618【ムーナちゃんの仕事】
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今話は、少し短めです。
翌日。
朝食して、お茶休憩。
テリーには、重湯が与えられた。水餃子ひとつが添えられて。
ムーナちゃんがテリーに、身振り手振りで、自分が作ったの、と言っている。マナミと一緒に作ったのだろう。
「そうか。お手伝いできてえらいな」
兄に褒められて、満面の笑顔のムーナちゃん。
横になっているように言って、小屋を出た。あとをマナミに任す。
そのまま、冒険者ギルドへ。
この町にも、商業ギルドもあるが、孤児を連れ込むのはやめた方がいい、とエッサには言われた。
それなりに対応するだろうが、どんな商人がいるかわからないため、揉め事になるだろうと。
冒険者ギルドなら、基本的に外から来るのは、旅の冒険者。ほとんどがここ出身の者たち。つまり、町の中のことならば、彼らの方が親身になってくれる。
基本的に、どこの冒険者ギルドも同じだ。
冒険者ギルドに到着。すぐにギルマス執務室へと案内された。
「おはようございます」
「おはよう、サブ。どうだ?」
「目が覚めた。それでだいたいの話が聞けた」
「良かった。それで?」
「森の中に、両親とともに住んでいたそうだ」
「森の中に?」
「両親もタヌキ獣人で、父親が狩りに行って戻らず、母親が狩りに出たが、大ケガで帰ってきて、町に行けと言われたそうだ。それで死んだ。そのあと、おそらく商人の馬車に忍び込んで、この町に来た」
「そういうわけだったか」
「あとは、わかるよな」
「ああ。しかし、よく今まで見つからずにいたな、その家族は」
「ああ。それでどこの森かはわからないらしい」
「まぁ、子どもではそうだろうな」
「以上がわかったことだ。そちらは?」
「芳しくない。特に妹の方がな。簡単な手仕事がないわけじゃないが……」
「決め手に欠ける、と」
「そうだ」
「文字が書けるとしたら?」
ギルマスが首を傾げる。
「ん? 書けるのか?」
「まだだ。でも、自分の名前は書けるようになった」
「名前がわかったのか?」
「ああ。ムーナと言うそうだ。連れが発音していって、それでな」
「また、時間の掛かることを」
「この町にいる限りは、ヒマなんでな」
「わかった。それで文字を教えていると」
「まだ、名前だけだ。だが、覚えるのは早そうだ。あとは、教材と教師次第だろう」
「そんなもん、どこにある?」
「冒険者ギルドでやれよ。冒険者研修会とかやってさ」
「誰が集まるんだよ」呆れてる。
「冒険者であれば、自分の名前くらいは、書けなきゃ、失格だってくらいは言わないと。それに商人との契約をするのに、契約書が読めなければ、いいようにされるだけだぞ? この町の冒険者がそうなってもいいのか?」
「んぐ」と何も言えなくなるギルマス。
「それに依頼書だって、きちんと読まなきゃ、冒険者の命にも関わるだろう?」
「そうは言うが、簡単なことじゃないぞ」
「なら、ムーナちゃんに絵を描いてもらえ。そこに文字を書くんだ。それを冒険者が見て、覚えていく。それなりにやってきた冒険者なら、その対応に気付く。彼女には、それで対価を支払えばいい。彼女も勉強になるだろうしな」
「そこまでの絵なのか?」
「まだまだだ。だが、書字板を渡したらよろこんでいた。好きこそもののなんとやら、だ。やらせてみよう」
「それでもダメなら?」
「練習させるさ。お金を稼げると知れば、頑張るだろう」
とりあえず、依頼書用の板を数枚もらい、広場に戻った。
小屋に戻り、全員にそのことを話して聞かせた。
テリーは苦々しい表情をしているが、妹の意思に任せるつもりのようだ。
ムーナちゃんもやる気だ。
「まずは、書字板に描いてみて。ものは……これだな」
オレは、常設依頼に多い薬草を彼女に渡す。
その薬草の特徴をわかるように教える。
薬草を見ながら、書字板に描いていくムーナちゃん。
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