546【知識の書と魔法と訓練と】
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2話連続投稿します(1話目)
今話は、少し短めです。
とりあえずの用意が済むと、リビングに行く。全員が集まっていた。オレが入っていくと、その全員がオレを見る。
「どこまで聞いた?」
ダルトンが口を開く。
「ぎっくり腰ってだけ。大丈夫?」
「ああ。慢性のぎっくり腰だよ。今日は安静にして、明日以降にようすを見て、徐々に動いてもらう」
「しばらく寝かせておいた方が、いいんじゃ?」
「いや。あんまり休ませると筋力が落ちて、回復が遅れる可能性があるんだ」
「へぇ」
「知識の書のおかげだけどな」
みんながそれを聞いて、納得している。
若干名、首を捻っている。そのうちのひとりであるケイナが手を挙げた。
「いいだろうか?」
「あぁ、知識の書のこと?」
うなずくのは、ケイナを含めたさきほどの若干名。
アイテムボックスから取り出して見せる。
「これが“知識の書”。これは一種の魔導具で、世界の知識を知ることができるんだ。ちなみに、所持者は勇者召喚された特定の人間ひとりに限られるので、ほかの人は読むことができない」
「それがなぜ、サブの手に」
「この屋敷を購入した際に、入手した。屋敷の主だった人が買い漁った本のひとつだよ」
「なるほど」
「もちろん、その買い主も誰も読めなかったがね」
「勇者召喚された人間ではないから、と」
「そう」
「それに」と手を挙げたのは、ミリンダ。「魔法の使い方が載っていたんですか?」
「いや。それはこの書を手に入れる前の話だ。魔法の使い方には、教本があってね。その教本を偶然にゴウヨーク国版とバグラール国版を手に入れたんだ。でも祝詞が微妙に違うから、不思議に思ってね。で、イメージして、短縮詠唱したら、できてしまった。それからあれこれやって、まとまったのが、今のやり方だよ」
「なるほど」
「でも」とエイジ。「サブさんの解析力がなければ、魔獣の魔法を身に着けることはできませんでしたよね」
「ああ」とハルキ。「ラキエルのホーミング雪投げとかユキオウたちの雪歩きとかな」
「なんだ、それは」とケイナ。
「ホーミング雪投げというのは」とエイジ。「雪玉を投げて、相手にぶつけるときに、相手が避けても追いかけられる魔法です。風魔法でコースを曲げるイメージですね。雪歩きというのは、雪の上をそのまま歩ける魔法です。これは水面でも歩けます」
「そんなことが」と驚いているケイナ。
「どちらも」とオレ。「ふたりには身に付けてもらうから」
「うちのパーティーは」とダルトン。「得意不得意に関わらず、身に付けることになってるんだ。全体訓練でやって、それぞれの能力を全員で把握してるんだよ」
「それは冒険者としては、ふつう、なのか」
「うちだけだろうね」と肩をすくめるダルトン。「なんせ、決めたのは、リーダーだから」とオレを見る。
「ひとりひとりの得意な能力の把握は、ふつうのパーティーならば、当然だ。しかし、それだけに頼るのは、危うい。例えば、魔法使いが魔法だけを使うとしよう。詠唱の時間、魔法使いは無防備になるから、護衛が必要になる。うちは詠唱の時間を短縮してるとはいえ、そのタイミングで襲われたら、ひとたまりもない。そこで、魔法以外の身を守る手段で、時間を稼げば、対応する余裕が生まれる」
「確かに、そのとおりだ」
「もちろん、護衛は必要かもしれないが、魔法使いの危機に際して、その護衛がすぐに動けない場合の時間稼ぎにはなる」
「うむ」
「本当は、全員のレベルを同じにしたいところだが、いくらなんでも、それはできない。魔力・体力・知力・対応力などが違うからね。それでも個々のそれを底上げし理解することで、連携にもつなげようという話だよ」
「兵士の訓練と同じだな」
「そうだな」
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