633【巫女】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し短めです。
そうして、バロンケの部屋には、水の用意と人員が配置された。
人員は、まず、宰相配下の侍従長が訪れた。
バロンケを見ても動揺せず、オレと話をしたあと、付いてきた侍従にいくつもの名前を伝えて、下がらせた。
「バロンケ様のおそばでも失礼ない人員を集めます」と侍従長。
「大丈夫ですか? こんな魔獣のお世話など」
「驚きはすれ、安全だとわかれば、きちんと仕事をする者たちです。最初は未熟な者を当てはしますが、ご心配には及びません」
「未熟な者?」
「はい。未熟者でございます。が、きっかけにはなりますゆえ、ご心配には及びません」
「はぁ」
なんか押し切られた。手強い。
最初の人員は、しばらくしてからメイドが来た。ひとりだけで。
バロンケは中庭に出ているので、メイドはすぐには、驚かない。
というか、何も聞いていないようで、侍従長の話を聞いている。
肝心の客人の話を聞くと、バッと部屋の中を探し出す。
「落ち着きなさい、メアリ」
と侍従長に言われた瞬間、ビシッとするメイドさん。侍従長は怖い存在なんだな、わかるわかる。
注意点をひとつひとつ言われるメイドさん。それにきちんと応える。
「では、あとは任せます」
「はい、侍従長」
侍従長から離れ、オレのところへ。
「メアリと申します。聖獣様のお世話係になります。よろしくお願いいたします」と一礼。
「サブだ。よろしく。さっそく引き合わせよう」
「はい、よろしくお願いいたします」
なんかワクワクしてないか?
ともかく、中庭へ。
『バロンケ?』
バロンケがこちらを向く。
『彼女が君の世話係だそうだ。名前は、メアリだ』
中庭でくつろぐバロンケを見たメアリの目が輝く。
あれ? これは、“うわぁ、本物だぁ”的な眼差しだな。
「メアリ、紹介しよう。聖獣バロンケだ。魔獣とは違い、人を襲うことはない」
「はい」としっかりとうなずく。
「バロンケ、メアリだ。君の世話係だ」
バロンケはそこから動かない。
「バロンケ様、よろしくお願いいたします」と眼差しを外さずに、お辞儀する。
『よしなにな』
まぁ、念話は通じてないから、意志の疎通は成り立たないが。
ところが、メアリは、バロンケの前で、ペタンと座り込んでしまった。
「メアリ?」
ほうっと、ため息を吐くメアリ。
『コヤツ、巫女か』と驚くバロンケ。
『巫女?』
『うむ。たまにしか出会えぬが、我のような存在を恐れず、敬う心を持つ者だ。そばにいてもらいたい』と切望の念。
『わかった。話してみる』
オレは侍従長を呼び寄せる。
「はい、サブ様」
「どうして、彼女を?」
「あれは変わった娘でして、魔獣を恐れないのです。本人もわからぬようで」
「なるほど。バロンケによると、彼女は巫女、聖獣に仕える素質を持った人間のようです」
「なるほど」と納得する侍従長。「メアリであれば、適切でございますか?」
「おそらく、バロンケはそばに置きたがるだろう」
彼がうなずく。予想どおりというところか。
そのあと、次々に侍従やメイドが現れる。彼らは、中庭のバロンケを一瞬恐れ、だがすぐに客人として対応することを決心する程度には、できた者たちだった。
その判断材料として役立ったのが、メアリの存在だった。
中庭で、彼女はなんとバロンケの顔や身体を笑顔で撫でているのだ。
バロンケも満更ではない表情。
これは魔獣を前にした行為とは違う、と誰でもわかる。いい判断材料だった。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




