564【エルフと鍛冶師】
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今話は、少し短めです。
エルフの里編 になります。
夕方。
護衛組がやってきた。
ケガを負ったようすはない。
お帰り、と出迎える。
向こうも、ただいま、と返してくる。
「大丈夫だった?」
「何度か、魔獣と鉢合わせしたけど、討伐目的じゃないから、逃げ道を用意したら、逃げてった」
「そうか。それで、子どもたちは?」
「無事に、ガーネスとともにエルフの里の警戒範囲に入っていったよ」
「よかった」
夕食を食べ終わり、お茶休憩。
そこで蹄鉄交換の話をした。
「へぇ、こんな村に鍛冶師がいたんだ」
「武器防具は作らないって、言ってたな」
「なんで?」
「生活のためのものを作っているってさ。エルフからも依頼が来るらしい」
「エルフから?」
「外を出歩く里出身のエルフだと」
「里のエルフって、金属を嫌うって話だったけど?」
「それでも必要なものもあるんだって。使わないといけない時は、グローブして使うってさ」
「あぁ、なるほど」
「難儀だよな」
お茶を啜る。
「しかし」とランドルフ。「蹄鉄なんて、すっかり忘れていたな。本来ならば、オレたちが気付いて、連れていかねばならないところだったのに」
「オイラも忘れてた。ほとんど、空の旅だから、そういう意識がなくなってたんだね」
「オレも最初、ラキエルに言われて、キョトンッとしてしまってさ。向こうの世界じゃ、馬を扱うのは特定の人ばかりだったし」
「馬の代わりがいるんだろ?」
「あぁ、馬がいなくても走る馬車がな」
「魔導具だな」
「そうだな」
「それで」とランドルフ。「蹄鉄の交換は、無事に済んだのか? ラキエルが駄々をこねたとかは?」とほくそ笑む。そうなりそうだと思っているんだろう。
「それが鍛冶師と馴染みだった」
ふたりが驚く。
「なんでも以前は定期的にやってもらってたらしい。でも、その鍛冶師に“ラキエルが生きてるわけねぇ”って、言われてさ。仕方なく、“ケルピーだよ”っと教えた」
「信じたの?」
「最初はダメ。だから、馬化を解かせた。それで信じてくれたよ」
「なんで、“今も生きてます”って言わないの」と呆れてる。
「ふつうの馬が生きてるわけがないって言われてるのに? ラキエル、そんな老馬じゃないじゃん」
「それもそうか。んで?」
「まぁ、そんなこんなで、蹄鉄の交換がはじまった。ああいうものなんだな」
「ずっと見てたの?」
「そう。だって、興味があったし。ヒマだったし」
「はいはい」
「終わったら、剣を見せろって言われた。もともと武器防具をやってたそうでな」
「ふぅん。それで?」
「けちょんけちょんに言われた」
みんなが笑う。
「でも、ミスリル剣の配合をどうやって知ったか聞かれてさ。知識の書を見せた。お貴族様の邸宅から見つかったって話にして」
「納得した?」
「“お貴族様め!”って叫んでた」
クスクスと笑うみんな。
「配合は、教えなかったの?」
「自分なりの配合があるんだろう。すぐに諦めた」
「頑固そうだね」
「そんな感じはなかった。だから、今後もラキエルの蹄鉄をお願いするつもり。旅の途中で寄れたらって、ラキエルにも言っておいた」
「そっか。いんじゃない。それでそのドワーフ、名前は?」
「デーク」
ダルトンとランドルフが腰を浮かせた。驚いたようだ。
「デークって言った?」
「うん」
「おいおい、こんなところにいたのか」とランドルフが唖然としている。
「ふたりが知ってるってことは、有名人?」
「有名も有名。武器防具を作らせたら、ゴウヨークで一番と言われた鍛冶師だよ」
「それが突然、いなくなった。当時は他国に奪われたんじゃないかと噂になったもんだ」
「でも、調べた限りじゃ、そんな影もなかったから、不思議だったんだよ」
「ふむ」と少し考え、それからキツく言った。「全員、このことは、他言無用だ」
みんなが、ビクッとして、背筋を伸ばす。
「なんでさ」
「デークがここを選んだんだ。“武器防具を作らない”と宣言している以上、なんらかの理由でそうしてるってことだ。そこに“デークがいるぞ”とわかったら、どうなる?」
「殺到するな」とランドルフ。
「だろう。いち鍛冶師として、静かに生活しているのに、騒々しくされたら、また姿を消すしかない。違うか?」
「確かにな。わかった。他言無用だ」
「オイラも同意するよ」
「頼む」
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