560【商隊の荷】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、少し長めです。
翌日。
朝食のあとのお茶休憩を取っていると、玄関がノックされた。
セバスさんではなく、ヤルダさんが出る。セバスさんはまだ本調子ではないので。
ヤルダさんがオレのところに来た。
「ガーネス様が、お話があるそうです」
変な言い方だな。
「入ってもらえば?」
「いえ。来たのは、冒険者ギルドからの使いの者です。ガーネス様の言伝を預かってきたと」
「一応、会おう」
玄関には、先日も来た少年が立っていた。
「やぁ、ご苦労様。サブだが、もう一度、言伝を聞かせてくれるか?」
「はい。ギルマスから、サブ殿に“ガーネスが呼んでいる。早めに来て欲しい”と言付かりました」
「ありがとう。ところで、君の名前は? ここのところ、よく来てくれているようだが」
「はい。クンタ、と言います。この町には冒険者になりに来ました」
「クンタか。これからもよろしく。ギルマスに伝えてくれ。“着替えて、向かう”と」
「わかりました」
踵を返して、走っていくクンタ。
冒険者になりに、か。ということは最下級冒険者か。前の少年ガルドは、どうしたんだろうか。ちと心配。
着替えて、冒険者ギルドを訪れると、すぐに執務室へととおされた。そこには、ドネリーとガーネス、それと少年少女がいた。
「悪いな、サブ」とドネリー。
「いえ。それで? どうやら、その子たちについての話のようですが」
「紹介しよう」とガーネス。
ガーネスがふたりを立たせる。
背丈から兄と妹のようだ。整った容姿を持つふたり。そして……
「見てのとおり、エルフで、ニクロスとサーリエという」
ふたりが、オレに向けて、一礼する。
確かに、エルフ特有の長い耳。
「このふたりは」とドネリー。「キラービー騒動の際、商隊と一緒にいた。奴隷としてな」
「奴隷?」
「違法な奴隷だ。エルフは貴族に高く売れるからと、拐っていくんだ。ゴウヨーク国では、全面禁止になっているが、いまだに取り引きが行なわれている。商隊も違法なことは知っていた」
「認めたのか」
「ああ。当然、捕縛した」
「そうか。それでオレに何をしろと?」
「サブ」とガーネス。「預かって欲しい」
「はぁ!?」思わず、声が裏返ってしまった。
「一時的にだ。オレはこれからエルフの里に行かねばならん」
「ふたりの安否を知らせにか? 魔導通信機を――」
「ないんだ。冒険者ギルドも商業ギルドもない。里の近場にはな。それに里は封鎖的でな。エルフ以外を受け付けない。ダークエルフもあまりいい顔をされないが、以前に世話になった経緯がある」
「そういうことか。だが、なんでオレのところに?」
「ほかに信頼できるのがいない。ランドルフが信頼しているなら、充分に信頼できる」
「まぁ、わからんでもないが」
ふたりを見る。服は着替えているが、軽く拭った程度にしか汚れが取れていない。あまり、いい扱いをされなかったのか、少し痩せこけている。お風呂と食事が必要だな。それと、安心か。
「わかった。どのくらい掛かる?」
「里までは、オレの足で一週間近く。話をして、今後の対応を近くの村から、通信するつもりだ」
「ふむ」と考え込む。
「何か問題か?」
「いや、人情として、ふたりの無事を彼らに早く知らせたいよな」
「当然」
「ふたりも早く戻りたいだろうし」
「まぁ」とふたりを見るガーネス。
「パーティーのみんなとの相談にはなるが、ふたりを一緒に連れていくことができるかもしれない」
「馬車か? それはありがたいが」
「ガーネスの力量を信じないわけじゃないが、ひとりで行かせて、心配するのも嫌なんだよ」
「いや、それを言われても」
「とにかく、相談させてくれ。ひと晩くらいなら変わらないだろう?」
ということで、ふたりとガーネスを連れて、屋敷に戻った。
まずは、妹のサーリエをキヨミに任せて、入浴してもらう。
マナミには、ふたりへの食事の用意を。
ガーネスがマナミに、エルフの好みを教えてくれる。
エルフには、ふつうの食事は味が濃いのだそうだ。それと肉は少なめにしないと、消化しづらいらしい。食べないわけではないが、一度に食べる量は多くはないのだそうな。
兄のニクロスには、ラキエルの世話をミリンダと一緒にやるように言った。
「どうして、あんなことを」とガーネス。
「お風呂に入れて、さっぱりさせたかった。あとで、ニクロスにも入ってもらう。それと、何もせずに世話になるのは、居たたまれないはずだ。それで仕事を与えた。ちょっと疲れさせたら、すぐに眠れるようになるだろう」
「なるほど」
案の定、食事を食べさせると、安心したのか、すぐにソファーで舟を漕ぎだした。
ガーネスがふたりを連れて、ふたり用に与えた部屋へ向かった。
そのあいだに、オレたちは話し合っていた。ウーちゃんやラーナも含めて。
「話は、そんなところだ。行くなら。ウーちゃんにお願いしたい」
「うむ、良いぞ。ふたりを早く里に送った方が良かろう」
「ありがとう、ウーちゃん。あとは、誰が行くか、だ。当然ながら、オレは行く」
これには文句が出ない。だって、ウーちゃんを従えているテイマーは、オレだから。
「人間は、入れないよ?」とダルトン。「エルフの里は、他種族の侵入を嫌うからね」
「やっぱりか。だが、里近くには行けるだろう?」
「縄張りの近くまでだね。それ以上は、有無を言わせずに射られても、文句は言えない」
「わかった。そこで拠点を設置して野営する形かな」
「いやいや。近くに村があるから、そこで待機だよ。宿屋はないけど、冒険者が野営を張るくらいは、許可をもらえるからさ」
「三人は、そこから?」
「そうなる。心配?」
「まぁな。魔獣もいるだろ?」
「それなりに。まぁ、子ども連れだと大変か。なら、途中までは護衛することになるね」
「帰りは?」
「大丈夫だ」とランドルフ。「元S級冒険者だぞ」
「そうだったな。ひとりならなんとでもなるか」
「心配なら、浮遊の魔導具を渡しとけば?」とダルトン。
「あぁ、それいいな。予備の分も用意しておこう」
「問題は」とランドルフ。「誰が行くか、だな」
オレたちが、ほかの面々を見る。
「オレら、留守番はイヤっすよ」とハルキ。
エイジもキヨミもマナミもうなずく。
ミリンダとケイナもラーナも。
「全員か」
「まぁ」とダルトン。「早めに到着したんだし。もうちょっと旅しても、気にしないけどね」
全員がうなずく。
「よし。それで行こう」
戻ってきたガーネスにも話した。
「全員で行かなくても――」
「決定事項だ」
「わかった。頼む」
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