584【ビガーとソニン】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し長めです。
ここから“ビガーとソニン”編になります。
ミゼス町への強行軍は、正解だった。
その日の夕方には、一メートル弱の積雪になり、ちんたらしてたら雪に閉じ込められるところだった。
翌日も降ったが、昼前には晴れて暖かくなり、積雪もだいぶ減った。これなら雪掻き作業もないだろう。
午後のオヤツの時間に、玄関ドアが叩かれた。セバスさんが出る。
雪掻きかと思い、リビングから顔を出すと、クンタだった。
「雪掻き依頼か?」
「あっ、サブさん、こんにちは。今日は商業ギルドからの手紙を届けに来ました」
差し出したのは、手紙というか、書簡だな。
受け取って読む。ギルマスのラーニャさんからだ。
「わかった、と伝えてくれ」
「わかりました」
踵を返すクンタ。浮遊の魔導具で飛んでいく。
「お出掛けでございますか?」とセバスさん。
「うん、行ってくる」
オレは防寒着を着て、外出。雪歩きでスタスタと雪の上を歩いて、商業ギルドへと向かう。
商業ギルドの執務室にとおされ、ラーニャさんと挨拶。
「書簡でお伝えしましたとおり、ふたりなのですが」
「どういう経緯で? この雪の中で見つかるとも思えないのですが」
「皆様方の護衛任務で、冬籠りのために来た村人の中のふたりです」
「あぁ、なるほど」
「とりあえず、村人総出で世話していたそうです。しかし、雪に閉ざされると、世話をする余裕もなくなりそうで、困っていたとか。それでミゼス町で仕事を探せないかと」
「それならば、ひとりひとり別々でも――」
「それが、下の子どもが兄から離れないのです。母親が持病で亡くなり、ふたりきりになり、甘えん坊だったのにさらに拍車が掛かったとか」
「いくつなんです、ふたりは?」
「兄は成人手前、妹は六歳」
「ずいぶんと歳が離れてますね」
「はい。実は兄は養子なんです。元親が冒険者だったとかで、任務中に死んで。それを知って、冒険者の友人である母親が養子にと」
「なるほど。父親は?」
「妹が産まれて、二年後に獲物を追っていて、崖から転落を」
「あぁ……それ以来、母親が?」
「ええ。でもまわりの人も良くしてくれていたそうで、持病が悪化するまで、働いていたそうです」
「それで無理したんですね」
「そのようです」
「お情けで雇うつもりはありませんからね」
「もちろんですわ」
避難所は、商業ギルドに併設されていて、渡り廊下を使って、行き来できるようになっていた。
避難所とはいえ、日本の体育館のような場所ではなく、旅館のような施設。それもそのはずで、雪に閉ざされる際は村人たちの避難所だが、冬場以外は本当に旅館だった場所。現在は、ほかの宿屋で充分で、利用されていないとか。
そんな避難所の一角に、人々が集まって談笑していた。ひとりひとりの顔に見覚えがある。先日、護衛していた村人たちだった。
こちらの気配を感じてか、ひとりがこちらに向き、またひとりとこちらを見る。談笑は静かになり、笑顔を向けてきてくれた。
「こんにちは、隊長さん」とひとりに言われた。
オレは、護衛任務の際は“隊長さん”でとおっていた。
「どうも〜」と軽く挨拶する。
「あの子たちは?」とラーニャさんが尋ねる。
それで村人たちの笑顔が、悲哀に変わる。
女性が指差す先に、ふたりの子どもが居眠りしていた。いや、妹の方が片目をうっすら開けて、こちらを見ていた。
ラーニャさんとともにそちらへ。
妹が起きて、兄の身体を揺する。それに気付いて、兄が目を覚ます。
「なんだ、ソニン?」と寝ぼけている兄。
「寝てるところをごめんなさいね」
へっ?とラーニャさんを見上げる。それから立ち上がった。
「ラーニャさん!」
「大丈夫かしら?」
「はい。ソニンとここにいたら、寝てしまったみたいで」
「そう。先日の話なんだけど」
「は、働き口ですか?」
「ええ。こちらの方に相談してみたの」と横に移動して、オレの姿を見せる。
「あっ、隊長さん! こんにちは!」
「やぁ。話はラーニャさんから聞いた。住み込みで働きたいと」
「はい。妹も一緒に」と声が小さくなる。
「仕事は、屋敷の維持管理だ。もちろん、屋敷を取り仕切る人がいて、その人の下で働くことになる」
「はい」と理解の返事。
「そこには、十人以上の人が寝泊まりしている」
「宿屋ですか?」
「どちらかと言うと、クランに近いかな。わかる?」
「いくつかの冒険者パーティーの集まり?」
「まぁ、そんなところだ」
「そこで何を?」
「屋敷のあれこれ。朝早く、夜遅く、なこともある。そこは、上の人の指示に従ってもらう」
「はい」
「それから、そこにはハーフエルフがいる」
「ハーフエルフですか? 冒険者の?」
「いや。一緒に働く人だ」
「そうですか」と気にしてる顔ではない。
「嫌じゃないのか?」
「なぜです? 母の友人のハーフエルフの冒険者を知っていますが、いい人ですよ?」
「ならば、一緒に働けるんだな?」
「はい」
「それと言っておくが、そこには魔獣もいる」
「えっ」と尻込み。
「テイマーもいるから、その従魔だ」
「あ、ああ」と立ち直る。「ちなみになんですか? その従魔は」
「キャスパリーグ、または大黒猫と呼ばれている」
「初めて聞きます」
「大人よりも大きい猫型魔獣だ」
「人より大きいんですか」
「ああ」
「大人しいんですか?」
「普段は大丈夫だが、本来は恐ろしい魔獣だ。テイマーがいるからと安心はしない方がいい」
うなずく彼。
「わかります。冒険者が大怪我を負い、村に運び込まれたことがありましたから」
「なら、わかるな。それから赤ん坊もいる。まぁ、そろそろ立ちそうな感じだが」
「その子のお世話も?」
「ときどき、見てもらう程度だろう。母親もいるし、老齢の女性もいるから」
「ほかには、ありますか?」
「ほかにも細かいことはあるが、だいたいそんなところだ」
「妹も一緒は、大丈夫、なんでしょうか?」
「そこが一番、気になるか?」
「はい」
「最初のうちは、一緒に働く形でやればいいだろう。やるうちに慣れて、妹も仕事を覚えて欲しいところだがな」
「それはもちろんです」
「ラーニャさん、とりあえず、預かります」
「はい。よろしくお願いいたします」
「名前は?」と彼に尋ねる。「オレは、サブだ」
「サブさん。オレはビガー、妹はソニンです」
「よし。ラーニャさん、服屋は開いていますかね?」
「開いていますよ。特にこの時期は宿泊客相手に商売ができますので」
「なるほど」
そこを教えてもらい、ふたりを連れていく。
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