628【懐かしい顔】
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今話は、少し短めです。
冒険者ギルドを離れると、ジョージ邸を訪れた。
「サブ様、マナミ様、ようこそお出でくださいました」と執事長が出迎えてくれた。
「話は聞いているかな?」
「はい。おふたりがこちらにいらっしゃるだろうと、旦那様から聞いております。お部屋もご用意させていただいております」
「ありがとう。お世話になるよ」
部屋にとおされ、着替えを用意すると、お風呂に入った。旅のホコリや垢を落とす。
さっぱりして、リビングに行くと、懐かしい顔が三つあった。
「サブ様、マナミ様、ようこそ、我が家へ」とシャーラちゃん。「歓迎いたしますわ」
シャーラ嬢、アイーシャ嬢、それにリリアス嬢の三人が、揃ってカーテシーをして、迎えてくれた。もう“ちゃん”付けから“嬢”付けにすべきだな。
「シャーラ嬢、アイーシャ嬢、リリアス嬢、皆様のお元気そうなようすを見て、ホッといたしました」と挨拶するオレ。
マナミも冒険者としての挨拶をする。
「どうぞ、お掛けになって」
「失礼いたします」
ソファーに沈み込みそうなのを調整して、ほどよいところを探す。
それから、メイドたちがお茶を入れてくれた。
「旅は、いかがでしたか?」
「たいしたこともなく、王都に到着しました」
「それは、良かったですわ」
「今回は」とアイーシャ嬢。「おふたりだけですのね」
「はい。みなはダイナーク国を目指して先に、私たちはこちらへの道を選びました。あとで、合流する予定です」
「そうですのね」
「皆様」とふたりに向けて、リリアス嬢。「お茶が冷めてしまいますわ」
「そうでしたわね」シャーラ嬢がお茶をひと口飲む。カップを置いて、こちらを向く。「サブ様、マナミ様、どうぞ」
「いただきます」
ふたりで、お茶に口を付ける。フルーティーな香りと爽やかな旨味。いい茶葉だ。淹れ方もだが。
カップを置くと、三人を見る。
「お三人とも、すっかりレディですね。私は、少々萎縮してしまいます」と笑む。
そう言われて、三人とも笑顔になる。
「さすがに、お姉様方からの教育もありますし」と答えたのは、リリアス嬢。「知識はあっても、こうした礼儀作法には練習が必要だったようです」
「わたくしもですわ」とアイーシャ嬢。
「わたくしは」とシャーラ嬢。「朝から晩まで、ですわ」と膨れている。
「それだけ、良き公爵家ご令嬢としてを望まれているのですよ」
「窮屈ですわ」プンプンしてる。
ふたりがクスクス笑う。
マナミも苦笑する。
ここで言われている“お姉様方”とは、メイドさんたちのことだ。ここのメイドさんたちは、その多くが侯爵家のご令嬢。
しかし、自分の領地の役に立つには、おのれは貴族家に生まれただけの立場。上の兄弟姉妹が役立つ一方で、自分たちは家のために嫁ぐ先を決められてしまう立場だ。
そうなりたくない場合、多くは有能さを示して、雇われるしかない。学園で上位貴族に役立つ人材として、その後も徴用されるようにする。
男性ならば、騎士団への入団や執事。女性ならば、上位貴族のメイド、という具合だ。
そのため、彼ら彼女らは、単なる優秀者ではなく、おのれからなるべくしてなった者たちなのだ。
それからは、少し砕けた話し方で、旧交を暖める。
そこへひとりの執事さんが入ってきて、執事長の耳に何かを吹き込んだ。
執事長はうなずくと、口を開いた。
「サブ様」
「はい」
「旦那様からでございます。至急、登城をお願いしたい、と」
「そう言ってくると、思いました。お嬢様方、申し訳ありませんが、失礼いたします」
立ち上がり、そう言って、玄関に向かう。執事長が先に立って歩く。
「すでに馬車をご用意いたしました」
「ありがとう」
玄関ドアを開けてくれる。
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