612【思わぬ引き止め】
昨日(2025/11/19)は、ログインしても更新できない状態が一日中続き、更新を諦めました。
続きを楽しみにしていらした読者の皆様、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
今話は、少し短めです。
ふとした瞬間に腕を引っ張られた。マナミでしかないが、それにしては……
「どうした?」
マナミを見ると、小さな女の子に腕を引っ張られている。それでオレを引っ張ったのだろう。
小さな女の子は、幼稚園児くらいに見える。服は粗末なもの。裸足だ。くすんだ茶色の髪はずっと洗っていないような感じ。丸い耳がある獣人だった。
マナミが腰を落として、目線を合わせる。
「どうしたの?」
その子は、ウーアーと唸り声で、指差す。指差す先は、薄暗い路地だ。
「声が出ないの?」と尋ねるマナミ。
うなずく女の子。
マナミは、路地を見て、困る。
「あっちに何があるの? それがわからないと行けないのよ」
意味はわかるみたいで、困っている。
オレも屈む。
「ねぇ、地面に絵は描ける?」
はっ、として大きくうなずく女の子。
オレは、粘土の書字板を出して、地面に置き、ペンを差し出す。
ペンを受け取り、絵を描きはじめる女の子。
棒人間をふたつ描く。ひとつは大きく、もうひとつは小さい。
描くのをやめて、小さい方を指差し、それから自分を指差す。
「これが君?」
うなずく。大きい方の横に横倒しの棒人間を描き足す女の子。
おもむろに立ち上がり、横に倒れるフリをする女の子。
「まさか、誰か倒れたの?」とマナミ。
大きく何度もうなずく女の子。
「行こう」
書字板をしまって、路地の方に。念のため、装備を身に付け、雷爆弾・静も手にする。
三人で路地に入った。
薄暗がりには、女の子の言うとおり、人が倒れていた。小学高学年くらいの男の子。服装は女の子と似たりよったり。裸足。丸い耳もある。女の子の兄か?
まわりには誰もいない。索敵さんにも反応なし。襲われたということではないようだ。
とりあえず、雷爆弾・静は、しまった。
マナミが男の子の首に手を当てて、魔力の流れを診る。
ケガはしていないが、痩せこけていて、栄養失調が疑われる。息はしているが、浅い。
マナミが男の子を抱き起こし、ポーションを少しずつ飲ませる。栄養ポーションだ。やはり、栄養失調か。
「栄養失調?」と問う。
「それもあると思いますけど、風邪を引いています。抵抗力が落ちているところに引いたのかと」
オレも鑑定さんで見る。確かに、風邪だ。ふつうの健康な人なら、症状も出ないレベルのもの。だが、それにしては酷い状態だ。
女の子に、書字板とペンを渡して、質問する。
「ちょっと聞くから答えて。はいかいいえなら、首を振って答えて。難しい答えなら、それに描いて。いい?」
うなずく女の子。
「彼は、君のお兄さん?」
うなずく。
「お兄さんは、食事してた?」
うなずいたあと、首を振った。
「わからない?」
うん、とうなずく。それから自分を指し、口にものを入れて食べる仕草。
「君は食べたんだね?」
うなずく。兄を指差し、食べる仕草のあと、首を振った。
「お兄さんは食べたとは言ったけど、君はそれを見ていない?」
うなずく。
なるほど。自分の分をこの子に食べさせて、自分は食べなかったのか。それで彼女がそれほど痩せこけていないんだな。
そんな空腹状態なら痩せこけて当然。そりゃ、風邪になっても抵抗できないな。
とはいえ、栄養ポーションで、病気は良くならない。マナミの治癒魔法も若干効果を示すだけだ。
マナミがオレを見る。“どうしますか?”という目だ。
「放っていくわけにも行くまい」
オレは彼を抱き上げた。
「マナミは先に宿屋に行って、部屋を取ってくれ。病人がいることも伝えるんだ。それで断られたら仕方ない。広場を使おう」
「はい」
彼女が走っていく。
女の子に向き直る。
「一緒に来て」
うなずくしかない女の子。胸には書字板とペンをしっかりと抱いている。
「オレの服を掴んで。離しちゃダメだよ」
うなずく。
宿屋にたどり着くと、マナミが待っていた。首を振る。交渉決裂か。
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