616【この町の特色】
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今話は、少し短めです。
「獣人? なんの?」
「タヌキ獣人だ」
「タヌキ獣人か、珍しいな。アライグマ獣人ではないのだろう?」
「ああ。尻尾も短いし、縞模様もない。タヌキ獣人だ」
「なら、確かにそうだな。それで、どうする? つまり、今後は」
「オレたちも先を急いでいて、兄の回復を待つほどの余裕がない。連れて歩くわけにもいかないし。ともかく、兄の目覚めを待つしかない」
「それでギルドか」
「おそらく、そうなる」
ふむ、考え込むエッサ。
「最初は、君たちに話をするつもりだった」
そういうオレを見る面々。
「だが、信頼できるとはいえ、子どもふたりを預けられても、困るだろうと思ってな」
「ありがとう」とゲダル。「オレたちも子どもふたりを助けたい」
「だが」とエッサ。「現実は、難しいというのが、正直なところだ」
「わかっているさ。気にしないでくれ。それとも何かあるのか?」
「まぁ、秘密でもなんでもないが、そろそろ武器防具を誂え直したいと考えていてな」
全員の装備を鑑定さんで調べる。
「あぁ、確かにくたびれているな」
「わかるぅ?」と情けない声を出すレトル。腰に佩いているショートソードを優しく叩く。「安物を買ったつもりはないんだけどさ、もうボロボロで、いつ折れるか心配なんだよねぇ」
「私も」とビビアン。「こないだのゴブリン討伐で、革鎧を斬られて、応急処置はしたけど、ちょっと不安」
「そういうわけで」とエッサ。「まとまったお金もあるし、装備を整えようかと話し合っていたところだ」
「それでふたりの子どもを世話するのは難しいと」
「そういうことだ。装備を整えたら、ほぼ一文無しになる」
「装備は冒険者の命を守るものだからな。何よりも優先すべきだ。わかるよ」
「助かる。それにしても孤児か」
「何か?」
「いや、この町では、冒険者のこともあって、孤児になった子どもは必ず誰かが保護するようにしているんだ」
「孤児院がないのは、そのためか」
「あってもいいとは思うんだが、慣習でな」
「まぁ、仕方ないさ。話は変わるが、この町で装備を誂えられるのか?」
「正直な話、王都で購入しようかと思っている。高いがそれなりのものが手に入るはずだ」
「知り合いがいるのか? いないと数打ちものになるぞ」
「それなりの工房を探してみるさ」
こりゃ、本当に安物で我慢することになりそうだな。ここでは、何も言わないが。
広場に戻って、小屋に入る。
「お帰りなさい」
「ただいま。ようすは?」
「さきほど、目を覚ましましたけど、意識朦朧で、ムーナちゃんの顔を見たら、また眠ってしまいました」
「ムーナちゃん?」
「女の子です。呼び名をどうしようかと思って、それであいうえおを言って、名前の発音にうなずいてもらって、それでわかりました」
「そうか。名前がわかるだけでも助かるよな」
「はい。それでギルマスはどうでした?」
話して聞かせる。
「やはり、結論はまだですか」
「うん。それでも、風邪が良くなったら、ギルドで受け入れてもらえるそうだから」
「ですね。食事は?」
「腹ペコ」
そのひと言に、クスリと笑うマナミ。
「すぐに用意しますね。ムーナちゃん、手伝って」
マナミに呼ばれて、そばに行くムーナちゃん。書字板は兄のところに置いて。
その書字板を見る。彼女の名前が書かれていた。マナミが教えたのだろう。
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