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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第七一話 始まった日々


 目下の課題であった定期試験も終わり、ここまで来てしまえば残すところは楽しみなイベントのみ。

 それこそ、学校の方で言えば既に悠斗達は学生にとっては束の間の休息とも言い換えられる冬休みへといよいよ突入した。


 流石に長期休暇の中でも最大規模である夏休みほどの長さがあるわけではないが、だとしても一週間単位で学校から離れることになるこの時間は貴重なものに変わりない。

 実際に悠斗の周辺でもこの休み中にどこに行こうだとか、誰を遊びに誘ってみようなんて会話が入り乱れて浮足立った雰囲気がそこかしこに漂っていたものだ。


 ……ちなみに余談だが、そんな空気の中にあって最も男子にその身を狙われていただろう咲は誰からも誘いを受けていない。


 正確には、その近くにいた()()が全力でボディーガード兼バリケードとなっていたために近づくことすらままならなかったのだ。

 悠斗もチラリとその現場を見かけたので知っているが…あの時の里紗から放たれる威圧感は半端なものではなかったとだけ言っておく。


 不埒な目的を持って咲を誘おうものなら即座に叩き潰されることを予見させ、中途半端な心構えでは正面に立つことすら叶わないだろう。

 そう確信させるだけの覇気が彼女にはあった。


 …それだけの圧を放てる里紗は一体何者なのかと思わなくもないが、まぁあれについてはひとえに彼女の咲を思う心の強さがあればこそのもの。

 実際そうしている状況下で咲はその行動を咎めるような素振りを見せていなかったし、彼女もその対応に納得しているのならば外野がとやかく言う事ではない。


 加えてこれは直感でしかないが…何となく、咲の方もそうして里紗が彼女のことを守るような行動を取っていたことに楽しそうな表情を見せていたように思う。

 考えるに、あれも彼女らにとっては一つのお約束に近いものなのだ。


 ……いや、里紗が咲を男子の手から守ろうとしていたことは本気だと思うのであくまでそれ以外のやり取りはということである。

 里紗が咲を守るような動きを見せ、咲はそこに身を委ねる。


 中学から付き合いがあるという二人なら幾度となく繰り返してきたコミュニケーションであり、それゆえに馴染んだ楽しさというものがある。

 だからこそあのように半ば周囲へと見せつけるような形になりつつも、彼女らで冬休み前最後の交流を満喫していたのだろう。


 まぁ咲と里紗についてはそんなところだ。

 悠斗が見た限り、年内最後の対面になるだろう瞬間で里紗が咲を抱きしめながら惜しみつつ…心配した声色で『咲、体調には気を付けて過ごすのよ? 身体は冷やし過ぎないようにして、それからゆう……ゴホン! 男にどこか誘われてもホイホイついていったりしたら駄目だからね? あとあと──…』といったことを延々と先に語り掛けていた姿が最後に確認出来た光景だった。


 …口にする内容が完全に娘を心配する過保護な親としか思えない上、あまりにも話題が途切れる気配が見えなかったので悠斗は途中で帰らせてもらったが。

 咲に忠告をしておきたい心情は分かるのだが、出来ることならもう少し伝達内容は手短にしてもらいたいと思ったのは仕方のないことだと思う。


 ひとまず二人の話題はその辺りで終いとなる。

 話を現在に戻すが、今の悠斗と咲は冬休みに入ったこともあってゆったりのんびりとした時間を過ごして………いない。


 むしろ状況はその真逆であり、今日は正午辺りからやってきた咲が何とも慌ただしい動きを絶やすことなく継続し続けている。

 彼女がそうしている理由は至極単純だ。

 何しろ今日は………。


「あー、咲。…本当に俺は手伝わなくて大丈夫か?」

『大丈夫。今日は()()()()()だからお夕飯も豪華にしたいし、メニューも決めてきた。だから手伝ってもらわなくても私一人で十分』

「そっか…まぁ大変だったら言ってくれ。俺も出来ることがあればやるからさ」

「………」


 …世間でもそこかしこが飾り付けられ、祭り一色の模様を呈している十二月二十四日。

 すなわち、クリスマスイブ当日なのだから。


 以前から悠斗と咲の間でも約束をしていた日付。

 当初は二十五日のクリスマス本番でも良いかと考えたが、咲から『この日にやりたい』と言われたので悠斗もそれを了承した形だ。


 理由は特に知らない。気にもならなかったので追及もしていない。


 どちらにしても彼らが集まった今日この日こそがささやかなパーティ当日であり、そのために咲も昼頃から準備に追われているのだ。

 無論、彼とて何もしていないわけではない。


 悠斗も明らかに忙しく身を動かし続けている咲を見ながら何か手伝えることがあれば手を貸そうとしたし、彼女からそのような申し出があれば躊躇なく受け入れるくらいには心構えも出来ていた。

