627【冒険者ギルドの行列】
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今話は、少し短めです。
冒険者ギルドも街なか同様に混んでいた。時間的には、まだ依頼達成報告の時間じゃない。
受け付けの行列に並ぶ。
そこから冒険者たちのようすを伺う。みな、一様に笑みを浮かべている。
食事処では、すでにエールを飲んでいる者もいる。
「どうやら、外のお祭り騒ぎの便乗らしいな」
「そうですね」
前の冒険者が振り返る。キツネ獣人だ。
「兄さんたち、知らないのかい?」
「屋台で聞いたよ、グラデウス国の人が来てるって」
「そうそう。海向こうから来たってな。んでな、御触れがあって、大会を開くってな」
「大会?」
「そう。こんな時間から、ここに並んでるのは、その大会に参加するための整理券が出るってな」
「その整理券を得るために? どんな大会なんだ?」
「国王主催の冒険者の勝ち抜き戦よ」
「あれ? それじゃ、この列は、参加の整理券を?」
「おうよ。あっ、それで並んでるんじゃねぇのか。悪い悪い。ふつうの受け付けは、あそこだ」と指差す彼。
そちらを見ると、通常受け付けと書かれたプレートが掲げられてる。
「ありがとう」
「おう」
オレたちは、列を離れて、その受け付けへと向かった。すぐに気付いた受付嬢が待ち受ける。
「依頼達成報告ですか?」
「いえ。ギルマスはいらっしゃいますか?」とギルドカードを出す。「王都に到着したので、報告をと」
彼女はすぐに確認に動く。
戻ってくると、二階へと案内され、執務室へと入る。
「おう、サブ、よく来たな」
「ご苦労様です。なんか凄いことになっていますね」
「ああ」と笑顔とも苦笑とも取れる表情をしている。「グラデウス国の特使が、冒険者勝ち抜き戦を御所望とかでな。大金を出してくれたという話だ」
「おやおや、ずいぶんと気前がいいな」
「予選を勝ち抜いて、本戦出場するだけでも、金子をもらえるとなれば、誰でも参加するさ」
「予選通過だけで?」
「そうだ。出るか?」
オレもマナミも首をブンブン振る。
「そうか、残念。おまえたちなら、いい線行くだろうに」
「どこからそんな判断をするんです?」
「これまでの報告からだが」と笑う。「まぁ、それは冗談だ。王都に来たのは?」
「国王陛下からの召喚」
「おいおい、こんなところにいていいのか?」と真面目な顔になるギルマス。
「こんな騒ぎになってるなら、前情報くらい仕入れないと、怖くて行けませんって」
「それもそうか。ひと月と少し前に、グラデウス国から特使が到着した。それでこの大会を開くよう要請され、こちらにも連絡が来た。大会の開催は、五日後。場所は王都軍の訓練場。広さも充分だし、警護の関係だな。参加者は、事前登録が必要で、整理券が配布される。当日に持っていなければ、参加できない」
「観客の方は?」
「商業ギルドの方がやってる。屋台の出店も許可制だ。おかげで、冒険者への魔獣調達依頼が増えてて、こちらとしてはありがたいことだ」
「なら、あとで素材の買い取りをお願いするとしよう」
「おう、助かる」
「だいたい、そんなところ?」
「ああ。あと、ダルトンたちは途中の村で、魔獣討伐で時間を食ってる」
「魔獣は?」
「ゴブリンとオークがそれぞれ集落を作っててな。それがどちらも大きいらしくて、二手に分かれて、削っているそうだ」
「なら、大丈夫だな。あっ、ランドルフがいないんだっけ」
「そのランドルフは、ミゼス町で冒険者研修をやってるそうだ」
「なら、ナターシャは大丈夫そうだな」とマナミと笑う。
「ランドルフが結婚とはな」とギルマス。「しかもナターシャとは」と首を振る。
「ナターシャは、ダメなのか?」
「いや、そうじゃない。話は聞いていると思うが、一度断られているからな」
「ああ」
「その断ったナターシャが、ここに来て、ランドルフの居場所を教えて欲しいと来たのには驚いた。しかもこれから冬になって、途中で雪に降られるとわかっていながらの旅路だ。それなりの冒険者パーティーを倍額で雇ってまでだ。引き留めたが、意志が固くて、ダメだった。それがランドルフのもとで最後を、と願ってのことだと知ったときは驚いたよ」
「確かに。そこまで惚れられて、ランドルフが落ちるのもわかるってもんか」
「だが、話では、おまえがナターシャの腹を割いて、悪い部分を切り取ったらしいじゃないか」
「オレだけじゃないけどね」とマナミを見る。笑んでうなずくマナミ。
「腹を割いて、生きてるなんて、信じられん所業だぞ」
「まぁ、いろいろと手段が揃ってたからね。おそらく、次はできないだろうな」
「そんなに大変だったのか?」
「もちろん。ウルフを患者に見立てて、何度も何度も事前練習して、必要な準備を整えて、それでようやくだ。あれは疲れたよな」とマナミに同意を求める。
「私も何度もできるとは思えません」
「そうか」とギルマスがうなずく。「ナターシャは冒険者として、復帰はできるのか?」
「いや、引退させた。無理に動けば、身体に負担が掛かり、体内でキズ口が開く可能性もあるからな」
「そうか。それは残念だ。優秀な冒険者だったからな」
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