586【ふたりの紹介とヤルダさんの笑み】
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今話は、少し短めです。
屋敷の前に到着すると、ソリからふたりを下ろす。ソリをしまう。
「ここが君たちが働く屋敷だ」
ふたりが見上げる。ふつうに大きいからな。
「あちらの建物は、運動場だ。冒険者たちが訓練に使っている。馬や従魔もいる」
玄関ドアが開く。セバスさんだ。外の声を聞き付けたのだろう。
「セバスさん、この子たちを預かることにした。ウチの手伝いをしてもらう」
「もしかして、例の?」
「そう。さぁ、まずは入ろう」
ふたりの背中を押して、促す。
戸惑いながらも、そちらへと歩き出すふたり。
セバスさんがドアを押さえて、入れるようにしてくれる。
玄関ドア前で、ソニンが靴を脱ぎ出した。それから中へと足を踏み入れる。それから振り返り、自分の靴のドロをある程度落とす。
「お兄ちゃん、よごしちゃダメだよ」
「お、おう」とビガーも同じようにする。
ふたりとも靴を持って、そこに立つ。
「別に脱がなくても――」とオレ。
「きれいなおやしき、よごすの、イヤ」
「なら」とシートを出して、そこに広げる。「ここに置けばいい」
「ありがとうございます」とソニン。ビガーも置く。
新しいふたりの靴を出して履かせる。
そうすると、ふたりは改めて、ホールを見る。うわぁという感じで。
装飾品は、ほぼないから、階段の装飾とかがきれいに見えるのかな?
「さぁ、こちらへ」とふたりをリビングへと促す。
そこには、ほぼ全員が揃っていた。ほぼというのは、シャインとベルとネイリンさん、それにウーちゃんがいない。
ウーちゃんはお風呂だろうし、三人はベルの寝かし付けだろう。
「ようこそ、《竜の逆鱗》の屋敷へ」とオレ。
ふたりが、みんなを見て、あっと声を上げる。顔見知りだ。護衛していたんだから当然だが。
「見覚えあるねぇ」とダルトン。
「護衛してた村の子どもたちよね」とキヨミ。
そのキヨミの言葉に、みんながうなずく。
「本採用ではないが、ここで働いてもらうことになった。ビガーとソニンだ」
ここで先に挨拶したのは、驚いたことにソニンだった。
「ソニンです。よろしくおねがいします」そう言って、一礼する。
それに遅れて、慌ててビガーも。
「オレ、ビガーです。お願いします」
「ふたりは孤児だ。村の人とは良好な関係だったが、町で生活した方がいいだろうということで、預かってきた。ちなみに血の繋がりはないが、兄と妹だ」
ここで戸惑っているのは、ビガーだ。オレに向く。
「隊長さん、じゃなくて、サブさん」
「ん?」
「ということは、サブさんがリーダーで、ここはサブさんを含めた冒険者パーティーの拠点?」
「そうだよ。言ったよね、クランみたいなものだって」
「はい。でもサブさんは、仲介者じゃないんですか? てっきりそう思っていたんですが」
「いや。オレが雇い主になるな」
「あ……よ、よろしくお願いします!」
「おねがいします」
ふたりに頭を下げられた。
「よろしく。さて、まずは、お風呂に入ってもらおうか」
えっ、と尻込みするビガー。
えっ、と前に出てくるソニン。
「お風呂があるんですか!」
「あるよ。頭と身体を洗っておいで。そしたら、新しい服に着替えるといい」
「はい!」と満面の笑顔。
「おい、ソニン」とビガー。「なんだよ、どうしたっていうんだ」
「お兄ちゃん、きれいにしないと、おいてもらえないよ」
「お、おう」
「今は、ウーちゃんが入ってるよ」とダルトン。
「だよね」『ウーちゃん?』
『サブか。どうした?』
『子どもふたりを任せても大丈夫?』
『ほお。泊まるのか?』
『ここに住む。護衛してきた村からの子たち。お風呂に入ったことがないみたいなんだけど』
『洗えば良いのか?』
『それでいいよ』
『赤子ではないよな?』
『成人前の男の子と六歳の女の子。女の子の方が風呂に興味があるみたいだから、それほどの手間は掛からないと思うよ』
『よしよし。待っとるぞ』
ふたりを連れていく。
「先に女性が入っているから、指示に従うように」
「は、はい」「わかりました」
更衣室で服を脱がせる。購入した着替えを出して置いておく。
「しっかり洗うんだぞ」
扉を開けて、ふたりを押し込む。
「ウーちゃん、よろしく」
「おねがいします」と笑顔のソニン。
「頼まれたのじゃ」
扉を閉めると、リビングに戻る。
「男の子、大丈夫?」とダルトン。「ビガーだっけ?」
「ビガーとソニン。大丈夫だろう。お風呂が苦手なだけだよ」
「言ってなかったんですか? サブさんがここの主人って」とエイジ。
「意図したわけじゃないけどね」
「妹の方がしっかりしてるもんな」とハルキがエイジに話を振る。
「だな」
「聞いた話だと」とオレ。「甘えん坊だったらしい。でも、そんな感じに見えなかったよな」
全員がうなずく。
「ビガーも変わったみたいな話をしてたから、そのせいかも? あっ、そうだ。マナミ、子どもがよろこびそうな料理をお願いできる?」
「あの子たちの? わかりました」と立ち上がる。
キヨミも一緒だ。
「サブ様」とセバスさん。「部屋はどういたしましょうか?」
「そうだなぁ。ふつうの部屋だと恐縮して眠れなさそうだな。かといって、屋根裏部屋というのもなぁ」
「しかし、仕事を教えるならば、ヤルダのそばがよろしいかと」
「それもそうか。ヤルダさん、それでいい?」
「もちろんです」と微笑む。
「なんか、うれしそうだね」
「はい」
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