 ……だが、何というか。


 今更過ぎる上に彼自身でもとっくに理解していた現実ではあるものの、料理面において圧倒的なまでの不器用さを誇る悠斗が出来ることなどほぼないわけで。

 先ほどから何かやることは無いかとそれとなく尋ねてはいるが咲からは微笑を浮かべて断られるだけであり、まるで役になど立っていないのが現状である。


 情けないことは誰よりも悠斗が分かっている。しかしそれでも…ここで無理に押し入ったところで更に余計な迷惑をかけるだけだというのも、理解している。

 家事方面初心者の悠斗がベテランの独壇場に我が物顔で突入したところで邪魔になるだけだし、場合によっては料理そのものを台無しにしかねない。


 それは流石にアウトだ。

 ここまで頑張ってくれている咲の厚意全てを無碍にしかねない展開など彼は望んでいないのだから、結局今に至るまで悠斗は彼女を見守る役だけに徹している。


 判断としてはそれが最善だろう。


「…にしても、今日はいつもと比べて一段と手間のかかる料理ばかりみたいだな。それに加えてまさか……()()()まで手作りだとは思わなかったよ。絶対大変だったろ?」

「………」


 しかしそんな状況下にあっても咲は相変わらず一切作業の手を緩めることなく動かし続けており、既に一時間が経過しようとしているのにも関わらず忙しなさが解消される気配はない。

 だがそれは決して夕食の準備に手間取っているとか何かトラブルがあったというわけではなく。


 むしろ夕食の方は少し前に一段落したようでその事実を本人からも伝えられていた。


 では現在咲が何に手を焼いているのかと言えば…その原因は全て今悠斗が口にしたことに起因している。

 そう、これは彼も今日初めて聞かされたのでその際は驚かされたのだが、何と彼女はクリスマスには定番とも言えるケーキまでも自作すると言ってきたのだ。


 このことを言われた時にはそれはそれは驚愕させられた。

 いや、悠斗も不思議には思っていたのだ。


 というのも少し前から彼は咲に何度か『ケーキをどこかで予約しておこうか』という旨の相談をしており、その度に断られてきたからだ。

 やはりせっかくのクリスマスなのだし、ここはケーキの一つでも用意しておいた方が良いだろうという判断からそう提案していたのだが…何故か咲は一向に首を縦に振らなかった。


 しかしそれならば悠斗も無理強いをしたいわけではないので大人しく引き下がり、もしや咲はケーキが好みではなかったのかと反省していたわけだ。

 ……が、そう思っていた矢先に彼女の言葉である。


 今日やってくると早々にケーキの生地を仕込み始め、何故か彼の家に置かれているオーブンやら電動泡立て器やらをフル活用する様はこれ以上ないくらいに慣れた手つきであった。


 一応彼の方からもケーキを一から作るなど大変すぎやしないかと探りはしたが…返ってくるのは首を横に振って否定してくる彼女の返答のみ。


『確かにちょっとは大変。色々手間もかかるから』

「だよな。…というかそれ以前に、俺にはそもそもケーキを自分で作るっていう発想すら無かったぞ。ああいうのは買う物って認識だったし」

『もちろんそれも考えた。……でも』

「…でも?」


 それに悠斗の認識としてはケーキを自作するなど考え付くことですらなく、前提として自分たちで作れる物だとすら思っていなかった。

 まぁ以前に一度咲が作ってくれたスイーツを食しているため、彼女の腕の良さが菓子作りでも如何なく発揮されることは疑う余地もないが………それでも苦労することに変わりはない。


 なので問いただしてみればやはり彼女の言葉からも決して楽ではないということは伝わってくる。

 それはそうだろう。

 いかに咲が菓子作りにまで精通しているとはいえ、だからと言ってケーキを丸々一つ作るともなればかかる手間は半端なものではなくなるはずだ。


 …だが、彼女の言葉はそこで終わらない。


 何故かは分からないが多少赤らむように染まった頬を彼へと向け、内心に湧きあがる羞恥ゆえか潤んだ瞳も抱えた咲が伝えてきたのは…こんなこと。


『…悠斗には、私の作ったケーキを食べてほしいと思った。それで美味しいって言ってくれたら…嬉しいから』

「……っ!」


 ──そうして伝えられた意思は、何とも可愛らしく。


 彼女自身の魅力を前面に押し出したかのような一言は…悠斗の心臓を暴れさせるに足る威力を優に抱えていた。


 自分が作ったケーキを食べてほしい。言葉にすればそれだけなのにこうも感情が掻き乱されるのは相手が咲だからなのだろう。

 誰よりも自分の近くにいて、そして誰よりも信頼している少女。


 そんな彼女だからこそ…こうも意識を取り乱しそうになるのだ。


(…咲のやつ、意味を分かって言ってるのか? あんなこと言って…危うく勘違いしそうになるだろ…!)


 内心ドクドクと早鐘を打つ心臓をグッと抑え込みながら、悠斗は彼女が放ってきた言葉に意図せず込み上げてきてしまう頬の熱を咄嗟に隠した。

 頬を赤らめ、それでありながら上目遣いで告げられた咲の言葉に…単なる()()()()()()()を覚えそうになりつつも、すんでのところでそれを思いとどまらせることに成功させつつ。


 ギリギリのところで踏みとどまった理性を総動員させて、彼も何とか返事を絞り出した。


「…わ、分かった。それなら、まぁ…楽しみにさせてもらうよ」

「………!」


 …そんな彼の内心を知ってか知らずか。

 悠斗の返答を聞いた咲は先ほどまで以上にやる気を漲らせたようで、その小柄な身長を一生懸命に動かしながらケーキ作りを続行させていった。


(…あっつい。あとで咲には言い聞かせておかないとな。軽々しくああいうことを言うなって…)


 ──その傍らで、咲から注意が逸れた悠斗は図らずも上昇してしまった体温を誤魔化すように手で顔を仰いでいたそうな。


 この時の彼が何を思っていたのか。彼女に何を感じていたのかは…誰に分かる話でもない。


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