561【シタナ村近くの馬車留め】
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今話は、少し短めです。
翌朝。
ラキエルに馬車を繋いで、屋敷を出発した。
ウーちゃんには、馬になってもらい、オレが単独で乗る。
みんなには先を急いでもらって、オレだけ冒険者ギルドに寄った。
スタッフに案内されて、執務室へと入る。
「おはようございます」
「おはよう。どうした?」
「これからエルフの里へと出発します」
「ガーネスは?」
「パーティーの全員と先を急いでいます」
「《竜の逆鱗》の全員で行くのか」
「ええ。とにかく、里近くまで護衛します。そこからはガーネスに任せます」
「わかった。気を付けて行ってくれ」
「はい」
ウーちゃんの脚なら、ラキエルの引く馬車に追いつくのは、造作もない。
とりあえず、近くの馬車留めで、停車させた。
全員が馬車から降りる。
「こんなところで、何を?」とガーネス。
だが、次の瞬間には、ガーネス、ニクロス、サーリエの三人は、姿を消した。馬化ウーちゃんが鼻面を三人に押し当て、空間魔法へと収納したのだ。
ラキエルから馬車を離して収納。馬具も外して収納。
ウーちゃんとラキエルに引かれて、空中を行く。
あとは、街道沿いの川へと行き、ウーちゃんに大きくなってもらっての移動。
二日後、目的の村近くの馬車留めで、人化ウーちゃんに、三人を空間魔法から出してもらう。
ガーネスが視界の変化に驚いて、あたりを見まわす。
子どもたちは、キヨミとマナミに連れられて、野営の準備を手伝わされている。
「どこだ、ここは!」
「シタナ村近くの馬車留めだ」とランドルフが答えた。
シタナ村は、エルフの里近くの村だ。
「はぁ!? こんな一瞬で――」
「一瞬じゃない。二日が経った」
「二日!? 二日でシタナ村までどうやって!」
「冒険者の秘密だ」
「ウグッ」
とりあえず、今日は野営だ。近くに来たとはいえ、到着するころには、門が閉じていることだろう。
ランドルフがガーネスを落ち着かせて、焚き火を起こさせる。
それぞれに仕事を与えれば、こんがらがった頭も、冷えてまとまりやすくなる。
ガーネスがため息ひとつ吐いて、話し出した。夕食を終えてのお茶休憩だ。
「明日の話だが、村前で分かれる。護衛に就いてくれるのは?」とオレたちを見る。
手が上がる。ダルトンとランドルフ、若者四人、ミリンダ、ケイナ。
オレとラーナとウーちゃんとラキエルは、待機組。
「少し多いが、助かる。ここで出てくる魔獣は」と魔獣を指折り数え挙げるガーネス。「どれもふつうだ。君たちなら、問題ないと思う」
護衛役のみんながうなずく。
「おそらくだが、途中でエルフの里の者に、警告の矢を射られるだろう。警戒はしても構わないが、攻撃の意思は見せないで欲しい」
これにもうなずくみんな。
「そこから先は、私たち三人のみ、進む。君たちは、村に戻ってくれ。私はおそらく一泊する。それで戻ってくる予定だ」
みんなからは、疑問の声もなく、うなずきが返ってくる。
「よろしく」
明日の話が終わったところで、オレが口を開いた。
「ガーネス、これを」とふつうのマジックバッグを差し出す。「浮遊の魔導具を入れてある」
「浮遊?」
「ガーネスの腕前を信じてはいるが、念のためだ。操作のしかたもここで教える。一応、三人分入れてある」
「何かあると?」
「いや。おそらく、帰りに使う程度だろう。まぁ、用心のためだよ。主にこちらの安心のためだな」
しばらく、躊躇していたが、ガーネスは受け取った。
それから、少し離れて、実際に操作を覚えてもらう。
操作指南を終えて、焚き火のところに戻ると、キヨミからお茶をもらった。
「こんな魔導具を」とガーネス。「どこで手に入れた? 話にも聞いたことがないぞ?」
「オレが作った」
「サブが?」
「サブはね」とダルトン。「魔導具師なんだよ。冒険者ギルドでも売ってるコンロやライターは、サブのだよ」
「あれは、助かると思う。オレは必要に感じないがな。そうか、サブは魔導具師だったのか。そういえば、そんなことを言ってたな。忘れてた」
屋敷の運動場で、話した記憶がある。
「で、浮遊の魔導具は、売らないのか?」
「犯罪を助長するからな。そういうのは、出さないことにしてるんだ」
「考えているんだな」
「それでも人々の安全確保のために出すものもある。それも犯罪に使われる可能性は否定できないがな」
「道具は、使う者の意思次第で、用途が変わる、ということか」
「そう」
不寝番の順を決めて、早めに就寝することにした。
人数がいるので、ガーネスと子どもふたりには、朝まで寝てもらう。ガーネスがごねたが、そこはオレたちの流儀に従ってもらう。ガーネスは、渋々引き下がる。
不寝番に十人もいる。多過ぎ。とはいえ、誰にも不満はなく、朝まで、三人ずつでの交代に決めた。ひとり弾かれるが、そこは力量のバランスで配置する。
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