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治癒魔法雑考

 理屈とは逃げるための方便でしょう?



 カルヴァインはかねてから疑問に思っていたことをセラフィーに訊ねた。


「いつも思うんだけど投げっぱなしの回復魔法ヒールだけだと雑菌が入ったり血が足らなかったりしないのか?」


 カルヴァインの疑問はある意味当然と言えよう。セラフィーは傷を癒すのに浄化魔法を使ったり血を足す魔法を使ったりしていない。


「回復魔法には浄化作用もあるし血液ってものすごく増えやすいんだぜ。そもそも傷が癒えるって状況を理解してないんだよ」


 セラフィーはつらつらと語る。この世界の治癒魔法はシステムによる補助があるのだが、それを踏まえて。


「傷というのは潰れた細胞や折れた骨や固まった血や砂埃や毒や金属片やらがたくさん付着しているわけだな。それらを取り除く術式が回復魔法に含まれていなかったらほぼ間違いなく傷から腐って死ぬ。つまりは簡易浄化を伴わない回復魔法は役に立たん。戦場で傷を洗浄などしていられんしそもそも傷を埋めるということは細胞を生成付着しているのだから血が回復しないとか意味が分からんだろ。むしろ体細胞より血の方が骨髄に元があるんだから簡単だと思う。体力についても同じだ。例えば血を失えば食塩水とか水分を補給してやらないと渇いて死ねる。それらも回復魔法は補っているわけだな。血が足りないまま水分も補給されず傷だけ塞がっても一週間は動けないだろうな」


「現実的に『魔法で傷が癒える』って一言で表すのは無理ってことか」


 ゲームでは回復魔法では毒は癒えないが、現実的に考えると毒があるまま傷を塞ぐという現象には無理がある。ご都合主義でこうなるのです、なら話が終わるが、ここはあくまで現実的に考える。回復魔法は毒もある程度消せるという結論だ。ちなみに骨折して捻れたまま固定して回復をかけると一旦捻れたまま繋がる。固定を外して回復をかけると元に戻るのはなかなかに変な現象だ。システムは「健全」な状態の基礎となるデータを持っているらしい。


「ただのヒールで死者蘇生はおかしいのでは?」


「これも勘違いがあると思う。例えば心臓や脳の細胞は回復しないとか思われていたこと、現実に死亡を確認された患者が甦った事実はいくらかあるということ、心臓が止まったら終わりなら心臓マッサージは意味がないことになるが現実にはそうではないこと、脳死から回復したケースも存在することなどから細胞を復活できる回復魔法で死者蘇生ができないならその方がおかしいということになる。ただ、これは限度があるだろうな」


 そもそも欠損を回復しないと蘇生はできない。欠損を回復するということはそれに代替する質量を魔法、魔力であてがわないといけない。つまりは欠損の度合いによっては魔力が足らなくなるということだ。同様の理由から腐食した死体を復活させることは難しいと言わざるを得ない。ただこの世界の場合はシステムによる代替があるため、魂が輪廻に還元されていない限り蘇生が可能だ。馬鹿みたいに魔力を食うのでおおむね不可能だが。


「意識があればアンデッドでも甦らせることができるの?」


「それが無理なんだなぁ」


 アンデッドの意識は生前の未練などの残留思念が魔力をまとって人間の意識のフリをしているものである。高位のリッチなどはそれが緻密であるためにまるで魂があるように振る舞うが、魂そのものは輪廻に向かっている。蘇生は不可能だ。


「ほえほえ、まあわしは気楽に死後を楽しんどるぞい」


「ヨハさんが来た……」


「セラってこの人苦手だよな」


「聖属性耐性のある高位のアンデッドはほとんど不滅だぞ」


「儂わりと滅びるぞ? 昔ハイエルフさんの聖女さんに消されかけてめちゃ焦ったぞい」


 消せるらしい。セラフィーでも難しいのだが。まあいざとなればトリシューラロケットで宇宙の旅をしてもらって考えるのをやめてもらう手はあるのだが。そもそもヨハはエリやイェフタンと仲良しなので倒さなくても良い。そもそも彼は自身の魔法でアンデッド化しているので魂が残っている可能性まである。


「人の命を操作するのが罪だというなら病になったら死ぬしかないのだから、癒せるなら癒すのが人の道だと思うがのう」


「私はそのつもりだ」


「わたしぃも、癒せる限りは癒したいだ」


 よってこの世界の回復魔法はガンや虫垂炎や肝硬変や複雑骨折などでも魔法一発で治療が可能だ。レベル五十もあれば神官でも僧侶でも治癒師でも癒せる。聖女はその上に立ってるので当然普通の病気は癒せる。ただこれらは魔法なのでシステムの加護、計算があって初めて成立している。一から術式を組み立てる魔術でこれを行うのはイェフタンにすら困難だ。ちなみに術式は計算式のようなものなのだが精霊素と呼ばれる精神に反応する存在を媒介しているため、なんとなく、こんな気持ちで、こんな感じで、などのファジーな訴えでも行使ができたりする。



「まあでもヒールだけだと魔力が足りなかったり精密なコントロールができなかったりするので、やっぱりシステムの補助は必要だぞ」


「そもそも人間の臓器の配置とかこの世界の人ほとんど知らないと思う」


 カルヴァインは前世の記憶からある程度は推察できるらしい。普通の人たちには教育が必要なのだが、不幸にも優秀な教師たりえるセラフィーは人と接するのが苦手である。教えてと言われたらだいたい遁走するのは致し方ない。セラフィーの分身は実体がない。隠密には向いているのだが。


「ともあれ回復魔法は便利なのだけど、精霊毒症のようにその網を抜ける病気もあってな」


 精霊毒症は自然界の精霊がバランスを崩すために起こる。回復魔法は光、太陽属性なので日陰や夜、体内のような暗所で働かせるのは難しい。無理やり押し込む形になる。月属性もあるので夜でもなんとかなるとしても体内は複数の精霊が複雑に絡まっている。太陽の精霊素はこの精霊たちに力を与えても浄化は行えない。よって回復魔法などで精霊が過度に肉体に集まるとその偏りによって身体のバランスをさらに崩してしまう。これが精霊毒症だ。ちなみに雷とか雪とか植物の精霊毒症もある。治療はそれぞれ難しい。


 なので回復魔法だけかけておけばいい、とはならない。セラフィーやマウは病気の知識をシステムからインストールしているので判別ができる。まさに聖女である。


 病気と治療はこの世界でもいたちごっこなのは仕方がないのかもしれない。






 治癒魔法を使う人には警告。逆に言えばこのルールの中なら使い放題です。

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