571【特別な金属】
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今話は、少し長めです。
「そういえば、エルフは金属を嫌うそうですが」
「ええ。ですが、それは感覚から来るものなのです。金属を持つと冷たいでしょう。その冷たさに敏感なのです、エルフは」
「そういうことでしたか。ヤケドするとかではなく」
「はい。しかし、本人にとっては、ヤケドと同じようなものです」
「なるほど」
「それが親から子に伝えられ、忌避するようになったのです。エルフでもこのことを知るのは、ごく一部の者だけです」
「最初からですか? つまり、キメラ化した初期から」
「そうですね」
「ハイエルフも敏感なので?」
「その点は、違います。ハイエルフは、金属を嫌いません。岩石と同じように扱います」
「違うんですね」
『サブ?』ウーちゃんの念話だ。
「従魔からの念話です。失礼します」
手で促された。
『ウーちゃん? どうしたの?』
『無事そうじゃな。連絡を寄越さぬか』
『あぁ、ごめん。ダルトンにせっつかれた?』
『うむ。で、どうじゃ?』
『子どもたちは無事に両親のところに戻ったそうだよ』
『良いな』
『あとは、帰ったら話すよ。それと、帰る前にまた連絡するよ』
『わかったのじゃ。ではな』
『うん』
念話を終了。
「失礼しました」
首を振るホルト。
「いいえ。心配されての連絡でしょう?」
「はい」
彼がうなずく。
「金属で思い出しました。こちらを」と手を伸ばしてきた。
手のひらの上には、半透明の白いものがあった。コイン二枚を同じ素材でつなげたような形状だ。カプセルの絵を描けば、わかるだろうか。
手のひらを出すと、ホルトはそこに転がしてくれた。
ほんのり温かみがある。
表面には、両側に森が彫られ、中央にはエルフの、――いや、耳が長いからハイエルフか――の顔が彫られている。
裏面を見ると、エルフ語が書かれている。異世界言語が訳してくれた。
「“守護せよ”?」
「ほぉ、お読みになれるのですか」
「はい。それでこれは?」
「お持ちなさい。どのエルフでも、これを見せれば、あなたを重要人物として扱ってくれます。また、ほかのハイエルフとも会うこともできます」
この紋所が目に入らぬか〜的な?
「いや、そこまでの必要を感じないのですが」
「エルフと敵対したとしても、それを見せれば、引いてくれるはずです」
あー、それは助かるかも。
「ただし、充分な教育を受けていない若者には、効かないでしょう。ここで言う若者は、百歳より下という意味ですよ」
それが若者なのか。笑うしかない。
「若者は、どこでもそうですからね」
「はい。エルフでもダークエルフでも共通です」
「ハーフエルフは? 実は、うちの屋敷で働いているのですが」
「残念ながら」と首を振る。「エルフの教育を受けたとしても、それを教えられることはないでしょう。それにハーフエルフの寿命は、人間族のそれと同じですから」
「ああ」
「とにかく、それはお持ちください」
「わかりました」と収納する。
「そのハーフエルフは、いくつくらいなのですか?」
そういえば、歳を聞いたことがないな。
「十八から二十五歳くらいのあいだかと」
「忌み嫌われてはいませんか?」
「今のところは。しかし、ハーフエルフということで、一緒に仕事をしてくれる人は、いないようです」
「なるほど。耳の大きさは?」
「こんな感じですね」と自分の耳の先を摘んで引っ張る。
ホルトがうなずく。
オレは、耳から手を離した。
「人間族の血が濃いようですね。それならば」と彼は立ち上がり、壁際に寄る。
壁の一部が裂け目を生じて、開きはじめた。どうやら、収納壁になっているらしい。
ホルトは、そこからひとつのスクロールを取り出した。それを持ってくる。壁はもとの状態へと戻っていく。
スクロールをオレに差し出す。
「これを使わせてください。耳の形状が変わります、人間族のそれに」
「マジックスクロールですか?」
「はい。魔力は持っていますね?」
「はい。いくつか魔法を覚えさせましたから」
「形状を変えるだけなので、子どもには受け継がれません。しかし、そのスクロールは、ハーフエルフであれば、誰でも使えます」
「助かります」すぐに収納。
「形状が変わるには、ひと晩が必要とされますので、ご注意を」
「ありがとうございます」
「それと本人の意思を確認してから、渡してください。本人はハーフエルフでいることを望んでいるかもしれませんので」
「いるのですか?」
「稀に」
「わかりました」
器の水をまた飲む。カラになったのを見て、また注いでくれた。
「ありがとうございます。それにしても、なぜ、あの道を?」と出てきた道を示す。
「いらぬ誤解を生まぬためです。エルフの民は、人間族を嫌っていますので」
「なぜなんです?」
「昔の戦争を引きずっているのです。人間族との仲違いが生んだ戦争でした」と俯くホルト。
「それは……」言葉が出てこない。なんと言えばいいのかわからないのだ。
「ですが」と顔を上げるホルト。「外の情報を得るために、と何人かを里から送り出しています。そうした者から、人間族との交流を増やし、昔のことだとわかってもらおうとしています」
「ガルラ殿のように」
「ええ。ちなみに、キースにもさきほどのものを渡してあります」
「あぁ、だから、里にも入れるのですね」
「ええ。民には、手を出すな、と言ってありますので、問題にはなっていません」
「なるほど」
「キースは、魔力量も多く、高位エルフだけが使える空間魔法も覚えていました。ガルラいわく、ちょっとしたことを教えただけで、使えるようになったそうです」
やっぱり空間魔法は、高位エルフしか使えないのか。エルフなら、誰でも使えそうに思ってたが。
疑問から世間話に移る。
しばらくすると、ガルラ、キース君、ガーネスが、入り口に現れた。
三人ともに、その場に片膝を付く。
「行きなさい」
三人ともがうなずき、立ち上がる。
オレも立ち上がり、ホルトに礼を言って、三人と隊列を組み、入ってきたところから出ていく。
しばらくしてから、ウーちゃんに念話して、これから戻ることを伝えた。
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