631【港の見学】
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今話は、少し短めです。
「それで、バロンケとしては、船を降りて、ここのようすを見てみたいらしい。その許可が欲しいそうだ」
「見てどうする?」とジョージ。
「単なる観光だよ。人々がどのように生活しているのかとか。世の中を見てみたいってだけ」
『別に暴れたりはしないよね?』
『遊んでくれるのなら、それはそれで楽しいがな』と笑ってる。
「バロンケが言うには、兵士や冒険者たちと闘ってもみたいようだ」
「兵士や冒険者たちと?」
「バロンケにとっては、遊びだそうだよ」
「いや、さすがにそれは」
と笑いながらも、ウズウズしているジョージ。
マクレガウスも手をニギニギしてる。
「ふたりとも、やりたいって身体が言ってるよ?」と苦笑するオレ。「ともかく、降ろしても構わないか? 本人は、暴れないと言っているし」
「しかし」と恥ずかしさから手で頭を掻きながら、ジョージが口を開いた。「城下での騒ぎは困るのだが」
「確かに、大騒ぎだろうね。でも港くらいは歩かせてもいいんじゃない?」
「まぁ、その程度なら」
「良いのか、ジョージ? 港とはいえ、噂になるぞ。そうなれば、見物客が大挙してやってくる」
「あぁ、それは困るなぁ」と頭を抱えるジョージ。
「なら」とオレ。「大会の目玉にすれば? そうだな……大会で上位の者にバロンケへの挑戦権を与えるとか。それでバロンケに参ったと言わせた者には、さらなる賞金を与えるとか。どう思う、バロンケ?」とバロンケを見る。
『よくわからぬが、遊んでくれるということか?』
『そうだよ』
『なら、我は構わぬ』と機嫌がいい。
「バロンケは、いいって」
「おいおい、そんな簡単に――」
「良し、賞金は出すぞ!」と拳を握って言うマクレガウス。
「まずは」とジョージ。呆れている。「宰相と相談させてくれ」
「港をまわってきてもいいか? 見てまわったら、船に戻すということで。それでいいか、バロンケ?」
『とりあえず、それで構わぬ』
「いいって」
「サブ、責任を持てるのか?」
「いいや。でも、勝手に降りられて、歩きまわられるよりはいいだろう? こちらの許可を求めているような理性ある相手だよ?」
「それはそうだが」
『サブに迷惑を掛けぬよ?』
『ありがとう』「迷惑は掛けないってさ」
「わかった。ただし、サブはそばに付いて歩いてくれ。問題を起こさぬようにな」
「やっぱ、そうなるよね。わかったよ」
で、ふたりの国王は城へと戻り、オレはバロンケとともに踏み板を降りて、港の地面に足を降ろした。
『しかし、サブは、我を怖がらぬな』
『オレが異世界からの召喚者というのは、わかるだろう?』
『うむ。ステータスにはそうなっていたな』
『オレのもとの世界には、“獅子舞い”という踊りがあって、それを踊る者は被りものをするんだ。その被りものが、バロンケによく似ているんだ。歯を剥き出しにしてみて』
バロンケがニッと笑んで、歯を剥き出す。犬歯というよりは牙だな。
『牙があると、かなり怖いな。こっちの被りものの歯は、牙がなくて、平べったいんだ。こんな感じに』とオレも歯を剥き出して見せる。
『ほう。その被りものが我に似ていると。ちなみに、どうしてその被りものをするのだ?』
『子どもの頭をその歯で噛んで、その子が賢く健やかに育てよ、って願いを込めるんだ』
『ほお、それは興味深い。今度、やってみるか』
『やめてあげて。バロンケは被りものじゃなくて、本物なんだから、親も子どもを隠しちゃうよ』
『それは、噛めぬな。子どもは好きだ。我を初めて見た子どもは泣き出すが、大人たちはみんなして笑ってな。我が背中に乗せると、よろこんでくれる』
『なんとなくわかるよ』
そんなことを話しながら、港をまわる。
突然現れたバロンケに驚き隠れる港の人々。
「大丈夫です。オレの従魔なんで」とあちこちで、説明して歩く。
その説明で、ようやく出てきて、作業に戻る人々。
『従魔か。サブに仕えると、何かいいことでもあるのか?』
『もう結構です。五匹も従魔契約してるんだから。まぁ、一匹は死んじゃったけどね』
『死んだ? なぜ?』
『老衰。結構長生きしてたみたいで、ほんの少しのあいだだけ、従魔にしたんだ』
『ほぉ。ほかは?』
『生きてるよ。ケルピー二頭に、ホワイトタイガー二頭。ホワイトタイガーは森神様になってもらって、人々を守ってもらってる』
『森神か。それは良いことだの。して、ケルピーは?』
『今回は一緒じゃないけど、いつもは一緒に旅しているんだ』
『旅か。そういうのも良いな』
港は、知っているものよりは、小さい。外洋船が四つも停泊したらいっぱいで、身動き取れなくなるくらいだ。
地上部分も平坦ではあるが、舗装してあるのは、馬車の通り道のみで、ほかは土を固めただけのエリアだ。
本来は、漁師が港の外で漁を行ない、魚を陸揚げするのだそうな。その魚を市場で売ったり、加工していたりするのが、ここのスタイル。
だが、外洋船が停泊しているので、それ以外の商いも行なわれていて、いつもよりも、忙しないとか。
そういった話を作業者などから聞く。オレにとっても、初めて知ることだから、ありがたい。
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