578【セバスさん夫婦とヤルダさん】
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今話は、少し短めです。
三日ほどは、何事もなく、みんなで共通魔法を使う訓練をしたりして、過ごした。
そのあいだに、気温が下がってきて、もうすぐ冬本来の天気になりそうだった。
その日は、前日にセバスさんからの相談があり、商業ギルドへと出掛けることになった。
オレだけではなく、セバスさんとネイリンさん、それからヤルダさんの四人だ。
商業ギルドの受け付けカウンターで、要件を話すと、ギルマス執務室へと案内された。
ギルマスのラーニャさんと挨拶を交わして、ソファーを勧められたので、四人で座る。
スタッフが、お茶を淹れてくれる。
「それでどのような?」
「セバスさん夫婦が、ヤルダさんを養子に迎えたい、と」
そう、ゆうべ、三人で執務室に来て、養子縁組をしたいと言ってきたのだ。
夫婦ふたりを見て確認するラーニャさん。
「セバスさん、なぜ今なのです?」
「私たち夫婦は、以前から養子として迎えたい、と望んできました。ですが、ヤルダが、“自分はハーフエルフだから”と断わっていたのです」
「そうですのね。ですが、なぜ、今?」
「そこは私から」とオレが手を上げる。「ヤルダさんをごらんください」
ラーニャさんが言われたとおり、ヤルダさんを見る。しばらくして、気付いた。
「まぁ、耳が」
そう、ヤルダさんは一昨日の夜に、スクロールを開いたのだ。翌朝には、全員からの祝福の声を受けた。
「このとおり、ハーフエルフの耳は、人間族の耳になりました」
「しかし、どうやって?」
「先日のキラービー騒ぎの際に、奴隷として運ばれていたエルフの兄妹がいました。ご存知で?」
「はい。その後、《竜の逆鱗》の皆様が護衛されたと聞いております」
「その過程で、エルフの里の長から、ハーフエルフの耳を人間族の耳にするマジックスクロールをいただいたのです」
「まぁ」
「そのスクロールで、このとおりに。ヤルダさんは、これで懸念であった問題を払拭でき、セバスさん夫婦の養子になる決心をしたのです」
「そういうことですのね。おめでとうございます」と三人に向かって、祝いの言葉を送るラーニャさん。
そこからは、養子縁組の手続きが進められた。
手続きを終え、お茶を飲んで、ひと息つく。
「そうなりますと」とラーニャさん。「先日のお話、募集を掛けられますわ」
「ん?」
「男手が欲しい、とおっしゃられて」
「ああ。はい、そうでした」
「もう、必要ではなくなりましたの?」
「いえ。いろいろとあり、すっかり忘れていました」
「要望をお聞かせいただけませんか?」
そこで、書字板を出して、要望を伝える。
「住み込みをお望みですの?」
「はい。もちろん、絶対というわけではないです。しかし、屋敷仕事は、朝早くから夜遅くまであります。ずっとではないにしろ、住み込みの方が頼れますから」
「かしこまりましたわ」と書字板にメモするラーニャさん。
もちろん、みんなが在宅ならば手伝えるが、いない期間も多い。そんなときに何かあって困るのは、屋敷で働くセバスさんたちだ。そういう理由で、住み込みがいい。
求人に応募があれば、知らせてくれると言うので、あとはお任せだ。いい人が来るといいんだが。
三人には、先に帰ってもらって、オレは冒険者ギルドへ。別に用があるわけではなく、なんとなくだ。
時間的に、冒険者は少ない。みな、依頼を受けて、出掛けているはずだ。
依頼が貼られている掲示板を眺める。常設依頼が残るだけで、あらかたなくなっている。
まぁ、危険な魔獣も現れてはいないようで、良かったと思うことにしよう。別に依頼をこなしたいというわけでもないのだ。
「サブ様」と声を掛けられた。受付嬢のひとりだ。そちらに行く。
「はい」
「今日は、何か?」
「いえ。異変はないかと見ていただけです」
「そうですか。このあと、お時間はありますか?」
「ええ」
お願いがありまして、と執務室に。
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