第41章 「必殺の三段仕掛け、疾風のトリプルスラッシュ!」
「一気に畳み掛けるんだ!美鷺ちゃん、かおるちゃん!」
敵を睨み付ける時の険しさから一変。
自分の両脇を固める同輩に京花ちゃんが見せたのは、普段と変わらぬ屈託のない笑顔だった。
「よし来た、京の字!」
「ええ!」
これに応じる2人の少女剣士の笑顔もまた、爽やかで美しい。
「見せてやる…私達のトリプルスラッシュを!」
ローファー型戦闘シューズの靴底が、アスファルトで舗装された大地を蹴る。
剣を愛し、また、剣に愛されし3人の少女達は、戦場を吹き抜ける3筋の熱い旋風と化して、機械仕掛けの阿修羅王へと一気に殺到した。
「はああっ!」
一番刀として口火を切ったのは、蓮っ葉な少女が操る西洋式サーベルだった。
「喰らいな、ポンコツ木偶人形!」
一気に間合いを詰めた美鷺ちゃんは、直ちに背筋を伸ばして構え直すや、手にしたサーベルで猛烈な斬撃を浴びせたんだ。
「オラオラッ!いい気分だろ、屑鉄大将?」
勢い良く風が裂かれ、しなやかに刀身が唸る。
その刀身が触れる度に、戦闘ロボットの硬質な外装が切り裂かれ、火花が鮮血のように迸る。
機銃掃射のように飛び出す口汚い罵声とは裏腹に、サーベルを構える美鷺ちゃんの姿勢は実に美しく、その剣技は目を見張る物だったよ。
さすがは、御子柴1B三剣聖の一角だね。
「よぉ、大将…その不細工なナリでアタシ達のシマに上がり込むだけじゃ飽きたらず、素人連中に手出しするとは、良い肝っ玉してるじゃねえかよ!」
サーベルを操る手はそのままに、美鷺ちゃんが戦闘ロボットに笑いかける。
だが、いくら桜色の頬を緩ませて、口角を上げていても、茶色掛かった切れ長の瞳は、まるで笑っていなかった。
ある意味では、下手な憤怒の表情なんかよりも、よっぽど鬼気迫る形相なのかも知れないね。
「こいつはその図々しさに敬意を評したアタシからの、掛け値なしの駄賃だよ!」
美鷺ちゃんの美貌に刻まれた形相が、鬼気迫る微笑から真顔に転じた瞬間、そのサーベルの太刀捌きもまた、その趣を鮮やかに変えたんだ。
突風のような斬撃から、梅雨時のゲリラ豪雨を思わせる激しい連続突きへと。
「そ~ら…遠慮なく受け取りなよ!」
突き刺さった切っ先が、阿修羅王に酷似した戦闘ロボットの内部メカを抉り、引き抜く時にまた、精密機械に著しいダメージを与えていく。
穿たれた風穴の奥では、破壊された精密機械と引き裂かれたケーブルがショートしているのか、バチバチと火花が上がっている。
外装を傷付けられ、至る所に穴を穿たれ。
ほんの寸前まで無機質な不気味さを醸し出していたアシュラロボは、今や幽鬼のような無惨な有り様だ。
「お似合いの格好だな!リサイクル業者か製鉄所に、一山幾らで買い取らせてやるよ!」
満足そうな軽口を叩きながらケラケラと笑う美鷺ちゃんだけど、その一挙一投足には微塵の隙もないね。
スクラップ寸前の無惨な姿と成り果てた戦闘ロボとしても、何とか美鷺ちゃんに一矢報いようとするのだけど、その成果はさほど芳しくないようだ。
「そんなナマクラ腕で、アタシ達を殺せるとでも思ったかよ!養成コースの御子様達でも、もっとマシだったよ!」
青竜刀を振りかざそうとする6本の腕は、その度に関節をサーベルで貫かれていき、徐々に動きが鈍くなっていく。
とうとう耐えきれなくなったのか、アシュラロボの左腕の1本が肩から脱落し、バラバラの残骸と化してアスファルトの地面に散らばったよ。
「おっ…この野郎!」
砕けた腕パーツが散らばる騒音と美鷺ちゃんの悪態を掻き消したのは、戦闘ロボットの胸部で弾けた2つの爆発音だ。
「屑鉄大将め、チャチな豆鉄砲を仕込みやがって…アタシ達も随分と舐められた物だな!」
利き手を引き戻した美鷺ちゃんが、呆れたような表情を浮かべて吐き捨てる。
その手に握られたサーベルの先端からは、細い白煙が立ち上っていた。
同じ白煙は、アシュラロボの胸部からも、もうもうと上がっていたね。
展開しかけていた胸部装甲の内側には、へしゃげた機関銃が無惨な姿をさらしていたんだ。
どうやら、隠し武器で至近距離から狙おうとした所を美鷺ちゃんに見破られ、サーベルを銃口に突き立てられて暴発したんだね。
肝心要の発射機構を破壊されてしまっては、あの機関銃も役立たずだよ。
もっとも御子柴1B三剣聖が相手だったら、発射された銃弾を刃で切り刻んで無効化するのは朝飯前なんだけど。
「アタシだけで片付けてやっても構わないけど、遊び足りないのが2人も順番待ちだからね…ビシッと決めてやりな、淡の字よ!」
「心得ました!」
蓮っ葉なサーベル使いの次峰として続くのは、雅やかな黒髪お下げが印象的な和風の少女だった。
「人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属…淡路かおる少佐、御相手致します!」
音もなく黒鞘から迸る、玉散る白刃。
それは、淡路かおる少佐の個人兵装にして守り刀の業物、「千鳥神籬」だ。
「お命、頂戴!」
一刀流の基本姿勢である、正眼に構えられた業物。
その磨き上げられた刀身が、かおるちゃんの大和撫子然とした美貌を映し出す。
「ええいっ!」
裂帛の叫びと共に振り下げられた業物は、サーベルで無数の穴を穿たれたアシュラロボの肩から脇にかけてを、袈裟懸けにザックリと切り裂いていた。
淡路一刀流の後継者と期待された腕前は、伊達じゃないよ。
「とうっ!」
最後の大トリとして一際勇ましい雄叫びと共に躍りかかったのは、真紅に輝くレーザーブレードを携えた京花ちゃんだった。
「レーザーブレード・縦一文字斬り!」
戦場に轟く裂帛の叫びは、京花ちゃんが考案した必殺剣技の技名だ。
大きく振り被られたフォトン粒子製の赤い刀身が、西洋式サーベルで無数の穴を穿たれ、業物で袈裟懸けにされた戦闘ロボットの体を、首の付け根から股間まで一直線に切り裂いていく。
「やあっ!」
縦に両断した戦闘ロボットの胴体を、追い討ちとばかりに横凪ぎに切り裂くや、京花ちゃんは2つの切り傷が交差する一点へと、強かなミドルキックを叩き込んだんだ。
「終わりだよ!」
蹴り技の姿勢から旧に復した京花ちゃんの見据える先で、4つに分断された戦闘ロボットの残骸が吹き飛び、空中で爆発した。
「我等3人、御子柴1B三剣聖!」
再び揃えられた少女達の裂帛と愛刀の切っ先は、邪悪の征伐を高らかに知らしめす、正義の勝利宣言だ。
この勝利宣言は、機動隊と協力してガスマスク兵士を掃討し終えたばかりの、武装サイドカーに騎乗した私の耳にも、しっかりと届いたよ。




