544【従魔側の理由】
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2話連続投稿します(1話目)
今話は、少し長めです。
そのあとで、彼らの馬車の具合を見てみる。後方の片側の車輪の輻(“や”。自転車で言うところのスポークの部分)が何本か折れてしまっている。
「こりゃ、交換だな」
「そうですねぇ」と困り顔のハンデル。
「交換用の車輪なんて……あるわけないか」
「はい」と苦い顔。
「騙し騙しでも、途中でほかの輻が折れるでしょうね」
ハンデルは顔だけでなく、肩も落とす。
馬車が一輪欠けるというのは、街なかならばまだしも、街道では脚を失うのと同様、命取りだ。
「ハンデルさん、応急処置になりますが、任せてもらえますか?」
彼が顔を上げて、オレを見る。
「直せるので?」
「応急処置程度です。オオベ町に着いたら、確実に交換してください」
「わかりました。お任せします」
彼の了承を受け、力自慢の男たちに馬車を持ち上げさせ、台座代わりのものを置き、その上に馬車を載せてもらった。
それから、車輪を車軸から外す。身体強化して持ち上げ、少し離れた場所に横たえて、シートを出して、作業をはじめる。
集中するからと、見物人を排した。
知識の書で手順を確認。やったことないからね。
あっ、こりゃ、輻の交換は、できないや。新しく輻を作ってはめれば、と考えていたけども。
車輪の構造がそれを許さないのだ。
車輪のまわりは、鉄製の板で覆われている。この鉄製の板は、馬の蹄鉄みたいなもので、木製の車輪を守っている。
これを外すと、またくっつけるのが大変だ。専門家でないと無理だろう。
ならば、どうする?
折れた輻をガイドにして、固定するしかない。
よし、方策は決まった。
作業開始。
夕食を挟んで、作業は二時間を越えた。
焚き火に近付く。
そのころには、みなすでに、就寝していた。不寝番のふたりを残して。と思ったら、こちらに気付いた人がもうひとり。
「終わりましたか?」と小さく尋ねてきた。ハンデルさんだ。
オレは、それにうなずいて応えた。彼の横に腰を下ろす。
「オオベ町までは保つと思います」
「よかった」
「朝までは、車軸に挿せませんがね」
「結構です」
そこからサクッと金額交渉。すでに些少の金子はもらうよと伝えておいたので、すんなりだ。多くはない。ハンデルさんも元手は少なくなっているそうだ。
朝まで、魔獣の襲撃はなく、オレも十分に眠れた。
車輪のようすをチェックする。念のために、朝食のあとに車軸にはめることにした。
朝食後に、はめて、力自慢のみんなに地面へと下ろされた馬車。
軽く横からゴンゴンと叩いて具合をチェックするが、こればかりは走らせてみないとわからない。
みんなが群がり、修復を見ている。
修復は、折れた輻のまわりに金属板を四方にあてがい、その上から細めのロープを巻いて、内側に植物性プラスチックを流し入れ、固めたのだ。
「オオベ町まではイケると思いますが、無理せずに行きましょう」とみんなに声掛ける。
みんなもうなずく。
ようすを見ながら、ゆっくりと進む。オレたちとベズーラたちも、急ぐ旅でもないのだ。それに目的地はすぐ近く。
ふつうの二倍の時間を掛けて、オオベ町に到着。途中止まることなく、無事に到着した。ホッとした。
ハンデルさんたちは、お礼を述べると、そのまま馬車の修理へと向かった。そこまでなら、保つだろう。
オレとダルトンとランドルフは、ベズーラたちとともに冒険者ギルドへと向かい、仲間たちは広場でテントを張ることにした。
冒険者ギルドでは、ベズーラたちとともにギルマスに会い、帰還と今回の仕事の報告がなされた。
そのあと、ダルトンとともに依頼掲示板を確認しておく。ランドルフは王都冒険者ギルドへの報告。
エールを飲みたいというダルトンを残して、広場に向かった。
テントの設営は終わっていたので、みんなに自由行動を許可した。もちろん、必要物資の購入も頼んで。たまには買い物を楽しませてやらないと。
テントに残ったのは、オレとウーちゃんとラーナ、それにケイナ。
「どうぞ」とラーナが湯呑みを差し出す。
礼をして、受け取り、すする。ホッと息が出る。
「ここに泊まるのは、今日だけですか?」
「みんなと相談だね。ミゼス町まではすぐだから、ここで小休止してもいいし、すぐに帰ってもいいし」
「そこは」とケイナ。「どういうところなのだ?」
「温泉街。でも薬効はないらしい」
「薬効がない?」
「それがわかって、客足が減ってるんだ。冬場は雪に閉ざされるし。あぁ、そうだ。雪掻きが主な活動になるから」
「雪掻きか。わかった」
「それからうちには、黒猫がいるから」
「黒猫。それは見てみたいな」
「ケイナさん」と笑むラーナ。「ふつうの猫を想像してません?」
「違うのか?」
「ええ。とても大きいんですよ。私が隠れてしまうくらいに」
「それはもはや猫ではないのでは?」
「キャスパリーグとか大黒猫とか呼ばれてる魔獣だな」とオレ。
「キャスパリーグ!?」
「おっ、そっちの名で知られてる魔獣なのか」
「森の探索を任務にした兵士が見たと報告していた。だが、すぐに幻のように消えてしまったそうだ」
「闇魔法だよ。瞬時に移動するから、突然消えたように見えるんだ」
「なるほど。そんな魔獣、どうやって」
「赤子を連れた母親がテイムした。キャスパリーグ的には、守ってやりたかったそうだ」
「守って?」と首を傾げるケイナ。
「母親が気丈に赤子を守ったのを気に入ったみたいだね」
「そのようなことが」
「どうやら、知能の高い魔獣は、そうした傾向があるようだよ。ウーちゃんしかりラキエルしかり。ホワイトタイガーしかり」
「考えたこともなかった」
「だろうな」
「ワシのことを話しておったか?」とウーちゃんが現れた。
振り返ると、頭にタオルを巻いている。お風呂上がりだ。ずっと入っていたらしい。
ラーナの横に座る。
「知能のある魔獣は、変わった理由で、テイムされるって話だよ」
「そうじゃな」
ラーナからお茶をもらっている。
「オレの従魔は、みんな、そうだからな」
「弱い魔獣が力で屈服して従魔になるなどと言うが、食いっぱぐれがなくなるから、じゃろうな。危険も少なくなるしな。群れにいれば、安心という話じゃ」
「考えてみれば、そうかも」
「ひとりでは」とケイナ。「不安だが、仲間の中にいれば、安心というのは理解できる」
「もちろん」とウーちゃんが続ける。「群れに入れば、それなりの役目を果たさねばならぬ。それはどの生物でも同じじゃ」
夕方には、全員が帰ってきた。
夕食は、ラーナが先に作ってくれていた。おかげで、誰もがホッとしている。家族・仲間が作ってくれたものは、たいてい美味しいからな。
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