601【春の訪れ】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し短めです。
ここから、春の出発編になります。
なお、ストックが切れました。
一話も残っていません(^_^;
ここから先は、毎日の更新が難しいかもしれません。
とりあえず、頑張ります。
今年の冬は、魔獣被害もなく、穏やかに終わった。そうして、春を迎えた。
今日、C級冒険者パーティー《竜の逆鱗》が、ダイナーク国へ向けて、出発する。
オレとマナミとランドルフを屋敷に置いて、だけど。
ランドルフは、ナターシャを置いての旅はさすがに出られない、と今回はお留守番だ。
マナミは、ナターシャの容態が気になるとかで、あとからの出発組になった。
彼らの馬車を見送る。
その馬車には、ウーちゃんも一緒だ。
最初、ウーちゃんは残ると駄々をこねた。
「マナミのメシが食えんではないか!」と。
オレと離れるのがとかは、言わないのが、ウーちゃんらしい。
「作り置きをキヨミに持たせますから」とマナミが宥めると、ウーちゃんは笑顔になって、先発隊に加わった。
馬車が見えなくなるまで見送り、屋敷に入る。
ナターシャもほぼ元気になり、最近は運動場での軽い運動をしている。
ナターシャが初めて、トリリーに紹介されたとき、顔が強張っていたのが印象的だった。それでもシャインにトリリーを触らせてもらうと、その毛並みにうっとりする彼女だった。
屋敷に入ると、玄関ホールに毛布を敷き、その上に帆布を広げた。
「何をするんだ?」とランドルフ。
「魔導バイクを二人乗りに改造しようと思って。ほら、オレとマナミで、あとを追うから」
そのマナミは、ナターシャと一緒に彼女の部屋へ。マナミによると、何かを作っているとか。何かは教えてくれなかったが。
「あぁ、そういうことか。なら、もう一台、作ればいいんじゃ?」
「それも考えた。だが、速度に性能差が出て、片方が遅れるとか、方向が微妙にズレるとかありそうでな。それにふたりのうちのどちらかに何かがあって、乗ることになったら、別々だと魔導バイク一台で支えるには、少し重いんだ。前にダルトンと一緒に乗ったことがあるんだけど、風当たりがヤバかった」
「それなら同じ結果になるんじゃないのか?」
「そこも改良する」
「そうか。なら、オレは稽古をしてくる」
「おう」
魔導バイクの改造、とは言ったが、実際には新たに作ることにした。なぜなら、構造を変える必要があるからだ。
自分ひとりで試行錯誤しながらの旅ならよかったのだが、今度は人を乗せるため、それなりの造りにする必要がある。
となると、きちんと設計し直し、作り上げねばならない。
設計図はすでに鑑定さんが用意してくれた。さすが鑑定さん。
鑑定さんは、知り得た情報から、最適解を出してくれるので、とても優秀だ。こんなのが、向こうの世界にあったら、技術革新し放題だろう。
そういえば、人工知能のチャットボットがあるって誰かが騒いでたな。よくよく聞いたら、メールの文章を書くくらいには使えるらしい。自分で書けよ、と笑ったもんだが。
なんだかんだやってると、いつのまにか観客がいた。それに気付いて、そっちを見る。
かなりのギャラリーだった。ランドルフ以外のこの屋敷にいる全員だ。
「うおっ、どうしたの、みんな?」
「何ができるのかなぁ、と」とマナミ。
「魔導バイクだよ、ふたり乗りの」
「ああ。それで追い掛けるんですね?」
「そ」と答えて、手を休める。「これなら上空でも寝れるし、食事も摂れる。煮炊きは無理だけどね」
「サブさま」とソニン。「上空って、空を飛ぶんですか?」
「うん。浮遊の魔導具を応用してね」
「どうやって、前に?」
「水蒸気爆発って知ってる?」
「いえ」
「なら、熱々のフライパンに水を掛けたところを想像して」
「すごい湯気、じゃなくて水が爆発しますよね」
「そう。あれは、水が一気に水蒸気になるために起こる現象でね。大きいものだと建物が吹っ飛ぶ」
「そんなものを?」
「心配ない。前に進むだけの力を生むだけだから。それでも吹き出し口には近付かない方がいいけどね」
オレは、その推進部を持ち上げる。
「“ロケット”みたいですね」
「そう。水蒸気爆発の力をここから吹き出す。それで進む。中では熱々に熱した金属があって、そこに水を掛ける。それで爆発」
「なるほど」
「オレには、さっぱりだ」とビガー。
その肩に手を置くセバスさん。にこやかだ。
「私にもわかりませんが、言葉遣いは」
「あっ、すみませんでした。以後、気を付けます」
「お願いします」
ビガーの教育は簡単ではないようだ。まぁ、まだ冬のあいだしか屋敷にいない人間としては、よくやってくれているから、心配はしていないが。
ソニンは、どうかといえば、お嬢様系の転生者らしく、所作はすぐに覚えた。読み書き計算は、ちょっと苦労はしたが、すでに習得していた。まぁ、そうそう使うことはないが。
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