588【ふたりの歓迎会】
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今話は、少し短めです。
「ビガーとソニン、ようこそ、《竜の逆鱗》の屋敷へ」オレが食事前の挨拶をする。すでに全員がテーブルに着いている。「君たちを歓迎する。乾杯!」
乾杯!の声が帰ってくる。飲むのは、水だ。
「さぁ、遠慮せず食べてくれ。食べないともったいないぞ」
ふたりは、ここでも対照的だ。ビガーは料理の量と種類に戸惑い、ソニンはどれから食べようかと迷っている。
「いただきまぁす」と元気よくパクついたのは、やはりソニンだ。
「い、いただきます」とソニンを追うビガー。
まず、ソニンが手を伸ばしたのは、スープ。味噌は使っていない。ソニンは、カトラリーからスプーンを取り、手前から奥へとすくい取る。
それを見ていたビガーが同じことをする。
ふたりが口にする。
「美味しい」とうっとりするのは、ソニン。
「うめえ!」とがっつくビガー。それでもスープ以外には行かない。やはり、ソニンのやることを見ている。そのくらいの自制心はあるようだ。
ゆっくりとスープを飲むソニン。まるで、それだけで充分だというように見える。
それでもスープを飲み干すと、フォークとナイフを取り、ハンバーグを落とさぬようにビガーの皿に乗せた。
「はい、お兄ちゃん。お肉だよ。味わってみて」と笑む。
「お、おう」
彼はカトラリーの使い方がわからず、ソニンを見る。
「自分の好きに食べなよ。ここのみなさん、食べ方で変なこと、言わないよ」
「そ、そうかな」とオレを見る。
「食べ方は、おいおいな。今は味わって食べてくれれば、それでいい」
「は、はい」
彼は、フォークをクシを上にして持ち、それでハンバーグに差し入れた。
「や、柔らけえ」
「お肉を細かくして、焼いてるから、柔らかいの。小さく切って食べてみて」
ソニンの言うとおりに、ビガーがひと口食べた。
ビガーがびっくりする。
「なんだこれ! 口ん中で、崩れてく! 肉汁が、肉汁がうめえ!」
「美味しいでしょ。たぶん、ここでしか食べられないわよ」
「そ、そうなのか? じゃ、お高いんじゃ?」
「大丈夫。さっき聞いたら、討伐した魔獣の肉だって。ふたつの肉を混ぜ合わせて作るのよ。手間は掛かるけれど、その分、美味しくなるわ」
「そうか。安心、ってことで、いいか?」
クスリと笑って、ソニンはうなずいた。
「ここにあるもので、一番高そうなのは、あの木の入れ物の中身」と調味料のひとつを見る。
ビガーも見る。首を傾げている。
「岩塩よりもか?」
岩塩は、誰もが使う必需品。そのため、商う者はびた一文負けたりしない。代わりに高くも売らない。そのため、岩塩は、貨幣の代わりにもなる。まぁ、そんなことは、なかなかないが。
「私が知ってるものならば、あれだけで金貨一枚は、いくんじゃないかしら」
「まさかぁ」と本気にしてないビガー。
ソニンが腕を伸ばして、その入れ物を手にする。
「おい、ソニン」
「大丈夫よ。ちょっと味見するだけだから」と自分の皿に、初めて見るはずなのに入れ物を捻って、ガリガリと音をさせるソニン。
入れ物をそばに置いて、皿に落ちたものを指ですくい、舐めた。
「やっぱりね」
今度は、サラダを取って、ひと口食べると、入れ物をガリガリ言わせて、サラダにかけるソニン。
「おい、ソニン、高いもんなんじゃねぇのかよ」
「こんな少量で、金貨なんて取られないわよ。それに食べていいって言われたのよ。食べない方が失礼でしょ」
パリパリとサラダを食べるソニン。
「サブさん、いいんですか?」
「ソニンの言うとおりだ。それは胡椒という調味料でな。金貨とは言わないが、お貴族様でも上の方の人しか食べれないものだ」
「えっ」
「大丈夫。結構な量を仕入れてあるから、多少使っても減らないよ」
「そうなんですか」
「食べないと失礼に当たるってソニンが言ったが、気にするな。食べたいものを食べて、明日からの仕事を頑張ってくれ」
「は、はい」
とはいえ、どれをどう食べていいやらわからないビガーは、やはりソニンの食べ方を見ている。
そんなビガーに、ソニンは次の料理をビガーの皿に盛り付けてやっている。
そんな光景を微笑ましく見ながら、オレたちも食事を進める。
お茶休憩。
談笑していると、ビガーが船を漕ぎ出しはじめた。
「ビガー、ソニン、もういいから、お休み。明日から頑張ってくれ」
「はい」「はい」
「ヤルダさん、一緒に行ってあげて」手招きする。「ビガーを寝かし付けたら、ソニンをこちらに」
「畏まりました」
三人がリビングを出ていった。
「私も寝ますね」とシャインもベルを抱いて、三人のあとを追った。
少しして、ダルトンが口を開く。
「あのソニンって子、異常だね」
みんながうなずく。
「カトラリーの扱い方も知っていたな」とランドルフも。
「やっぱり“日本人”ですかね?」とキヨミがオレに問う。
そのキヨミの言葉で、みんなが“それかぁ”という反応。納得されてもなぁ。
「少なくとも、オレたちの世界の人間だろうな。胡椒の知識もあったし」
「見慣れない食べ物のはずなのに」とマナミ。「堂々と、味わっていましたしね」
「情操教育」とエイジ。「えっと、こっちで貴族教育?を受けてたみたいな感じですよね」
「貴族か」とランドルフ。少し考えて「確かにそんな感じを受けたな」
「一般人の」とケイナ。「それとは違ったな。金持ちの娘というよりも、皇族に近しい者のようだ。私は会ったことがある程度だがな」
「ともかく、ここで話を聞くことにした」
了解するみんな。
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