592【ナターシャが来た理由】
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今話は、ふつう。
ドネリーが、冒険者からスタッフが聞いたことをまとめて、教えてくれた。
「理由を知らないそうだ。ただ、彼女に護衛依頼を高額で受けたんだと」
「なんで?」
「聞いたそうだが、話さなかったそうだ」
「目的地は?」
「ここだ」
「ここ? ランドルフに会いに、ということか?」
「そう考えるよな。それでもランドルフを訪ねる理由は、彼女から聞くしかない」
「ランドルフ?」
「ん?」
「理由はわかるか?」
首を振るランドルフ。それでも彼は彼女を見たままだ。
ドネリーやみんなが部屋から出ていったところで、ランドルフに問う。
「どういう関係だ? 一緒に闘った以上の何かがあるよな?」
「鑑定さんか」
「人生経験」
「そうか」彼がため息を吐く。「彼女は、オレが一緒にいたい女性だ。それでわかるか?」
「彼女もその気持ちを?」
「知っている。だが、一緒にはいられない、と断られた」
「理由は?」
「教えてくれなかった」
「そうか」
何も言えないオレは、彼の肩を叩いて、部屋を出た。
ナターシャの容態は落ち着き、ランドルフがオレたちを説き伏せ、屋敷へと連れ帰った。
ドネリーの話では、彼女の護衛依頼を受けた冒険者たちは、空いている宿屋へと入ったそうだ。動きようもないしな。
連れ帰ると、ランドルフはナターシャのそばから離れず、看病をはじめた。
そのようすから、ランドルフにとって、ナターシャがどういう存在なのかは、みんなには何も言わずともわかっていた。赤ん坊のベルは別として。
後日、雪掻き作業の際に、冒険者ギルドのドネリーから、オレだけが呼ばれた。
ナターシャの護衛依頼を受けた冒険者からの話をまとめた、その報告だった。
彼らは、ナターシャからの依頼を通常の倍で受けた。
「護衛任務とはいえ、彼女も力量のある冒険者だから、護衛対象を守る必要がないため、悪くない条件だと受けたらしい」
「まぁ、わからなくもないが」
「大半の荷物をマジックバッグに入れての雪中行軍だったらしい」
「それなら行動が楽になるか」
「大型魔獣の多くは冬眠するし、ウルフなんかも街道に人間がいるとも思っていないから、襲われにくいしな」
「なるほど。で?」
「それでも魔獣に襲われた。ウルフの群れだそうだ。それで闘った。彼女も一緒にな」
「無事に着いたってことは、討伐できたんだな」
「ああ。だが、そのあとから彼女のようすがおかしくなり、彼女自身が行動できなくなったそうだ」
「魔力の枯渇と内臓の痛みか」
「心当たりが?」
「鑑定でな。それで?」
「とにかく、彼らは護衛対象である彼女を簡易的なソリに載せて、ここまで来たんだそうだ」
「それが到着時の状態か」
「ああ。彼女の状態を考えて、急ぎ足で来たらしい」
「状況はわかったな」
「それで彼女、今は?」
「安定しているが、まだ目を覚まさない」
「そうか。目が覚めたら?」
「内臓の腫れを取らないと、死ぬ」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「わからん。ここの医者では、扱えない病だからな」
「それで? それがわかるってことは、治療の目処があるんだろう?」
「なんとも。なんせ、やるのがオレだからな」
「サブが? いや、そこまで言えるってことは、やれるんだな」
「わからん。道具を少しずつ作っているところだ。薬も」
「手伝えることは?」
「祈っていてくれ。本当は、シファー様あたりがそばにいてくれたらうれしいんだが、無理だしな」
「メカタ村の薬師か。来てくれたら、こっちも助かるんだが、そうもいかんだろうな」
「ともかく、話が聞けてよかったよ」
それで、執務室をあとにして、みんなの担当地区へと向かう。
屋敷へと戻ると、セバスさんから、ナターシャが目が覚めた、と報告があった。
部屋には、オレだけが向かうことに。
部屋の扉は開いていた。それでも軽くノックして、顔を覗かせる。
こちらを向いたふたり。
「お帰り、サブ」
「目が覚めたと聞いてね」
「ナターシャだ。彼はサブと言って、冒険者パーティー《竜の逆鱗》のリーダーだ」
「初めまして」と会釈。
「このたびは、ありがとうございます」
「目覚めて、よかったです」
「経緯は話してある」とランドルフ。
「こちらもドネリーから聞いてきた。魔獣に襲われ撃退したが、そこで倒れてしまったとか」
「はい。酷い腹痛で気を失ってしまいました」
「そのようですね」
ランドルフに目線を移す。彼と目が合う。うなずいた。話はとおっているようだな。
「その腹痛に関する話はランドルフから聞きましたか?」
「はい。治癒できるかはわからないと」
「ええ。それとオレがやる、ということも?」
「はい。腹を裂いて、内臓の一部を切り取るとか」
「簡単に言うとそうなります。しかし、そうする前に、内臓の腫れを小さくする必要があります。そのための薬を飲んでもらいます。小さくなれば、腹を切る大きさを小さくできて、回復が早まります。その後も治癒の効果を高めるための薬を飲まねばなりません。それなりの期間か掛かります」
「わかります」
「それから」と一拍置いてから言う。「冒険者には戻れません」
間髪入れずにうなずく。
「彼から話は聞きました。少しでも生きられるなら、冒険者に執着はありません」
「わかりました。それで、野暮な話ですが、ご家族は?」
首を振る。
「彼女は」とランドルフ。「幼いころに両親を亡くした。その後は、冒険者のひとりに養われた。その関係もあって、冒険者になったんだ」
「なるほど。ここで問題にしたいのは、彼女のその後だ。ある程度、元気になれば、ここを出ることになる」
「ここに置いてもらえないか?」
「理由は?」
ふたりが顔を見合わせ、うなずく。
「オレと彼女は、結婚する」
「断られたんじゃなかったか?」
「彼女が受け入れてくれた」と彼女の手を取る。
「ふふ、おめでとう、ふたりとも。みんなにはどうする?」
「関係を言ったのか?」
「言わなくてもわかるよ」
「そ、そうか。任せていいか?」
「こういうのは、自分で言いな」
恥ずかしそうに、頬をポリポリ掻くランドルフ。
「わかった」と苦笑い。
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