614【疲れ】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し短めです。
身体が弛緩したのを見て、栄養ポーションを必要以上に飲ませるのをやめた。
女の子には、マナミが作り置きのスープを飲ませる。声を掛けながら、スプーンでひと口ずつ。
服はマナミの服を着せたようだ。すごいダブダブ。それでも裸のままよりはいい。
別のマットの上に彼女を座らせる。しばらくすると、コクコクと舟を漕ぎ出す。
マナミがそっと横たえると、眠ってしまった。
「さて、とりあえず助けたわけだが」
「連れていくわけには、いきませんよね」
「ああ。かといって、置いていくと、同じことの繰り返しで、今度こそ死ぬだろうな」
「ええ」
「誰かに相談するにしても、なぁ」
「《タイガーヘッド》には?」
「彼らか。少なくともギルマスに相談してみるか」
ふたりをマナミに任せて出掛ける。
お昼過ぎに出た冒険者ギルドに到着。もう陽が傾いて、色が変わってきている。
受付嬢がオレに気付き、にこやかになる。
「どうかされましたか?」
「ギルマスに会いたい。町に関することだ」
最後のひと言で、彼女の顔が引き締まった。
「確認してまいります」と二階へと上がっていく。
ギルド内は、少しずつ冒険者が集まってきている。掲示板の板は外されているので、依頼達成の報告に来ているのだろう。
「サブ様」と声が掛かり、振り返ると、さきほどの受付嬢。「どうぞ」
執務室に入る。
「もう出立したと思ったが」とギルマス。
「時間も時間だったから泊まることにしたんだ」
「なるほど。それで? 町のことと聞いたが」
「この町では、浮浪児の扱いは?」
「浮浪児?」と眉間にシワが寄る。「町にはいない。どこからだ?」
「その町の中だ。餓死しかかっていたのを保護した」
「なんだと!」とイスから立ち上がる。「いや、済まない。驚いたものでな。それで?」
「軽い風邪にかかっていた。ひもじくて抵抗力が下がっていて、やられたようだ」
「大丈夫なのか?」
「一応、一命は取り留めた」
「ありがとう」
「いや。だが、ひとりならともかく、兄と妹のふたりだ。誰も見ていないなんてあるか? 見ていて知らん振りしてるのか?」
「そんな……はずは」と声が小さくなっていく。
「ともかく、オレたちも旅の途中だ。連れ歩くわけにもいかない」
「そうだな。動かせるか?」
「まだ、意識が戻っていない。妹の方は大丈夫だが、声が出せないようだ」
「それは、生まれつきか?」
「おそらく。外傷はなかった」
「そうか。こちらで調べてみる。特徴は?」と机の上の板とペンを取り上げ、メモを取る体勢に。
「タヌキ獣人。兄は十歳より上。妹は下。服装はズタボロ。裸足だった」
板からペンを離し、こちらを見るギルマス。
「タヌキ獣人か。町では見ないな。余所から入ってきたのかな」
「わからん」
「だな。いつまで居られる?」
「とりあえず、兄の意識が戻るのを待つ。その上で、引き渡したい」
「わかった。宿屋は?」
「昨日泊まった宿屋に拒否された。仕方なく、広場だ。小屋が立っている。そこにいる」
「小屋? まぁいい。わかった。何かわかったら、頼む。オレはここに詰めているから」
「そうか。助かる。じゃ」
「ギルマスに調べてもらうことになった。この町では、彼らのようなタヌキ獣人はいなかったそうだ」
「じゃぁ、外から?」
「馬車に隠れて来たのかもしれない。ふたりは?」
「変わりなく」とそちらを見るマナミ。
オレも見る。とりあえず、ふたりとも眠っている。
鑑定さんで見ると、兄は小康状態。
妹は書字板を胸に抱えて離していない。気に入ったのかな。まぁ、予備はあるから、別に構わないが。
簡単な食事を摂り、お茶休憩したあと、交代で寝ることにして、先に寝てもらった。
別に意味はない。それでも彼女の方が疲れているように見えたのだ。
鑑定さん、よろしく。精神的な疲れか。ほかにこれといって支障はなさそうだ。
とはいえ、鑑定さんも万能ではない。そこは気を付けないとな。
深夜、交代前に、兄が熱を上げてうなされる。いい傾向だ。身体が病に抵抗しようとしている。
冷水に漬けて冷やしたタオルで、額を冷やす。
マナミを起こそうか迷ったが、結局起こして、診てもらった。
「よかった。抵抗力が良くなっています」
「それは朗報だな」
「休んでください。交代します」
お言葉に甘える。
あと二回、交代。
そのあいだ、妹はときたま、まぶたを開けたが、すぐ眠った。ようやく安心できるところで寝ているのだ、とわかったのだろう。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




