636【シコリ】
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今話は、少し短めです。
メアリは、あのあと起こされ、自室へと引っ込んだ。
翌日。
目覚めると、彼女からの謝罪があった。ゆうべの時点で、すでに謝罪されたのだが。
「謝罪を受け入れる」
「ありがとう存じます」
朝食をして、お茶休憩。
「メアリ」
「はい」
「あとから、国王陛下からも話が出るかと思うが、君はバロンケ様の付き人となる」
「はい、伺っております」
侍従長を見ると、うなずかれた。すでに話はしてあったようだ。
「なぜかは?」
「わたくしが、魔獣を恐れないから」
「うん。だが、正確には違う。バロンケ様に言わせると、君は特別な存在なんだそうだ」
首を傾げる彼女。
「特別?」
「巫女というのは、わかる?」
「神様に仕える方々の中の女性、でしょうか? 修道女のような」
「だいたいそんな感じだね。ただ、ここでは神様ではなく、聖獣に仕えるというのが違いかな。君は魔獣を怖がらないだろう?」
「はい。自分でもなぜなのかはわかりませんが」
「それが巫女だとバロンケ様は言うんだ」
「はぁ」
「だからといって、意思疎通は限定されているし、しばらくはそばにいて、世話を焼く程度の話になる」
「はい」
「これまでで、何か気になることは、あるかな?」
彼女は、少し考えると、ひとつうなずいた。
「バロンケ様の腰のところにシコリがありました。気にはなさっておいでではありませんが。少し気になりまして」
「シコリか」
バロンケのところに行く。
「バロンケ、腰のところに何かあるって、メアリが言っているんだが、心当たりはあるか?」
『どこのことだ?』
「メアリ、どこ?」
メアリがバロンケに、失礼いたします、と言って、その腰のあたりを探す。
「ここです」
メアリが示したところは、左腰のあたり。
『ああ』とバロンケ。思い出したようだ。『まだ、魔獣だったころに人間と闘ったときのものだ。よく見つけたな』
「まだ聖獣になる前に、人間と闘ったときのものだそうだ。変わってくれ」
「はい」
彼女と変わり、その部位の魔力の流れを見る。うっすらとしかわからないが、何かあるのがわかる。だが、問題になるほどのものには見えない。
鑑定さんで見てみる。金属製の小さな玉。何を使ったのか?
思い当たるものをアイテムボックスから取り出す。
「バロンケ、その人間のひとりは、これを使っていなかったか?」
それを弓の弦のように引いて見せる。
『よく似ていると思う』
それは、スリングショット。俗にパチンコとも呼ばれる。
「たぶん、腰に入っているのは、これだ」と弾を出して、見せる。
『なるほど。当たったときにかなり痛かったし、キズにもなった』
「だろうね。毒を塗る場合もあるけど、痺れとかはあった?」
『痛みはあったが、痺れはなかったな』
「ふむ。しかし、毛皮の上から貫通するとは信じられないな」
そう、バロンケの毛皮は、そんな弾丸を簡単にとおすようなものではない。むしろ、衝撃が減り、肉に到達する前に、力を奪われ、弾かれてしまうだろう。せいぜいアザになるくらいだ。
『魔力を込めて使っていた。そのせいだろう』
「魔力を? 弾に魔力を込め、打ち出すのか」とその方法を考えはじめる。だが、すぐにやめた。「おそらく、魔法の付与を行なうんだろうな。知らんけど」
付与なんて、マンガでしか知らないからな。この世界では、聞いたこともない。
「それで、どうなのでございますか?」とメアリ。
「あぁ、大丈夫。この玉に似たものが入ってて」と弾を見せる。「それは悪さをしていない。安心していいよ」
ホッとするメアリ。
本来ならば、体内に残すのは、金属の毒があるので、取り出すべきだ。昔は、弾丸が体内に残り、鉛毒で次第に病んでいくと聞いたことがある。
しかし、鑑定さんによると、そうした毒はなく、体内にあっても平気なのだそうだ。だから、無理に取り出す必要もない。
本人も気にしていないようだし。
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