620【冒険者ギルドからの借金】
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今話は、短めです。
翌日も冒険者ギルドへと顔を出した。すぐに執務室へ。
「これでどうだ?」と数枚の板を彼の前に出す。
「ふむ、特徴をしっかり捉えているな。この文字は?」
「オレが書いた。やる気になっているから、少しずつでも覚えていけるはずだ」
「そうか。ほかにあるか?」
「兄の方が名前を書けた。母親が書かせていたそうだ。本人は、必要性がわからず、真剣にやらなかったらしい。それでも名前は覚えていた。で、本人も習いたいと言い出した」
「良さそうだな」
「今のところは、そんな感じだ」
「わかった。こちらでふたりを預かる際の借金についてだが、《タイガーヘッド》が中心となって、町の冒険者たちから、カンパを集めた。だから、そっち方面の心配はしなくていい」
カンパ? 冒険者たちが?
「顔も知らないふたりに対してか?」
「ああ。オレからも話をした。聞かせてくれと言われてな。それでそれなりの金額が集まった」
「そうか。ありがたい話だ。だが、見返りは当然求めるんだろう?」
「見返り? あるわけないだろう?」とキョトンとするギルマス。
「いや、なんで」
「なんでって、自分たちと似たような境遇だぞ? しかもこの町に住もうとやってきたなら、受け入れるだろうが」
「な、なるほど」
「そういうことはなかったのか、今まで?」
「なかった。だって、冒険者の多くは、その日の糧を得るために、冒険者をやってるわけだし」
「確かにそうだ。しかし、串焼きの一本二本くらいの余裕はある。それをカンパしただけだ」
おぅ、そういうことか。
「わかった。それはどのくらいの労働に匹敵する?」
「だから――」
「わかっている。換算したらという話だ。あの子たちには、カンパのことは言わない。借金をしていることにしておく。返し終えたときに教えてやってくれ」
「なんで?」
「借金がなくなったら、ある種の目標がなくなるから、どうしていいかわからなくなる。でも、借金だと思って、やっていれば、完済したときに、実は、ということになれば、驚くだろう?」
「ああ。言いたいことがわかった。そうしよう。そのことは、オレから話すことにする」
「そうしてくれると助かる」
本当に助かる。
ギルマスとムーナちゃんが描いた絵の値段交渉と、次の注文を受け付けた。
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