610【タイガーヘッド】
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今話は、ふつうの長さです。
結局、朝近くになって、眠れた。
額に冷たいものを感じて、目が覚めた。
「おはようございます。大丈夫ですか? 熱はないみたいですけど、酷い顔ですよ?」
「おはよう、マナミ。なに、考えがまとまらなくて、眠れなかっただけだよ」
「そうですか?」
いいニオイがしている。いや、彼女のではなくて、肉の焼けるニオイだ。
「肉?」と言いながら、起きる。
「はい。薄切り肉をベーコンの代わりにして、目玉焼きを載せました」
「いいねぇ」
身なりを整え、顔を洗う。
さっぱりして、朝食にする。
上空に出て、町を目指して飛ぶ。森の奥に入るので、高度を上げた。魔獣を刺激して、飛び掛かられても困るし。
そのため、森に入る前に、お互いに小便用の当て布をした。以前にセバスさんのために作ったヤツだ。これを使うのは、用足しには降りられないから。
上昇すると困るのは、もうひとつ。バイクの魔力消費が増えて、魔石の減りが多くなるのだ。まぁ、そこは魔石の交換を手元で行なえるようにしてあるから、問題にはならないし、魔石もきちんと用意してある。あとで充填が必要だけど。
森を抜け、高度を下げる。
索敵さんが人間の移動を見つけた。
「やはり、町に近いだけあって、ひと通りがあるな」
「どうします?」
「やり過ごして、町近くの馬車留めで、歩く準備をしよう。そこからは徒歩で町に入る」
馬車留めに降りて、バイクをしまい、荷物を出して背負ったところに、森からの反応。
「誰か来る」と森の方を見る。
「冒険者ですか?」
「おそらく。来た」
言うが早いか、ガサガサと草を分けて歩く音とともに、五人の人間が現れた。装備は冒険者だが、果たして……
「おっと、旅の人か。盗賊じゃない。安心してくれ」と先頭の犬獣人がショートソードを鞘にしまう。
うしろの四人も、得物をしまっている。
「森で何を?」と尋ねる。
「ゴブリン討伐だ」と犬獣人のうしろからエルフが答えた。「小さい集落だったので、討伐した」
「そうか。ご苦労様」
「冒険者か」
「ああ。これから町に入るところだ」
「そうか。ならば、一緒に行こう。いいか?」
「ああ」
「オレたちは、D級冒険者パーティー《黒と黄金のタイガーヘッド》。そちらは?」
「C級冒険者パーティー《竜の逆鱗》のサブとマナミだ。よろしく。仲間とは別行動でな」
「よろしく。なぜ、別行動を?」
「依頼だよ」
「わかった」
それで引き下がってくれるのは、冒険者としてのマナーをしっかりと知っている証拠だ。知っていても尋ねてくるヤツもいるが。
彼らは、軽装だった。町の近くのゴブリン討伐だから、何日も掛けない。だから、軽装なのだ。
道中、パーティー名の由来を聞いた。タイガーヘッドというのは、珍しい命名だと思って。人のことは言えないけど。
「私と」とエルフ。「黒豹獣人の毛色だ。別にタイガーとは関係ない」
「なるほど」
「そちらは?」
「あることがあって、オレが激怒してな。それを見た仲間が付けたんだ」
「そういうことか、なるほど」
ここでも必要以上には聞いてこない。誠実な冒険者たちだ。
彼らとともに、町門を潜る。それから冒険者ギルドへと。
ギルドに入ると、彼らとは別の受付嬢のところに。
ギルドカードを見せ、報告書を書き、王都冒険者ギルド宛てに転送を依頼する。
受付嬢は、内容を確認すると、すぐさま執務室へと向かい、少しして戻ってきた。
完了である。
《タイガーヘッド》に紹介された宿屋に行き、部屋に入る。ふたり部屋を取った。マナミと相談した結果だ。ひとり部屋は高いし、ひとりになるのは不安とのことで。
まぁ、宿屋とはいえ、冒険者が泊まるような宿屋だ。若い女性のひとり泊まりは、狙われないとも限らない。荷物ですら、盗まれることもあるのだから。
宿屋の人が気を利かせて、危なくダブルベッドの部屋になるところだったのは、焦ったが。
「まあまあだな」
部屋を見回して確かめる。比較的清潔だ。宿屋によっては、清掃が行き届いていなかったりもする。そういうのは、宿代が安いところが多い。
ベッドの具合を確かめてみる。シーツもまあまあだ。しかし、その下の厚みが足らない。これがふつうではある。だが、オレたちには、物足りない。
「マットを敷こう」
シーツの上にマットを敷き、その上に自分たちの毛布を掛ける。枕も自分たちのを置く。
これが雑魚寝部屋なら、掃除機を掛けて、床に直接、マットを敷き、毛布を掛け、枕を置く。
こうするようになったのは、最初期にダニやホコリに煩わされたためだ。ダルトンやランドルフは、平気な顔でいたが、身体をポリポリと掻いていた。こちらでは、それがふつうなのだ。
ちなみに、魔導掃除機は、屋敷にも置いてある。屋敷を購入したその日に渡してよろこばれた。使用人三人しかいなかったからね。
夕食は、手の込んだ料理こそできなかったが、作り置きのおかずとごはんで済ませた。温かいので、それだけでも充分に美味い。
お茶を啜りながら、明日の予定を話す。
「何か必要なものはある?」
「ありませんよ。次のポイントは?」
地図を指で差す。
「ここを目指す。天気にもよるけど、着けるはずだ」
「ギリギリ?」
「もちろん、余裕はあるよ。でも何かあるかもしれないからね」
「それ、フラグ立ててません?」とほくそ笑むマナミ。
「やめてよぉ」と肩を落とす。
クスクス笑う彼女。
しゃんと背筋を伸ばす。
「そんな感じで行こうか」
「はい」
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