644【ランダのお面】
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今話は、少し短めです。
バロンケのテイマーとしてのお面を彫っていると、近衛兵が来た。人を連れて。
「マナミ!」
「サブさん!」
駆け寄ってくるマナミ。
「全然、帰ってこないから、心配で。簡単なお話は聞きましたけど」
「すまないな。一度、戻るべきだった」
「何か重要なお仕事ですか?」
「まぁね。紹介しよう」
マクレガウスとマナミを紹介する。
「それからこちらに」と窓辺へ。
「バロンケ、メアリ、紹介しよう」と声を掛けると、頭を上げて、こちらを見るバロンケとメアリ。
窓辺からバロンケを見て驚くマナミ。
「獅子舞い!?」
「だよね。聖獣バロンケ。そばにいるのは、メアリ。メアリはバロンケ専属になったここのメイドさんだ。バロンケ、メアリ、彼女はオレの仲間で、マナミという」
「よろしくお願いいたします」と礼儀正しい礼をするメアリ。
「こちらこそ」
「バロンケは、グラデウス国からマクレガウスたちに付いてきたんだ」
「大丈夫だったんですか?」とマクレガウスを見るマナミ。
マクレガウスがそばに来る。
「最初は大変だったな」と軽く笑う。「だが、敵意を見せたり暴れたりはしなかったのだ。我が、ゴウヨーク国行きの船に乗ろうとすると、付いてきてな。拒もうとしたが、押し切られた」と今度は苦笑する。「こっちに着いたはいいが、さすがにゴウヨーク国側の許可もないのに、下ろすわけにもいかなくて、なんとか押し留めたのだ。ジョージに相談したところ、サブに頼むことになり、サブを呼んだわけだ」
「そういうことですか。じゃぁ、テイムしたんです?」とオレを見る。
「いや。バロンケとはテイムなしに念話が通じてね。それで話しているんだ」
「なんで、念話が?」
「波長があったらしいとしかわからないな」
「はぁ」
「それでオレが来て、バロンケ付きみたいになった。で、バロンケは船が着いた港を見てみたいって話で、バロンケを連れて、見に行った。その際に、人々にオレの従魔だから大丈夫って説明してまわったんだ。見学を終えて、船に戻ったら、ここに案内された」
「そういうことだったんですね」
部屋の中に戻り、ソファーに腰を下ろす。
メイドさんが、お茶を淹れて、マナミに出す。
それに対して、礼を言うマナミ。
彼女がひと口啜るのを待って、話を続ける。
「で、例の大会があるだろう?」
「あ、はい」
「あれで、大会トップの冒険者とバロンケを闘わせることになったんだ」
「どうしてです?」
「バロンケのことは、港の人々から城下へと話が伝わる。すると、人々が港に殺到するだろうなって話になって。で、大会で闘わせることになったんだ」
「それは、バロンケが了承したんです?」
「うん。バロンケにとっては、遊びになるみたいなんだ。だから、多少のケガは折り込み済みなんだ、バロンケは。まぁ、ケガするとも思えないけど。むしろ、相手の方がケガしそうだよな」
「それはそうでしょうね」と窓の外のバロンケを見るマナミ。
バロンケの体格は、サイと同じくらい。テレビでしか見たことがないけど、そんなものだろう。
全身は白い毛皮で覆われていて、顔が赤いだけ。赤というよりは朱色だろうか。それもあって、獅子舞いの獅子に見えるのかも。
四肢はサイとは違い、走りに特化しているような脚をしていて、それはウルフに近い。その足はどちらかというと、猫科のそれのような感じで、ツメの出し入れができる。
獅子って猫科だっけ? いや、架空の動物だよな、あれは。ライオンは日本にいなかったから、空想だかなんだかだった気がする。
「何を彫っているんですか?」とオレの手元を見るマナミ。
「バロンケのテイマー役をするためのお面。グラデウスの村々には、ランダという老婆の話があってね。そのランダに似せて掘ってるところ」
「老婆?」
「バロンケのいた村でも、ランダの格好をした人物が踊る風習があるそうでね。おそらく、厄除けとかそんな意味だと思う」
「特別な存在だったんですね、そのランダは」
「うん。鑑定さんによると、魔法使いで薬師の女性らしい。おそらく、村の薬師かなんかだったんだろうな。いくつかの村にそうした薬師の老婆がいてもおかしくないだろう?」
想像してみるマナミ。
「いそう」と笑む。
「まぁ、老婆に似た猿型魔獣かもしれないけど」
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