632【ローレルと巣穴と】
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今話は、少し短めです。
小一時間、見てまわり、バロンケもとりあえず満足したというので、船に戻ろうと、踏み板のところまで戻ってきた。
そこには、馬二頭とともに顔見知りが立っていた。女性騎士のローレル・アズバーンだ。一緒にグエダラ国へと旅した仲だ。
彼女がこちらを見つけ、サッと腰に佩いた剣の柄を握り構えた。それから、頭を振ると、柄から手を引き、その手でこちらに手を振った。
こちらも手を振り返し、近付く。
『知り合いだよ』
『そうか』
「やぁ、ローレル。グエダラ国から戻って以来だな」
「うむ。その後の話をしたいところではあるのだが、国王陛下より言伝を頼まれた」
「聞こう」
「王城の一角に、バロンケ殿をご招待する。そして、そこまで案内せよと命じられた」
「確かに、承った」ときちんと返す。「紹介しよう。こちらがバロンケ殿だ。バロンケ、彼女はローレル。この国の騎士のひとりだ」
バロンケが彼女にうなずいて見せる。
ローレルも騎士の礼を尽くした。
「全部、聞いてる?」
「ああ。だが、最初に見たときは、剣を抜きそうになった。自制するのが大変だったぞ」
「だろうね。で、王城の一角って?」
「中庭のある場所だ」
「バロンケが行ける?」
バロンケの大きさは、サイくらいの大きさがある。城内を歩くのは大丈夫でも、部屋のドアをとおれるだろうか。
「心配、ない、と思う?」とバロンケを見て、首をひねっている。
ローレルも疑問なのか。
とりあえず、船の船員たちに声を掛け、バロンケを王城へと連れていくことに。
そこまで行くまでに、王城の廊下では、大騒ぎとなっていた。ドラゴンが謁見の間に現れたことはあっても、見た目の魔獣の登場では、そうなっても仕方ない。
そのたびに、ローレルが宥めすかして、事なきを得ていた。
彼女の話から、一応王城内には国王による御触れが出されていたようだが、なにぶん急だったので、その御触れが末端まで届いていなかったようだ。
ローレルが一緒にいるので、許可を得ていると、すぐにわかってもらえても、魔獣が城内を歩きまわるというのは、想像もできないことだろう。
ようやく、到着した部屋の前には、近衛兵ふたりが立っていた。
ローレルを見ると、すぐにドアをふたりで開けて、中に入る。ドアを押さえる係として。
少しドアの高さが低い気がする。
『入れそう?』
ジッとドア枠を見つめるバロンケ。
『おそらく』
そう言って、身体を低くして、ドア枠を潜る。背中を擦りながら。
なんとか枠から抜けたので、伸びをするバロンケ。
『狭いな』
『人間としては、広いんだけどな。ほら、中庭が見える。出てみるか?』
『うむ』
オレがそちらに向かうと、ローレルが指示して、近衛兵ふたりに開けさせた。
窓枠は、広々としていて、高さもあった。それでもバロンケには低いが。
中庭に出てみると、ちょっとした庭園になっている。どうやら小宴会場のようだ。
『バロンケには、狭そうだな』
『うむ。まぁ、巣穴だと思えば、我慢もできよう』
『助かる。水だけでも用意してもらおうか?』
『そうだな。それと人々が近くにいると良いな。我は聖獣だから』
『とりあえず、話してみるよ』
バロンケは、庭園を見てまわる。
「どんなようすだ?」とローレル。
「ちょっと狭いって。でも我慢できるってさ」
「それはよかった」
「それと水は用意してくれないか? エサの必要はないが、ノドは渇くらしい。それと何人かお付きの人がいるといいんだけど」
「えっ」と動揺している。「食べるためにか?」
それに笑う。
「違う違う。バロンケは、人を喰わない。聖獣は人々の畏れ敬う気持ちが糧なんだ。だから、そういう人々の存在が欲しいんだよ」
「そういうものなのか」
「まぁ、聖獣なんて、オレも初めてだけどさ。バロンケから聞いたんだ」
「そうなのか。だが、助かる。手配しよう」
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