576【オーガたちのようすと彼らの集落】
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今話は、長めです。
翌朝。
朝食を食べて、軽くお茶を飲み、装備を整えると、屋敷を出た。
馬化ウーちゃんとラキエルに引っ張ってもらい、空を行く。
冒険者ギルドには、何も言わずに。
十分もせずに到着。
オーガたちは、やはり固まっていた。
オレたちは、ロープから手を離して、地上へと降りる。
ウーちゃんとラキエルも。
オレたちの姿を見て、騒ぎ出すオーガたち。だが、一匹のオーガの叫びに、みな静まった。
その一匹ともう一匹が前に出てきた。
叫んだのは大きく、もう一匹は小柄で幼い感じ。
代表者か?
「みんなはここで待機。ダルトン、来てくれ」
「もしかして、話し合うつもり?」
「向こうも話があるみたいだからな」
ふたりで、二匹の近くまで進む。とはいえ、五メートルは離れたところまでだ。
二匹が顔を見合わせると、うなずく。こちらを見た。小柄な方が、口を開く。
「言葉、わかるか」
すでにオーガ語に切り替えてある。
「オレ、わかる。話す、するか」
「話す、する。オレ、長、息子」
「オレ、彼ら、長」
「オレたち、闘う、しない」
「わかった。オレたち、闘う、しない」
それでホッとしたようだ。
「ここ、オレたち、集落、したい」
「ダメ」
「もう、人間、いない」
「ダメ。人間、戻る」
「オレたち、安心、欲しい」
「オレたち、安全、欲しい」
「ほか、集落、作れる、ところ、ないか」
「おまえたち、集落、どうした」
「襲われた、アーマードベアに」
はぁ!?
「アーマードベア、三匹か」
うなずく二匹。
オレは頭を抱えた。
あいつら、何やってんだよ。
ダルトンがオレを突く。振り返る。
「どったの?」
「アーマードベア三体に集落を襲撃されたんだと」
「はぁ!? あいつら? 何してんの」
「同意見」
「それで?」
「ここを新たな集落にしたいって言うから、ダメだって言った」
「当然だね」
「ともかく話し続けるよ」と前を向く。
「アーマードベア、三匹、倒した。安心しろ」
二匹があんぐりと口を開ける。
「アーマードベア、オレたち、倒した」
二匹が顔を見合わせる。それからこちらを見て、また見合わせた。
まぁ、証拠もないしな。倒したアーマードベアは、冒険者ギルドだし。キラービーを見せても意味がわからないだろうし。
長の息子が、口を開く。
「おまえたち、強い、知ってる。オレたち、かなり、やられた。おまえたち、空飛ぶ。目潰し、使う。なのに、誰も、殺す、しない。なぜ」
「ここ、人間、弱い。だから、逃がす。おまえたち、殺す、必要、ない」
「アーマードベア、倒した。なぜ」
「アーマードベア、人間、襲った。だから、倒した」
二匹が顔を見合わせて、うなずく。
「ここ、諦める。安心、集落、欲しい。頼む」
「探す、自由」
「オレたち、疲れた。休む、したい」
振り返って、ダルトンに話す。
「ここを諦めるから、安心できる場所を提供してくれだって」
「なんで? 自分たちで探せばいいのに」
「疲れて、そんな余裕もないんだそうだ」
「で? そんな場所、あるの?」
索敵さんで、条件を決めて、探してみる。あるにはある。条件を変えて、周辺をチェックする。
「とってもおあつらえ向きな場所があった」
「あるもんだねぇ」
「でも彼らがそれでもいいかって話はあるからな」
「そだね。どうすんの?」
「代表者を連れていって、確認させるか」
「距離は?」
「歩いたら、一日以上掛かる。だから、ウーちゃんに頼むよ」
「だね」
二匹にそのことを話すと、よろこんでくれた。だが、移動の距離に、拒否られた。
「大丈夫。移動、そんなに、掛かる、ない。すぐ、着く。ただ、ひとり、ふたりだけ」
二匹が相談する。ようやくして、こちらを見た。
「オレたち、行く」
うなずいて見せると、ウーちゃんを呼ぶ。
「ウーちゃん、馬のままで、少し大きくなれる?」
『このままではなれんな。あの二匹を乗せるのか?』
「うん」
『空間魔法に入れていけば、よかろう?』
「あっ、その方が早いか」
二匹のそばに寄る。
「この馬、おまえたち、運ぶ」
うなずく二匹。
ウーちゃんは、鼻面を近付けると、まずは大きな方を収納する。それに驚いている息子も収納。
これに驚き騒ぎ出すオーガたち。
オレが声を張り上げる。
「落ち着け! ふたり、集落、場所、見せる! 必ず、戻す!」
ダルトンは、仲間たちに説明してくれてる。
「ダルトン、ここを任せる」
「大丈夫なの?」
「ウーちゃんがいるから、大丈夫」
「確かに。了解」
ウーちゃんに跨る。と、ウーちゃんが助走して、空中へと駆けていく。
その場所には、集落跡があった。破壊の限りを尽くされていた。
これはもしかして、オーガたちの集落跡か?
