615【状況説明】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し短めです。
目が覚めたのは、翌日だった。
マナミを見ると、ウトウトしている。オレは、その場に優しく横たえた。枕を添えて。
兄の容態は、鑑定さんによると、危険なレベルからは脱していた。ひとまず安心。
ドアが叩かれたのは、兄以外が起きて、朝食を食べているところだった。
出ると、小柄な猫獣人の冒険者。
「サブさん、ですか?」
「ああ」
「冒険者ギルドのギルマスからで、来てくれ、とのことです」
「わかった。ご苦労様」
彼はすぐに踵を返し、走り去った。
「行ってくる」
冒険者ギルドに到着すると、すぐに執務室へ。
「すまんな、来てもらって」
「いや。兄の方は、まだ目が覚めない」
「そうか。こちらでも調べた。おそらく兄の方だと思われる獣人の子どもがひと月前くらいから、街なかに出没していたらしい。みすぼらしい格好で残飯漁りや盗みを働いていたようだ」
「捕まえなかったのか?」
「意外とすばしっこくて、捕まえられなかったそうだ。店もあるから、追い掛けるわけにもいかなかった、と言っている」
「なるほど。どこから来たかは、今は置いておこう。問題は今後どうするかだ」
「そうだな。この町に孤児院はない。親が死んだ孤児はたいてい、親の知人が引き取る。親戚がいればそちらに。だが、今回の場合、おそらく、知り合いもいないだろう」
「そうだな」
「引き取り手がいないか、当たっているが、難しいだろう。どこもふたりの子どもを引き取れる余裕はないのが、現状だ」
「これだけの町なのに、か?」
「ああ。別に寂れているわけじゃないが、潤っているわけでもない」
「まぁ、そういう事情なら、文句を言う筋合いでもないから仕方ない。で?」
「引き取り手がいなかった場合は、ギルド預かりにする」
「預かれるのか?」
「寝泊まりくらいはさせてやれるし、働けばカネも得られる。そうすれば、衣食にも困るまい。カネが貯まれば、宿屋に泊まれるようになる」
「だが、病人だぞ? 働けるようになるまで、どうする?」
「看病はできん。だが、とりあえずのカネは貸せる。最初は手仕事をやらせて、徐々に身体を使った仕事に就かせる」
「妹の方は?」
「そちらも同様だ。あっ、口がきけないんだったな」と考えるギルマス。いい考えが出てこないようだ。
「まぁ、考えておいてくれ。そんなところか?」
「ああ。すまんな。たいしたこともわからず」
「わかったことだけでもありがたい」
それで執務室をあとにする。
一階に降りると、依頼達成報告なのか、かなりの数の冒険者たちがいた。
縫うようにして、その中を入り口に向かって歩く。
「あっ、サブ、見っけ!」と人混みの中から、大声が響いた。聞き覚えがある。
そちらを向くと、食事処のテーブルに知り合いたちがいた。大きく手を振るのは、犬獣人のレトルだ。そちらへと歩みを変える。
「サブ、まだいたの?」とレトル。
「失礼だぞ、レトル」と図太い声。リーダーの黒豹獣人、ゲダル。
「やぁ。ちょっとタイミングを逸して、出発を一日伸ばしたんだ。それで街なかを見てみようってなって、見てまわっていたんだが、浮浪児を拾ってな」
「浮浪児だと!」とゲダルが立ち上がる。デカくはないが、威圧感がある。
「ゲダル、声がデケえよ」と宥めるレトル。
「わ、悪かった。それで?」と座りながら聞いてくる。
「軽い風邪を引いていたんだが、栄養失調で倒れてた。妹に得られた食い物を与えていたそうだ」
「それで、どうなんだ?」
「容態?」うなずくゲダル。「一命は取り留めた。だが、まだ目を覚まさない。妹の方は、栄養失調もそれほどではないから、心配はない」
「良かった。ここに来たのは?」
「その件で、ギルマスに呼ばれた。調べたら、ひと月前くらいから出没していたそうだ。それで引き取り手を探してもらっているが、ふたりまとめては難しいとか。だから、冒険者ギルドに住まわせて、働かせるつもりだそうだ」
「ひと月前?」と人間族のビビアンが呟く。
「何か?」
「いや。ひと月前に、露店のオヤジさんから相談を受けたことがあって。捕まえて欲しいって。でも、冒険者仕事の合間にできることは少ないでしょ?」
「そうだな。それで断った」
「暇なときに、って言ってね」と苦笑い。
ほどよく断わる言い方だ。
そこへエルフのエッサが来た。依頼達成報告をしていたらしい。
「どうした? サブも?」
そこで、さきほどしていた説明をする。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




