594【手術の練習】
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今話は、短めです。
手術開始。
手術台には、すでにウルフが仰向けになるようにロープで固定してある。
ウルフの口には、植物プラスチック製のマスクが着けられている。現代日本の手術では、麻酔ガスを嗅がせるのだが、今回は彼女用に調合した麻酔ポーションを使うため、飾りっぽい。それでも呼気の確認ができるようにしてある。
ここには、医療機械はないから、目視や触診で確認するしかない。鑑定さんもあるが、念のためだ。
手術台のウルフの腹部は、すでに魔導バリカンで毛を刈ってある。
体毛を剃ることからはじめるためだ。もちろん、ナターシャの体毛がこんなに濃いわけではないが、それでも縫合の際に巻き込むこともある。
キヨミが手を上げた。やってくれると言う。
「たぶん、手術には直接手を出せないと思うので」と。
体毛が剃られ、洗浄液で洗われ、表面がきれいに拭われた。
「では、よろしくお願いします」
お願いします、と返された。
マナミが、メスなどを渡してくれる器械出しを担当してくれる。
オレの指示で、道具を渡してくれるので、執刀するオレは術部に集中できる。
キヨミがオレの汗を拭き取り、患者の状態を確認する。力仕事やほかの仕事をエイジとケイナがやってくれる。
縫合が終わったのは、開始から三時間を越えたころだった。
「みんな、お疲れ様」と労う。
「まさか、こんなに疲れるとは思いませんでした」とエイジ。
ほかのみんなも同じように、ぐったりしている。
かく言うオレもだ。
「しかし」とオレが続ける。「鑑定さんが、想定した患部を示して、その上、血管の位置も示してくれた。かなり助かるよ」
「あっ」とマナミ。「的確だったのは、鑑定さんのおかげだったんですね」
「うん。これで手術の不安がだいぶ減った。あとは、回数を熟すだけだ」
風呂でさっぱりして、食堂に行くと、オレたちの分しかなかった。みんなはすでに済んでいたのだ。時間も時間だし。
食べ終わり、リビングに行くと、みんなが揃ってた。ランドルフはナターシャの部屋だろう。
「先にいただいたよ」とダルトン。夕食のことだな。
「だと思った」
「んで、どうなの?」
「鑑定さんのおかげで、不安が減ったよ」
「どゆこと?」
話して聞かせた。
「チートだねぇ、サブの鑑定さんは」
「ホントだよ」
シャインとソニンが、お茶を配ってくれる。
お礼を言って、啜った。ホッと息が出る。
「しかし」とダルトン。「ずいぶん、掛かったね」
「慣れてないからな。それに向こうの世界でも似たようなもんだよ」
「そうなの?」
「肝臓ってのは、血管が張り巡らされててさ、大変なんだよ。血管をキズつければ、出血する。それもかなりな。それだけ慎重にならざるをえないんだ」
「大変だな」
「それでも長時間は掛けられない。できるだけ早く終わらせないと、患者の体力が奪われてしまう。そのせめぎ合いだよ」
「へぇ」と興味のない返事を返された。
「なんだよ、その反応」とオレは意気消沈。
「いや、説明されてもわかるとこが少ないからさぁ」
「わかるように言ったつもりだったんだけどぉ」
「ごめんごめん。ともかく、見通しが立ったってことでしょ」
「ああ」
「それだけわかれば、いいよ」
「はいはい」
その日は、疲れたので、先に寝ることにした。ほかの四人もだ。
それから一日おきにウルフの手術をして、改善点を直していく。
さすがに、連日の手術は、疲れが蓄積しやすい。だが、二日おきだと、今度は手順を思い出しながらになってしまう。
それで、一日おきになったのだ。
そのあいだの訓練は、必要以上にやらないようにした。手術のときにスタミナ切れになるのは避けたいから。
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