006【冒険者ギルド】
これまでは、いかがでしたか?
ここからは、1話ずつの投稿になります。
数分後、エイジは決断した。
「奴隷にしましょう。借金奴隷の中に冒険者がいると思います。依頼失敗して借金を背負ったのかもしれません。そうした奴隷ならば、冒険者としての経験もあるでしょうし、オレたちの常識の欠如を埋めてくれるはずです」
「おぉ、さすが賢者。そこまでは考えてなかったよ。では、奴隷を購入する。その前に君たちの冒険者登録だな」
そこでオレは彼らに知恵を授けた。
冒険者ギルドも大きな建物だった。看板には、盾に剣と杖が交差している。こちらもドアは開け放たれている。これで、ドアを開けたときに冒険者たちの視線を受けなくて済む……はず。
四人が入っていくのを少し離れたところから見ているオレ。
彼らの格好は、革鎧を着けた冒険者スタイルだ。これで受付に舐められないだろう。格好で舐められるテンプレは回避だ。
オレはしばらくしてから、入っていく。
右側に窓口。
左側に食事処を兼ねる酒場。そちらには冒険者たちがテーブル席やカウンターにいる。多くはない。三組くらいかな。みんな、窓口の方を見て、ニヤニヤと笑っている。
視線を追うと、窓口近くで、四人がひとりの冒険者に絡まれていた。これもテンプレか。
オレは、我関せず、空いている窓口へと立った。
その窓口にいたのは、制服に身を包んだ二十歳くらいの女性。
「いらっしゃい」と営業用の笑み。
「護衛の依頼をしたいのですが、いくらかかるものなのでしょうか?」
彼女との相談がはじまる。
そう、護衛依頼の相談ということで、この場に来たのだ。まぁ、本当は、四人の対応をチェックするのが目的なんだけど。
四人に絡んでいるのは、二メートル近くある筋骨隆々の冒険者で、おっさんにも見えるが、いきがっていることを考えると、まだ若いのかも。
テンプレだと、ここで相手をボコボコにするが、四人にはテンプレ行動はさせるつもりはない。彼らも自分たちの能力や相手の能力が、どの程度なのかもわからないのに、絡んでもまずいというのは理解していた。
オレに対応してくれているスタッフの話が終わる。
「依頼されますか?」
「少し考えます」そこで四人の方を見て、尋ねる。「あれ、大丈夫なんですか?」
彼女はそっちを見て、大きなため息をついた。
「先日、ランクが上がった冒険者です。相手を下っ端だと思って、絡んでますね。お客様かもしれないのに」
「ふむ。ちなみに相手に手を出したら、どうなります?」
「冒険者同士のギルド内での騒動は、禁じられています。両者の冒険者資格の降格・剥奪ですね。相手が一般人であれば、冒険者がキツい罰を受けます」
「彼はそれを知らないのかな?」
「登録のときにきちんと説明しているはずです。わかってやっているか、ド忘れしているか、ですね」
冒険者に対して、蔑む表情を向ける彼女。
「止めないんですか?」
「どちらかが手を出したら、ですね」
待ちか。それまでは、話をしているだけ、という判断か。
「巻き込まれないように退散しますね」
「その方がいいと思います。ご依頼、お待ちしますね」
「では」
窓口を離れ、四人と冒険者を避けるようにして、その場を離れる。それでも食事処の方に行き、カウンターから様子を見ることに。
「いらっしゃい」とカウンターの向こうから女性の声がかかる。
見ると、太鼓腹の中年女性。まさか、またギルマスじゃないだろうな。
「ギルマスですか?」
それを聞いて、一瞬、固まる女性。次の瞬間には吹き出し、大笑いをはじめた。
「いいね、アタシがギルマスかい。違う違う。アイツなら上で仕事中。アタシはコイツらのお守りさね」とテーブル席を指す。
「サティは」と横から若い男性の声。「ここの裏ギルマスだよ」
見ると、子どもに見える男性が、いつのまにかカウンターにいた。
「ダルトン、依頼は終わったのかい?」
「終わった。エール」
彼はカウンターに銅貨一枚置く。
「あいよ」
サティと呼ばれた女性は、彼の前にドンッと木のジョッキを置く。
ダルトンはそれをゴクゴクとノドに流し込む。そして、ジョッキをカウンターにドンッと置く。
「プハーッ、うめぇ」
「お疲れさん」
オレは呆気にとられていた。そのくらい、彼の飲みっぷりは見事だった。
「で、アンタはどうするね?」
サティにそう言われて、ハッとした。
「オレもエールを」
オレも銅貨を置く。
「毎度あり」
初めて来たんだけど。
まぁ、それよりも四人はどうなった?
そちらを見ると、絡んだ冒険者が固まっていた。
どうやらアレを見せたようだな。
エイジが彼の右手を持ち上げ、握手する。
それから離れ、窓口へと向かった。
冒険者は、呆然とそれを見つめるばかり。
テンプレ回避、成功。
「ダガートの野郎、どうしたんだ?」とダルトン。また、エールを口にする。
ダガートと呼ばれた冒険者に別の冒険者が近付き、声をかけている。声に反応しないので、背中をバンッと叩く。
そこでようやくダガートが我に返り、それから右手を開いて、中を見た。
身震いしたかと思うと、踵を返し、飛び出していった。
今度は、それを見ていた一同が、ポカンッとする。
あれ、そこまでビビるか? あそこまでの反応があるとは思ってもいなかったな。まぁ、良しとしよう。
四人は無事に窓口に進み、登録手続きをはじめた。
オレは、エールをチビチビ飲む。うまくない。ちょっと水っぽい。冷えてないし。まぁ、これもテンプレか。
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