステムはなにかを間違っている。


 しかしハルの結界も前衛も張れて武術まで使うパーバルも補給に関しては無類のアンも確かにダンジョン攻略には役に立つ。


「セラさんに頼んで錬金術師のスーシェルさんも引き込むことにしました。後衛の魔術師は欲しい組み合わせですから良いかと」


「うん、意外と安定したパーティーになったな……」


 暁の星は弱くないし、傭兵団としていろいろと揃っていた。一部のメンバーだけでも効率の良いパーティーが出来上がってしまった。


 前衛はカート、ラング、パーバル、中衛はアン、ハル、アイリス、後衛にスーシェルだ。バランスがとても良い。


 カートたちは経験値を稼ぎつつあっという間に五十層を抜けた。トレントやアルラウネなどの植物系、虎や狼の魔物などの隠密肉食系の魔物との戦いは実戦経験を積み上げるのにまたとない好条件だった。


「いくぞ!」


 カートは三メートルほどの体高の虎の魔物に突っ込んでいく。セラフィーから無理して買ったロングソードを意識して振るう。形を繰り返して強くなるのも一つの道であろうが、形は押さえた上で実戦に有用な自分のスタイルを編み出していく、達人を超えるためにはレシピを自分で作り出せなくてはならない。他人の形は自分に確実に合うとは言いきれないからだ。形はあくまで術理を理解するための土台だ。戦いの中で発展させなければ先は見えてこない。


 徹底したレベリング、自分の肉体に経験値を刻み込むのだ。他人の補助は受けても甘えはいらない。


 カートの長剣は振り上げられた虎の左足をはね飛ばす。切れ味が凄まじい。剣士の魔法で血脂を揮発させる。


(風を使うか……)


 魔法剣。カルヴァインと同じ魔法剣士の道をカートは選んだ。剣が風をまとう。砂埃を巻き込む高圧の風がチェーンソーのように肉を裂き、まとわる血を風が弾き飛ばす。これは良いな。巨大な虎の魔物はまもなく息絶えた。


「やるねぇ坊や」


 隣ではパーバルが横からカートに食らいつこうとした狼をみじん切りにしていた。料理人ってなんだっけ。少なくともセラフィーに近い蛮族である。




 野営。ハルが食料を出してアンがテント等の資材を出し、組み立てる。パーバルが調理した料理は魔力や体力を充填し、さらには経験値までも増やす。本当に便利だ。こんな楽なダンジョン攻略ができるのはとても有り難かった。ハルの結界やアイリスの回復、スーシェルのアイテムによる魔力回復や敵の撹乱、その中をカートは斬り進むだけだ。不意打ちをかけてくる敵はラングとパーバルが抑える。安定感が半端じゃない。


 なんとなくカートは自分の位置が掴めてきた。突破する攻撃力。この牙を研いでいこう。セラフィーのように一人で全てをこなす必要はないのだ。その手に握られているのはセラフィー特選のミスリルロングソード。軽い武器は叩ききるのには向かないが風を利用して斬ることに特化したカートの戦術には実に馴染む。セラフィーはそこを見越してこの武器を譲ってくれたに違いなかった。


「本当になんでもできるんだもんなぁ……」


「セラフィーさんにはどう足掻いても追いつけませんね。治癒師としてだけでも横に並びたいものです」


「なんでもこなすセラフィーのレベルって俺たちのパーティー一つ分より強いんだよな……。どんだけの密度で鍛え上げたんだろう……」


 少なくとも今のカートとアイリスが全力を出したところで足元にも及ばないのは分かっている。戦闘力だけなら冒険者Aランクにだって届くこのパーティーをしてはるかに遠い。Sランク冒険者でも「おらあっ!」で吹き飛ばされる。神に挑もうとしているのだ。その志が、向かう先が、自分たちよりはるかに高い。


「どっかであたしらは死なない程度に戦えるようになったことに満足してしまってるんだろうねぇ」


「ここはまだスタート地点。もっと」


「パーバルさんもハルも後衛のはずなんですけどねぇ……」


 アンに至っては戦闘要員では間違いなくないのだが。それでも莫大な資産で集めたアイテムで援護したり、盾と槍でラングとともに壁役をやってみせたりして戦える商人で間違いない。


「このパーティーなら二百層までいけるかもな」


「はん、私がいくらでも魔力回復アイテムや状態異常回復アイテムや保護のお守りを作ってあげるわよ。代わりに敵のドロップ寄越しなさい!」


 スーシェルは口は悪いが錬金術師の実力はイェフタンも認めているレベルだ。とても助かっている。


「じゃあ、あと一週間だけど、行ってみますか二百層!」


「団長に勝てるかも知れませんね!」


「姉さんは無理するなよ?」


「聖女を目指します!」


「押さえてぇ?!」


 カートはこの一週間でメキメキと実力を伸ばしていく。その視線の遥か向こうには、自分よりも四十センチも小さな巨大な背中が見えていた。






 あと一話でこのシーズンは終わります。




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