574【村人救出とオーガたち】
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今話は、少し長めです。
オーガたちのようすを見てから、ダルトンと合流する。ひとつの家の裏で、防護も隠遁も解く。
「やっぱり効くねぇ、あれは」
「だな。それで避難準備は?」
「整えた。どうやる?」
「予備の浮遊の魔導具で、安全な場所に連れていってくれ。そこを離れる際には、結界を張るんだ」
そう言って、予備を渡す。それほどの数があるわけではないが、ないよりはいいはずだ。
「安全対策だね。サブは?」
「とりあえず、バイクをしまうよ。そのあとは、ダルトンの救出作業中にヤツラの頭の上を飛んで、からかう。みんなが来るまでの時間稼ぎに」
「了解」
ダルトンが村人を選んで、浮遊の魔導具を付けていく。
オレは空中のバイクへと行き、しまった。
ダルトンが、村人たちをロープでくくり、浮遊させていく。それから自身も浮遊して、移動をはじめた。
残された村人は不安そうだが、オーガに比べれば、問題はないだろう。
「すぐに戻りますので、ここにいてください」と残った村人たちに言う。
オレは一旦、ダルトンのあとを追い、村の塀のところまで来ると、そこにいたオーガの気を引く。
からかっていると、いろんなものが飛んできた。油断大敵。うまく避け続ける。
ダルトンたちには、意識が向いていない。成功だ。
ときおり、門の方を確認する。強者達はいまだに仲間を攻撃している。そのまわりに近付かないように、遠巻きにして強者達を見ているしかないほかのオーガたち。
塀のまわりのオーガたちは、騒いでいるが、何もしていなかった。おそらく、村人を脅す役目なのだろう。それは放っといていいな。
ダルトンの救出作業が何度も繰り返されたが、まだまだ人数が残っている。
そこへラキエルに引っ張られたみんなが来た。
ありゃ、ラキエルにウーちゃんが跨ってる。しかも、腕を組んで。
村の中へと降りてきた。途中でみんなが離れて、こちらへと来る。
「サブ」とランドルフ。「状況は?」
「村人の避難を優先してる。浮遊の魔導具が少なくて、一気に運べない。門のオーガには、煉獄の粉を撒いた。それと煉獄の実を置いてある」
「塀のまわりのオーガは?」
「あれは、単なる脅しだと思う。叫ぶだけで、何もしてない」
「それで、どうする?」
「みんなの浮遊の魔導具で、早く避難させる」
浮遊の魔導具を掻き集める。それを村人たちへと装着していく。ロープで括る。
そのロープをラキエルへとつなぐ。
ダルトンが戻ってきた。
「ダルトン、ラキエルに引っ張ってもらえ。ラキエルに往復してもらうからな」
「了解」
それを聞いて、ラキエルに跨っていたウーちゃんが自分から降りる。膨れっ面だ。
「ウーちゃん、ありがとう」
プイッとそっぽを向く。怒ってはいるが、怒気ははらんでいないので、機嫌が悪いだけだ。
「よし」とみんなに向く。「救出作業を支援する陽動作戦に入るぞ」
そこで、みんなに作戦を伝える。ようは誘い出しだ。オレたちの姿をオーガに見せて、引き付ける。そのあいだに、救出作業をしてしまうのだ。
「オーガの数は多いが、分散しているから、対応しなければならない数は多くない。だが、倒す必要はない。そんな手間は掛けるな。動けなくすればいいだけだ。いいか?」
全員がうなずく。
「よし。塀を飛び越えるぞ。得物を取れ」
全員が剣や杖を抜く。
「ランドルフ、エイジ、ハルキ、それとケイナが先頭を。そのあとをオレたちが行く」
全員が態勢を整える。
オレの号令で飛び出せる態勢だ。
「やれ!」
ランドルフ、エイジ、ハルキ、ケイナが走り出す。塀を飛び越えるのは、身体強化すれば、イケる。
四人が塀の上に立ち、すぐに飛び降りた。ようすを伺ったのだ。
ランドルフのウォークライが発せられた。彼の持つスキルだ。雄叫びをあげることで、一種の音波攻撃となり、相手が萎縮したり怯んだりする。仲間への士気向上も得られる。
オレは索敵さんで得られるようすから、飛び出すタイミングを図る。
「やれ!」
残りの全員で走り出す。身体強化とともにスピードが増し、勢いとともに塀を飛び越える。下はガラ空きだ。
上空をラキエルが行く、村人たちを引いて。
闘いは、自分たちのペースで進む。動けなくするだけなら、造作もない。
そうした闘いの最中に、頭上からダルトンの声が響いた。
「終わったよ!」
「全員! 撤退!」
ひとりふたりと戦線から離脱していく。オレは最後のひとりが撤退を開始するのを見てから、走り出す。
オーガは追ってくるかに思えたが、それどころではないのか、追ってはこない。
オレたちの撤退先は、避難者のところ。
点呼を取る。全員の無事を確認。
そこへラキエルとダルトンが降りてきた。ウーちゃんも乗ってた。
「お疲れ。サブ、これからどうするの?」
「馬車を出して、ミゼス町へ撤退だ。馬車には、女子どもを中心に乗せて、男は歩きだ」
全員で手分けして進めていく。
「あの」と村人のひとり。「村は、どうなりますか?」
「わからない、というのが現状です。一応、オーガが村の中に入らないようにはしてきましたが、なんとも言えません」
「そうですか」と肩を落とす彼。
「そんなに気を落とさないで。これからも人生は続きます。落ち込んでなんかいられませんよ」
「はい」と返事はしてくれたが、肩は落ちたままだ。
こればかりは、どうしようもない。村に戻れれば、きっと元気を取り戻してくれるだろう。そう信じたい。
ラキエルに引かれた馬車が、ミゼス町に到着したのは、夕方過ぎだった。門は開いており、そこでは多くの人が受け入れ準備を整えて待っていた。
その中から、冒険者ギルドのギルマス、ドネリーが出てきた。
「お疲れ様。サンタナ村の状況を教えてくれないか?」
「とりあえず、村の中に入れないようにはしましたが、わかりません」
「交戦したのか?」
「ええ。そのスキに村人たちを移動させました。移動終了とともに、撤退して、このとおり」と馬車を指す。
「そうか。交戦でオーガは減ったか?」
「ケガを負わせただけです。撤退優先でしたから」
「そうだな。討伐の可能性は?」
「なんとも言えない」
「わかった。よく村人たちを助けてくれた」
サンタナ村の村人たちのようすは、気落ちしてはいるが、ケガもない。町の人たちに世話されて、笑顔も出てきている。大丈夫そうだ。
ダルトンがそばに来て、小声で聞いてきた。
「オーガ、どうすんの?」
こちらも小声で返す。
「さっき索敵さんでようすを見た。村の中に入らず、まわりで休んでいる」
「中に入らず?」
「入り口に、煉獄の実をいくつか置いてきたからな。入りたくても入れないよ」
「血のニオイを嗅ぎ付けて、ウルフあたりに襲われるだろうね」
「オーガもそれはわかっているさ。自分たちでなんとかするだろう」
「で、どうすんの?」
「討伐するか?」うなずくダルトン。「オレたちだけで、討伐できると思うか?」
「難しいところだね」
「かといって、放っとくのもどうかって感じだよな」
うなずくダルトン。
「少なくとも監視はしないとね」
「監視か。まずは様子見だな」
「だね」
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