563【蹄鉄の交換】
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今話は、ふつうです。
蹄鉄の交換をそばで見せてもらう。
ドワーフは、名前をデークと名乗った。オレも名乗る。
デークは、ラキエルの蹄を上げさせて、蹄鉄を確認する。
「前に交換して、どのくらいだ?」
『どのくらい?』とオレに聞いてくるラキエル。
「おまえ、オレに買われる前は?」
『交換したばっかり』
「とすると、そろそろ三年?」
「おいおい、会話できるんか」
「人間の言葉は、充分わかりますし、テイムしてるからやり取りできるんです」
「ほぉ、便利だな。しかし、三年だと! なってねえな、おまえのご主人様はよ」
首を縦に振るラキエル。
「おまえなぁ、今まで蹄鉄変えたいって言わなかったじゃないか」
「そういうのはな、飼い主の責任だぞ! 馬のせいにするな!」
怒られちった。
そこでデークに、蹄鉄について教えてもらった。
蹄鉄は、主に蹄の保護と運動能力向上のために使われる。
蹄鉄を付けることで蹄が削れるのを防ぎ、蹄が裂けることや病気の予防になるし、地面をしっかり蹴ることができるようになり、速く走ったり障害を跳ぶ際に安定性が増す。馬の足元のバランスを整え、着地の衝撃を吸収する効果もあるそうだ。
デークが、ラキエルの脚を股に挟んで、ベンチのような道具で、蹄から蹄鉄をグイグイと力強く外していく。それから小さな鎌のような道具で、足裏を削っていく。どんどんと白い蹄が露わになる。ペンチみたいな爪切りでまわりを切っていく。そうしてヤスリ掛け。まるで料理の上でチーズを削っていくようだ。それを四つ足すべてに施す。
一旦離れ、デークは奥から真っ赤な蹄鉄を持ってきた。それを鉄の台(金床というらしい)の上で、ハンマーを打ち付けていく。見た目にはわからないが、おそらく微調整だろう。
それからラキエルの前脚を股に挟んで、その蹄鉄を蹄に押し付けた。ジューッという音とともに白い煙が発生する。焼いているのだ。
『熱くないの?』
『温かいだけ』
ラキエルから離れ、金床の上で、さらなる微調整。
また、ラキエルの前脚を股に挟んで、蹄鉄を当て、釘を打ち付けていく。
『痛くないの?』
『全然』
知識の書を出して、知識を得る。
なるほど、人間の爪の白い部分だから、痛みはないのか。しかも、釘は白い部分から飛び出させるとか。えー?
蹄を焼いたのも、蹄鉄を密着させるためらしい。
蹄から飛び出た釘を、曲げたり削ったりと手順を進めていくデーク。
それで一脚が終わる。
次の前脚へと移行。
四肢が終わるまで、見ていた。時間が経つのが早い。
最後にワックスを掛けて、終了。
ラキエルなんか、途中気持ち良くて、寝てたしね。
言い値を支払う。
「本当は、ひと月ふた月を目安に交換すべきだぞ」
「はぁ」
「ラキエルの蹄鉄は、それほど削れてはいなかったから、半年くらいが目処だと思え」
「はい」
「それにしてもふつうに走らせているのに、なんで蹄鉄が減らんのだ?」と首を傾げるデーク。
「それは、魔法で、地面の上を走ってるからです」
「地面の上を?」
「ラキエル、浮いて見せてあげて」
ラキエルが少し走りながら、浮き出す。地面から二十センチほど浮かぶ。
それを見たデークが、ほぉっとアゴヒゲを撫でる。
立ち止まると、地上に接地。
「こんな感じです」
「ほかのケルピーでもこんなことが?」
「わかりません。こんなことができるのは、ラキエルしか見たことがありませんから」
本当は、ウーちゃんもいるけどね。
「まぁ、それもそうか。ところで」とオレを見る。「その剣を見せてみろ」と手を差し出すデーク。
「武器防具は作らないんじゃ?」
「もともとは、そっちの職人じゃ。ほれ」
ごねても仕方ないので、剣を抜き、柄を向けて、渡す。
「ほぉ、ミスリル剣か。ほどよい配合だな。しかし、切れ味は良さそうだが、今ひとつの出来だな」
そう言って、柄を向けてきた。
受け取って、鞘に収める。
「でしょうね。自作なんですよ」と苦笑する。
「自作? 鍛冶師なのか?」
「素人に毛が生えた程度です」
「配合はどうやって決めた?」
「先人の記録が残っていまして、そこから」
「鍛冶師の宝だぞ! おいそれと記録を残すわけがあるか!」
「ここに」と知識の書を出す。
渡すが、当然開かない。
「それ、魔導具らしくて、ほかの人に渡っても、開かないようになっているんですよ」
「いったいどこで」
「とある貴族の邸宅から」
「お貴族様か!」
知識の書を突っ返してくるデーク。
どれもウソだけどね。
配合は鑑定さんだし、出どころはウチの屋敷だし。
「で、なんでこの村に?」
さっきまで憤慨していたデークが、気を取り直して聞いてきた。
「実は、エルフを護衛して来たんです」
「エルフを?」
「エルフの子どもが拐われて、それを助けたんです。で、エルフの冒険者とともに来たんです。今ごろは里に着いているんじゃないかと」
「そうか。子どものケガは?」
「ありません。少し栄養失調気味でしたが、それなりに回復しています」
「良かった」とホッとしている。
「エルフの里と交流が?」
「里との交流はない。だが、とあるエルフと知り合ってな。たまに依頼をくれるんだ」
「依頼?」
「生活道具のあれこれだ」
「なるほど」
「彼らは金属を苦手にしている。しかし、必要不可欠ならば、使う。そのへんは、時と場合によるわけじゃ」
「やっぱり苦手なんですか」
「うむ。そのへんにいるエルフはそうでもないが、里のエルフは直接触らずにグローブを付けるそうだ」
「そこまで」
「まぁ、自然を友とする民だからな」
お礼を言って、別れた。
『ラキエル』
『ん?』
『また、デークにやってもらいたいか?』
『もちろん!』
『旅に余裕があったらな』
『やった!』
広場に戻ると、ラキエルは蹄をふたりに見せる。
「うわぁ、きれいになりましたね、ラキエル」とラーナが褒める。
「ほぉ、こんなものを付けとるのか。変わっとるの」とウーちゃんはあまり良く思っていないみたい。
「野生馬だと付ける必要はないそうだけど、人に飼われてる馬は、蹄が弱いんだそうだ。まぁ、ラキエルには必要ないだろうけど」
「だが、機嫌が良いのぉ」
「途中から寝てたよ」
「寝た!? コヤツが!」
「気持ちが良かったみたいだね」
「わからん」とウーちゃんが首を振る。
*蹄鉄
ウィキペディア参照
交換場面もYouTube動画にありました。
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