598【行き先の決定】
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今話は、少し短めです。
「ダンジョンは?」とダルトン。「サブが見てきたヤツ」
「行かないよ。たぶん、ほかの冒険者も到達してないだろうし」
「なんで?」
「ワイバーンでしか行けないところだからな」
「道は?」
「ない。だから、そうした道を作りながら、近付くことになるんだ」
「そっか」
「浮遊の魔導具でも、遠いからな」
『儂なら行けるじゃろ?』とウーちゃんの念話。
『もちろん。でも、ここでは内緒で』
『わかっておる』と笑いの念。
『ラキエルのことも、ふつうの馬ってことにしておいて』
『うむうむ』
「それじゃ、ダイナークの王都にでも行く?」
「王都に? 何かあるのか?」
「前にも言ったけどさ、あそこのなんでも市は、掘り出し物が出てくるのが有名でさ」
「珍品揃いだがな」とクククッと笑うランドルフ。ナターシャも同意して笑顔でうなずいている。
「でも」とマナミ。「サブさん、動けるんですか?」
マナミの目がチラッとナターシャを見る。
「オレは、ナターシャの容態次第だな。だが、そんなに遅れずに出発できるよ」
「例のバイクで?」とハルキ。
「ああ」
また、ナターシャが首を傾げてる。
「ナターシャは、心配いらないよ。春先までは見てる必要はあるけど、あとは安定するから、その後は薬を飲んでくれれば大丈夫だ」
「あ、はい。あの、そのバイク?というのは?」
「馬の代わりをする魔導具。馬の駆け足くらいの速さが出る。それに乗っていくんだ」
「馬の代わり」
「そ。まぁ、そのうちに見せるよ」
「はぁ」
「サブの魔導具って、説明されてもわかる人、いないよ」とダルトンが笑う。
「自覚してるよ。ともかく、オレは追い掛けるから、みんなには先に出発してもらうことになるな」
「了解。なら、春先に出発して、ダイナーク国の王都に向かうってことで、みんなはいい?」と見回す。
反対意見は出ない。
屋敷内をランドルフに案内されながら、ナターシャは歩いたり休んだりを繰り返す。体力不足から、ずっとは歩けないのだ。
ランドルフは、休ませる方向で介護しているのが、少し問題だが。
翌日、女子たちを執務室に集めた。
「集まってもらって申し訳ないな」
「いえ」とマナミ。「それで?」
「ランドルフのことだ」
「ナターシャさんに付きっきりなことですか?」
みんなも気付いていたか。
「うん。体力を付けないとイケないのに、ランドルフがあれでは、ちょっとな」
「羨ましいですけどね」と微笑むミリンダ。
「しかし」とケイナが反論する。「あれでは、煩わしいだけだろう」
「それもあるんだよな。ナターシャが憂鬱になって、治癒の効果が落ちるのは、困るんだよ」と困った顔のオレ。実際、困った状況なのだ。
「私たちを」とマナミ。「呼んだのは?」
「いい案がないかな、と。ランドルフに言っても、あの感じだと聞かないだろうし、それに男どもに聞いても、なんか変なことを言いそうだしさ」と苦笑い。
みんなも、ああ、と同意してくれる。
「あの」とラーナ。「私たちが交代で付き添う、というのはどうですか?」
「付き添う?」
「はい。私は結界があったので、誰も近付けず、食事や着替えなんかは、付き人が用意してくれていたんです」
「そんな話をしてたっけ」
「はい。でも、同じ人ではなくて、交代でやってくれていたんです。いろんな人がいて、いろんな話を聞けて、孤独感はそれほどなかったんです」
「あぁ、なるほど」
「それに女性同士でしか話せないこともありますから」
みんながうなずいている。
「だよな。なら、みんなに任せてもいいかな?」
同意してくれた。
そして、さっそくナターシャからランドルフを引き剥がす女子たち。さすがのランドルフも女子たちに追い出されてはどうにもできない。
肩を落として、リビングにやってきた。
「どうした?」と声を掛ける。
「追い出された」
「女子には女子の話があるからな。たまにはいいだろう」
肩を落としたまま、ソファーに座るランドルフ。ため息ひとつ。
すぐにお茶を出すソニン。
「訓練したらどうだ?」
「その気にならん」
「だが、そんなじゃ、イザというときに、闘えないだろう。それに身体がなまっているだろうし。ちょっとくらいの運動は、するべきだぞ」
「はぁ、わかった」
渋々といった感じの返事。お茶をひと口飲むと、立ち上がって、出ていく。
運動場には、エイジとハルキが訓練している。一緒にやれば、自分の体力が落ちているのを自覚するだろう。
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