596【手術本番】
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今話は、少し短めです。
翌日。
ナターシャには、朝食を抜いてもらった。
手術中の麻酔で、食物が胃から戻り、喉から気管へと入り、あとで肺炎を起こす可能性がある。
それは避けなければならない。
お昼手前に、彼女に術着に着替えてもらい、その場で麻酔ポーションを飲んでもらう。
このポーションはすぐに吸収され、彼女を眠らせることができる。すぐに身体に吸収されるので、術中の誤嚥の心配はない。
飲んだら、すぐにベッド上の担架に横たわってもらう。
すると、すぐに寝息を立てて眠るナターシャ。
オレたちで担架を持ち上げる。
「サブ、頼んだぞ」とランドルフの懇願。
オレはうなずいて応えた。
手術台の横に担架を置くと、彼女を手術台に移す。
そこから彼女を術前の状態に持っていく。裸にして、全身を洗浄液で拭い、患部の体毛を剃る。
これは、キヨミとケイナのふたりに任せて、オレたちは手術の準備を整える。さすがに女性の裸をエイジに見せるわけにいかない。だって、そういう年齢の男の子だもんね。
とにかく、手術の準備を整えているあいだに、ナターシャの用意が整った。
手術台を見ると、きちんと患部を見せた状態でほかは布がかぶせられていた。
彼女たちにうなずくと、彼女たちの準備を手伝う。
「では、よろしくお願いします」
お願いします、と返された。
手術開始だ。
最初のメス入れに、緊張する。鑑定さんがどこをどのくらい切ればいいのか示してくれている。みんなもいる。なのに、メスを持つ手が震えた。
「サブさん」と声が掛けられ、そちらを見る。マナミだ。「大丈夫です。みんながいます」
その言葉と表情で、オレは深呼吸した。
「すまん。お願いします」
はい!と全員に返された。
それぞれに緊張しているのが、声からもわかった。
オレだけじゃない。そう思えた。メスを持つ手の震えが止まった。
ナターシャの肌に、メスを入れた。
縫合を終え、そこに彼女専用ポーションを垂らす。すぐに手術痕が癒えていく。縫合糸を残して。
ポーション容器をマナミに渡した。
「みんな、お疲れ様でした」
お疲れ様でした、と少しの疲れと無事に終わった安心が混ざった声が、みんなから漏れる。
「あとは術後の経過を観察することだな。鑑定さんによると、彼女が目覚めるのは、一時間ほどあとになる。ひとまず片付けをしよう。エイジ、ランドルフたちに知らせに行ってくれ。無事に手術が終わったこと、彼女が起きるまでは待っているように、と」
「わかりました」
「そのあとは、身ぎれいして、休んでくれ」
「サブさんたちは?」
「オレ以外は、休ませる」
「わかりました。用ができたら、ウーちゃんに」
「そうする」
彼が出ていったあと、手分けして、片付ける。まとめてもらって、オレのアイテムボックスへ収納するだけ。あとで適切に処分するつもりだ。
オレとマナミで道具を片す。
キヨミとケイナが、ナターシャに術着を着せる。
終わったところで、声を掛けた。
「よし。三人も身ぎれいにして、待機してくれ」
キヨミとケイナが、出ていこうとする。
「私は、残るね」とマナミがキヨミに言う。
「オレひとりで大丈夫だぞ?」
「サブさんが一番疲れているんですよ? ひとりで居眠りしていて、そのあいだに何かあっては大変じゃないですか」
「サブさん」とキヨミ。「マナミの言うとおりですよ。一時間くらいと思うかもですけど、油断大敵ですよ」
そう言われては、返す言葉がない。
「わかりました」
ふたりが笑いながら出ていく。
「ありがとう、マナミ」
「いえ。でも手術がうまくいって、よかったですね」
「ああ。あとは、合併症が出ないことを祈るよ」
「気になることが?」
「いや。それでも数週間は、そうした合併症の危険があるらしい。あれだけやって、ダメでしたは、嫌だからさ」
「そうですね」
ふたりして、ドア前のイスに座る。それから保温ポットから、カップに白湯を注ぐ。それを飲む。ふたりして、ホッと息をつく。
「ひと山越えましたね」
「うん。マナミも疲れただろう?」
「はい。でもサブさんほどじゃありませんよ」
それに答える代わりに、労う。
「助かったよ、君に手伝ってもらえて」
「こんなときくらいは、頼ってください」
「そうする」と素直に答えた。「というか、いつも頼ってるよ。ありがたくね」
クスリと笑うマナミ。
「それは、食事でしょう?」
「それ以外にもさ」
こうしたふたりきりというのは、初めてだろうか。無理に話すでもなく、居心地がいい。
「なんか、久しぶりだ」
「何がです?」
「誰かといて、ゆったりできるなんて」
「なかったんです?」
「男同士でそれなりにっていうのは、あったよ。でも女性とは初めてかも」
「彼女さんは?」
「こうはならなかったなぁ。デートは楽しかったけど、無理してた気がする」
「無理?」
「お互いにね。こっちは彼女を楽しませようとして。向こうはこちらに近寄ろうとして。挙げ句、すれ違い。お互いに疲れてしまって。それで別れた。そういうのが何度もあったよ」
「それでひとりに?」
「結果的にね」と苦笑い。
「いろいろとあるんですね」
「うん」
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