ともかく、ウーちゃんに降りてもらい、二匹を出してもらった。
瞬きを繰り返す二匹。しかし、まわりを見て、唖然とした。
「もしかして、おまえたち、集落か」
二匹がうなずいて応えた。言葉にできないようだ。
「おまえたち、直す、できるか」
息子がこちらを見た。
「難しい。みな、疲れてる。直す、大変」
「わかった」
こりゃ、手伝うしかないか。ため息ひとつ。
サンタナ村へと戻って、二匹を空間魔法から出す。待っていたオーガたちが、ホッとする。
息子に声掛ける。
「集落、直す。オレたち、手伝う」
「行く、大変」
『ウーちゃん、オーガだといっぺんにどのくらい入れられる?』
『運ぶのか?』
『うん。どう?』
『魔力を考えると、一度に十匹くらいかのぉ』
『手間が掛かるけど、お願いできる?』
『仕方ないのぉ』
仲間のところに行く。
「オーガの集落を直しに行くぞ」
「話が見えないんだけど?」とダルトン。みんなもそうらしい。
「さっき探した場所は、彼らの集落だった。アーマードベア三体に壊されてた。襲われて、仕方なく逃げてきたらしい。だが、アーマードベア三体という脅威がなくなった今、舞い戻る方がいい。しかし、集落は壊されてしまって、彼らの疲労を考えると、すぐには無理だ。そこでウーちゃんに少しずつ運んでもらって、再建する」
この説明でわかってもらえたので、準備する。
息子に近付く。
「十匹、動ける者、集めて。集落、直す」
「十匹だけ?」
「全員、移動する。集落、直す、進める、必要。はじめ、十匹、そのため」
大きい方が息子の背中を軽く叩く。
二匹は、オレの言葉にうなずいて、十匹を選んでいく。
その十匹を収納するウーちゃん。
ダルトンとキヨミとマナミをこちらに残し、残りの全員をラキエルに引っ張ってもらう。ウーちゃんもあとからついてくる。
到着して、十匹を出すと、唖然としているので、やることをやらせる。まずは、塀だ。それを支援するオレたち。
そうして、次の十匹、そのまた次の十匹という具合に、ウーちゃんによる移動が進み、塀もそれなりに整えられていく。
最後の便で、全員が移動できた。残ってたダルトンたちもラキエルとともに到着だ。
そこで、ランドルフとエイジとハルキに、狩りに行ってもらった。近場でオークが徘徊していたから、夕食にちょうどいいと思って。
塀はとりあえず直ったが、さすがに家は時間を掛ける必要がある。それでも安心して眠れる場所作りが終わった。
ランドルフたちも戻ってきて、オーク三体が出されると、オーガたちがよろこびに沸いた。
「やる。食え」
「いいのか」
「いい。オレたち、もう行く。人間、襲うな。いいな」
「わかった。ありがとう」
オレはうなずくと、仲間たちを集め、その場をあとにした。
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